ツインバードから2022年秋に登場した、2つの冷凍冷蔵庫。ドアを閉じたままでもガラス窓から内側が見える「中身が見える冷蔵庫」と、高さが164.8cmの「背伸びせず使える冷蔵庫」は、ネーミングもコンセプトもユニークな製品だ。

  • ツインバードが2022年11月に発売した「中身が見える冷蔵庫」。同時発売の「背伸びせず使える冷蔵庫」とともに、冷蔵庫の当たり前を見直し、使いやすさを最優先に本体サイズや機能を刷新した冷蔵庫で、片側のドアにハーフミラーを採用したモデルだ

どちらも「当たり前を疑う」ことを起点に、ユーザーにとっての本質的な使いやすさを徹底的に優先した冷蔵庫。サイズや容量はもちろんのこと、機能にも他と異なる特徴がある。ツインバードのデザイン担当者が、両製品の開発エピソードを語った。

冷凍室の拡大ニーズにあわせ「標準装備」を見直し

中型以上の冷蔵庫では標準装備といえる、自動製氷機能を省いたのも思い切った決断だ。両製品のディレクションを担当した、ツインバード 企画デザイン部でプロダクトデザイナーを務める神成紘樹氏は次のように話す。

「自動製氷機能の利用実態を調べてみたところ、『夏場は使うけれど冬は使っていない』、あるいは『最初は使っていたが今は使っていない』など、自動製氷機能を使っていない人がいるのも事実でした。その一方で、冷凍室の容量が足りないという家庭も多く、自動製氷機能を省くことで冷凍室の容量を増やす方向にしました」(神成氏)

ユニークなのは、自動製氷機能を省いた代わりに、独自の製氷皿を付属品として採用したこと。神成氏は、「『自動製氷機能はなくても、製氷皿は必要だよね』と議論しました。その中で製氷皿を道具として改めて見つめ直すと、水を入れにくかったり、垂れてしまったり、こぼしてしまったりと、実は使いづらいものになっているのではないかと気づき、オリジナルの製氷皿を開発しました」と語る。

  • 自動製氷機能を搭載しない代わりに、独自の製氷皿を付属。従来の製氷皿を道具として見直し、水がこぼれやすい、取りづらいといった難点をなくすために開発したオリジナルのアイテムだ

機能面で大事にしたこととして、「今のユーザーの利用実態を踏まえた上で、冷蔵庫の本質的な価値は食品を保管・管理すること。それに対して必要なものを付けていきたいなと思っていました」と神成氏。

「市場に高機能の冷蔵庫はいろいろとありますが、調査してみると、ユーザーがその機能の価値を理解していないこともあります。もちろん、その機能自体はあってもいいとは思いますが、何でもかんでも付けて足していくよりは、きちんと使いやすい箱にするのが大事だと考えて開発しました。庫内の部屋割りや棚にしても、使いやすさを押しつけるのではなく、自分でアレンジできたりする余白を残しておきたいという思想です」(神成氏)

外観のデザインについても、同様の哲学が投影されている。

「本体の形状に関しては、壁と同化するように、フラットで主張しないデザインを採用しました。余計なことをなるべくしないように、引いていくデザインにしています。従来は側面や天面にあったパーツも極力背面に持っていくなど、シンプルでノイズを無くすように心がけました」(神成氏)

一方で、「冷蔵庫は毎日触る道具」だからこそこだわった部分として「質感」を挙げる。

「例えば、取っ手のところは滑り止めにシボのテクスチャが入っているのですが、凹凸が深くなると汚れやすく、かつ汚れを取りづらくなってしまいます。道具としての使いやすさと、毎日使うものとしての清潔性を保つ塩梅を細かく調整しています。

(中身が見える冷蔵庫の窓に使った)ハーフミラーは、どうしても手垢がつきやすく、汚れも目立ちやすい素材です。何かを貼ったり塗布したりすると性能に影響してしまうので、そのままの状態です。中身だけでなく汚れも可視化することで、逆にこまめなお手入れや整理・管理につながることが大切だと考えました」(神成氏)

  • 壁と一体化することを意識した、全体にフラットなデザイン。手に触れるハンドル部分などは、掃除のしやすさを保ちつつも角を和らげる処理がなされている。冷凍室のドアの下部分をよく見ると少しえぐられた形状になっているが、野菜室の取っ手を少しでも高い位置にして開けやすくするための配慮だそう

本体カラーを決め打ちした狙い

本体のカラーは、「背伸びせず使える冷蔵庫」が白、「中身が見える冷蔵庫」が黒。神成氏は、カラーバリエーションを持たせず、この2色にしぼった理由を次のように説明した。

「背伸びせず使える冷蔵庫のカラーは、自社のラインナップやユーザー調査から決めました。白といってもさまざまなトーンがあります。薄型で壁に近い存在感ということで、生活空間になじむ、反射をおさえたフロスト調の柔らかい白を採用しています。

『中身が見える冷蔵庫』に関しては、ガラスのハーフミラーの反射率と透過率がキモになる製品。ふだんは見えないけれど、見たいときに庫内の明かりが透けて中が見える仕様です。そのハーフミラーガラスと合わせた色味として、黒のトーンが決まりました」(神成氏)

  • 中身が見える冷蔵庫のカラーは、庫内の明かりが消灯しているときにハーフミラーガラスとマッチする色味として黒に決まった

  • 中身が見える冷蔵庫は、ハーフミラーのドアの下側をタッチすると、庫内のライトが点灯する仕組み

開発期間としては4年間にもわたった、2製品の発売までのプロセス。プロデューサーとして、全体を通して関わった企画デザイン部の岡田剛氏は次のように振り返った。

「ずっと携わってきて感じるのは、『当たり前を疑う』ことがすごく大きかったこと。そこが原点だったのかなと思っています。大は小を兼ねるというのもそうですし、冷蔵庫は容量クラスごとに業界標準の幅が決まっているなどいろいろな制約がある一方で、その制約が本当にお客様にとって使いやすいものになっているか? とチーム全体で議論して、定量調査やグループインタビューなど客観的な調査で仮説検証を行い、答え合わせをしながら企画内容やデザインを整え、社内合意をひとつひとつていねいに積み上げました。結果、そこで研ぎ澄まされていき、我々が目指していた弊社らしいアウトプットに仕上がったと思っています」(岡田氏)

  • プロジェクトの中心メンバー。ツインバード 開発技術部の伊藤完也氏(左)、同 企画デザイン部の神成紘樹氏(中央)と岡田剛氏(右)

わかりやすいネーミングにもインパクトがある、ツインバードの2つの冷蔵庫。話題性から目に留まりやすい製品でもあるが、実物を前にすると冷蔵庫としては一風変わっていて、機能満載の華々しさはない。しかし、「これはこれで全然アリ」という説得力にあふれ、不思議な魅力がある。

ライフスタイルや世帯構成が多様化する中で容量や機能性を追い求め、画一的に発展してきた日本の冷蔵庫市場に一石を投じる、肯定的な意味での“問題作”かもしれない。