ツインバードが2022年秋、2つの冷凍冷蔵庫を発売した。ひとつは「背伸びせず使える冷蔵庫」と名前が示すとおり、高さを164.8cmに抑えた冷蔵庫。もうひとつの「中身が見える冷蔵庫」はドア部分にガラス窓を設け、閉じたままでも庫内が見えるという異色の製品だ。
今回はツインバードのデザイン担当者に、製品開発エピソードを聞いた。
当たり前を疑ってたどりついた「カタチ」
両製品に共通している開発ポリシーは、「当たり前を疑う」。一般的な冷蔵庫より高さを抑え、かつ奥行きも浅くしたのは、ユーザーにとっての本質的な使いやすさを追求した結果たどり着いたものだという。
企画・開発の経緯について、ディレクションを担当したツインバード 企画デザイン部 プロダクトデザイナーの神成紘樹氏は次のように説明した。
「食材の買い忘れや二重買いによるフードロスなど、冷蔵庫内の食べ物に関する問題を解決しようと考えたとき、シンプルに『中身が見えたらいいよね』という発想からスタートしました。
冷蔵庫の業界標準サイズを改めて見直すと、容量確保を目的に高さを伸ばし、奥行きは深くなっています。その結果、中が見えにくかったり、手が届きにくかったりして、使いづらいハコになっていました。それが昨今の社会課題の1つでもあるフードロスなどにもつながってしまっているのではないかと。そこで『中身が見える』ことを最大化するため、形を整える必要が出てきました」(神成氏)
両製品とも、本体サイズは幅68.5×奥行き63.0×高さ164.8cm、定格内容量は354L。主に2人世帯をターゲットにしている。同容量のクラス平均からすると、高さは11cm、奥行きは3cmほど抑えた外形寸法だ。
神成氏は、「最初は(従来の冷蔵庫と同等の)幅60cmで中身が見える冷蔵庫を作ろうとしていました。しかし、容量を確保しようと思うと奥行きを深くするか、高さを上げるかが必要になり、結局は使いづらく見えづらいカタチになってしまいました」と、開発時のジレンマを明かす。
大幅にサイズを変えたことで、設置場所はもちろんのこと、搬入・搬出経路の問題にも直面した。
「従来の冷蔵庫が幅60cm、奥行きは60cm後半ほどあるのに対し、この冷蔵庫は幅こそ広いものの奥行きが63.0cmと短いので、搬入出に関しては縦横を反転させれば問題ないと考えました」と神成氏。しかし、設置スペースについては事前の調査を徹底的に行った。
「1つ目はアナログな手法ですが、都心の2人暮らし用で、入らないであろうと想定されるマンションやアパートの間取り図を300~400件ほど引っ張ってきて、同じ縦横比率で玄関先から設置場所まで運んだ場合のシミュレーションを徹底的にやりました。
その結果、80%ぐらいの家には入るだろうとなりました。イレギュラーな間取りの物件も、施工を担当したビルダーにヒアリングしたところ、古い建物は無理かもしれないが、新しいところはだいたい入るだろうとの回答が多かった印象です。1万人を対象としたアンケートも実施し、70%が置ける、23%がわからない、3%が置けないという結果となったことから、社内でも合意に至りました」(神成氏)
中型クラスの冷蔵庫としては珍しく、「フレンチドア」と呼ばれる左右両開き(観音開き)のドアを備えているのも特徴。「中身が見える冷蔵庫」では、右側だけにハーフミラーの窓を設置している。両製品にまたがる開発・製造過程において、これらの仕様がさまざまなハードルを高くした。
「当初は左右両面にハーフミラーを採用し、庫内全体を見渡しやすくすることを考えていました。ですが、そうするとトレードオフ的にドアポケットを付けられず、使いにくくなります。(窓の面積が増えると)省エネ性能の面でもマイナス要素になるので、どちらも両立させるには片側だけのほうがいいとの結論になりました」(神成氏)
「冷蔵庫に窓をつける」挑戦の裏側
窓のサイズも、見渡しやすさと性能を両立させることが難しい部分だ。
「右側の窓を大きくすればするほど庫内がよく見えるようになるのですが、そうすると左側のドアが小さくなり、使いづらくなってしまいます。もちろん(窓の面積が)省エネ性能も大きく左右します」(神成氏)
この問題を解消するために、構造にも工夫を凝らした。設計を担当した開発技術部の伊藤完也氏は次のように明かした。
「熱の流出を抑えるために、窓のサイズを小さくすることを考えたのですが、そうすると庫内が見えづらくなってしまうので限界がありました。そこで3層のガラスを使って厚くすることで、できるだけ従来のウレタン(断熱材)の性能に近づけることを考えました。もちろん断熱性はウレタンにはかなわないので、それ以外の部分でカバーしようと、中型冷蔵庫ではあまり使われていない真空断熱材を本体の一部に使って省エネ性能を担保しました」(伊藤氏)
窓の大きさや厚さによっても、庫内の見え方は変わってしまう。検証は最初に3Dデータでシミュレーションし、その上で発泡スチロールで製作した原寸大モデルを用いて調整を繰り返したそうだ。
「発泡スチロールの試作モデルはいくつも作りました。窓のところをカットして、『これだったら見えるかな』と設計担当者とやり取りしながら、落としどころを探っていきました」(神成氏)
354Lの定格内容量のうち冷凍室は103Lを確保している。中型クラスの製品※としては、最大級の冷凍容量を誇る。(※2022年10月時点 310L~360Lクラス独立野菜室を持つもの 国内販売 ツインバード調べ)
「冷凍室が大きければ大きいほどしっかり冷やさなければならないので、省エネ性能の条件をクリアするためには、断熱の厚みが必要になります。
設計の基準として、冷蔵室・冷凍室の容量に合った断熱材の厚みが決められています。今回の製品は全体のプロポーションの割に冷凍室が大きいのですが、その基準に合わせると103Lがギリギリの大きさでした」(伊藤氏)
冷凍室は冷蔵室の下にあり、一番下に野菜室を配置。神成氏によると、ここにも使いやすさを優先した確固たる理由があるそうだ。
「冷蔵庫の心臓部にあたるコンプレッサーは、最下段のケースの背中側に設置されています。冷凍室を一番下にすると奥行きが短くなって容量を確保できません。そのため、103Lの容量で冷凍室を一番下に持ってくると、冷凍室が縦に長くなって、冷蔵庫全体の半分が冷凍室みたいな見え方になってしまいます。
そうなると見た目的にも不自然で使いづらいので、冷凍室は真ん中に配置しました。使いやすさを大事に、冷凍室の容量を確保しつつ、野菜室は下段にすることで、一覧性を高め管理しやすいよう設計しました」(神成氏)
「大は小を兼ねる」と言わんばかりに、たくさん入ることが作り手・買い手双方にとって優先されていた冷蔵庫。ツインバードは必ずしもそのセオリーが正義ではないとして、冷蔵庫の当たり前を見直した。
窓を設け、製品寸法を大きく変えるといった大胆な挑戦。それらを冷却性能などの要件とも両立させるのは、想像を超えるほどに一筋縄ではいかないプロジェクトだったようだ。