カドーが2022年秋に一般発売したヘアドライヤー「baton(バトン)」。陸上競技で使用されている公式のバトンと同じ直径38.5ミリのスティック型を実現したニューフェイスは、発売までに5年以上を費やした渾身の商品だ。
今回は、baton開発秘話を代表取締役社長の古賀宣行氏と、取締役副社長/クリエイティブ・ディレクターの鈴木健氏に聞いた。
省電力化の副産物でスペック向上
ユーザーの使いやすさを考慮し、陸上競技用バトンとほぼ同じ直径にしたbatonだが、こだわったのはそこだけではない。本体の重さは298gと軽量。より握りやすくするために、重心のバランスにも気を配った。
「ユーザーが軽いと感じるためには、重心をできるだけ手で握る部分の近くに持って行くことがポイントになります。batonに内蔵した一番重い部品はモーターなので、手で持つ位置にレイアウトしています」(古賀氏)
鈴木氏によると、アイデア段階では三角柱のスティック状デザインも考案していたそう。というのも、ノーズのあるドライヤーには、ハンドル部分が円筒ではなく三角柱になっているものもあるためだ。
「(ドライヤーで)髪を乾かすとき、本体を回転させたり動かしたりするので、ハンドルが三角柱になっていると手が滑らず握りやすいんです。ただ、batonの中に入っているのは全部丸い部品なので、三角柱にするとデッドスペースができてしまいます。また、スティック状で三角柱にするのは、かえって握りにくいかもしれないと見送りました」(鈴木氏)
通常、ドライヤーの仕様では、1.5立方メートル/分以上の風量が「大風量」と呼ばれる。batonの風量は2.0立方メートル/分で大風量に該当するが、特筆すべきは定格消費電力だ。
大風量ドライヤーのほとんどが1,200~1,300Wが主流であるのに対して、batonは800Wとかなりの低消費電力設計。軽量コンパクト、かつ高い風量を低電力で実現した要因のひとつには、ヒーターの温度があった。
「一般的なドライヤーのヒーターは、最高温度が100~110℃になるように設定されています。昔のドライヤーはあまり風量が大きいものがなく、熱で乾かすという発想でした。髪によくないとわかってはいながらも、速く乾かすために温度を上げ、切り替えスイッチで冷風を出して温度を調整する乾かし方をしていました。
ヒーターの温度を110℃まで上げると、当然ながら電気も消費するので1,200W前後が必要になります。一方、batonは最高温度を85℃に設定したため、消費電力が抑えられているのです」(古賀氏)
古賀氏によると、バトンの消費電力を800Wに抑えられたのは、ヒーターの最高温度を85℃にしたことに加え、スティック形状によって熱ロスを極限まで減らしたことが大きかったという。
「当初、batonもノーズレスドライヤー『BD-E1』と同じ1,000Wを想定していました。しかし、実際に作ってみたら思っていた以上に熱ロスがなく、最終的に800Wで製品化できました」(古賀氏)
batonは風の吹き出し口を、正面の上部、長手方向に設けている。だが、開発段階では吹き出し口は水平の向きだったそうだ。
「スタイリストさんに使ってもらって意見をいただいたところ、水平方向だと吹き出し口の面積が小さすぎて、ブローするときに効率が悪いとのことでした。ブラシのアタッチメントを付けることもあり、最終的に長手方向にして前面から温風が出るように変更しました」(古賀氏)
「ノンツイスト機構」と呼ぶ、コードが360°回転して絡まりを防ぐ構造を採用しているのも特長だが、これは低消費電力化の「副産物」だった。
「(コードが回転する構造は)ヘアアイロンや昔のカールドライヤーでもありましたが、ドライヤーでコードが360°回る製品はこれまでほとんどありませんでした。コードをスリップさせながら電力を供給する仕組みですが、電圧や消費電力が高いとその部分が劣化し、故障が多くなります。以前からドライヤーでも1,000Wを下回ればできる可能性があると言われていましたが、今回800Wを実現できたのでチャレンジしてみました」(古賀氏)
batonには、専用のブラシアタッチメントが付属している。マグネットで吹き出し口にワンタッチで装着すると、batonをカールブラシとしても使える二刀流だ。
「ドライとスタイリングの2in1仕様も目指していたところでした。今回、この形状だったらできるなと。アタッチメントはいろいろなかたちを考えていて、今後も実用的で優れたものを用意していきたいと思っています」(古賀氏)
製品に通底する「カドーらしさ」とは
陸上競技用のバトンを模した軽量・コンパクトな本体に、大風量・低消費電力、ブロードライヤーとの2in1仕様など、ドライヤーとしての機能面および性能面において、高度な離れ業を行って生まれたbaton。
従来製品と同様に、高級感があり上品でスタイリッシュなデザインも消費者を惹き付けている。カドーの製品デザインのポイントを、鈴木氏は次のように語った。
「製品を横断して、色や金属のような質感を合わせています。例えばボタンを小さくして隙間から光らせるなど、電源の形状や操作部にも気を配っています」(鈴木氏)
さらに、デザインとしての「カドーらしさ」について鈴木氏は、次のように考えている。
「カタチを機能で全部説明できるところがカドーらしさだと思っています。今回、なぜバトン型になったのか? と問い直すと、創業時から続くコンセプトである使いやすさを追求し、まずはノーズをなくして、それをもっと尖らせていったのがこの形状といえます
ノーズレスドライヤー(カドークオーラ『BD-E1』)のときにも収納性にこだわりましたが、batonは円筒形でムダのない、コンパクトでしまいやすい形にしました。直径も、握りやすさという点からこの直径になっています。すべてが『機能美』なんです。すべてに共通点があると思っていただけるのは、機能をきちんとかたちにしているから。機能を突き詰めた結果、デザインの本質としても共通したものになっていると思います」(鈴木氏)
バトン型ドライヤーを生み出すため、カドーでは従来のヘアドライヤーを設計から部品に至るまで見直した。その結果、カタチや軽さだけでなく、これまで不可能だった回転コードの実装という、技術のブレイクスルーにまでつながったというのは実に興味深い。
さらに、batonは新たなアタッチメントの開発といった発展性も秘めている。ドライヤーの新たな可能性への挑戦に、今後も注目したい。