サンスターが2019年から展開している「QAIS(クワイス)」シリーズは、室内における空気の質の問題解決をミッションに立ち上がった新ブランド。これまでに除菌脱臭機を3製品、そして除菌消臭スプレー、歯科医用フェイスシールドを発売してきた。
2022年9月には、ペットに特化した除菌脱臭機「QAIS -air- 04A1J(for Pet)」を発売。今回は、QAISシリーズのなりたちについて、デザインの観点から開発秘話を聞いた。
サンスターといえば、オーラルケア製品をはじめ、化粧品や健康食品の分野で一般消費者にとってなじみ深い企業。だが実は、1932年の創業時は自転車部品やパンク修理用ゴム糊の製造販売業だった。その後、ゴム糊を入れていた金属チューブにハミガキペーストを入れて発売したところ好評となり、現在の事業につながっている。
一方、自転車用部品やゴム糊の事業は、オートバイ・自動車用の金属部品と自動車・建築・電子機器用の接着剤・シーリング材などからなる生産財事業に発展。サンスターが一般消費者向けに家電事業を展開したことを意外に思うかもしれないが、土壌は十分に整っていたのだ。
配慮をカタチにした、脱臭機にみえない脱臭機
サンスターグループ E-サイエンス事業部 商品企画部の青山幹司氏によると、ブランド立ち上げのきっかけとなったのは、医療現場からの声。
「医療現場には換気ができない環境もあり、病室の患者さんのニオイなどが課題となっています。脱臭機を人のそばに置くというのはデリカシーに欠けるところもあって、解決しにくい問題となっていました。
この問題に着目し、まずは脱臭機に見えない製品を作っていこうと。そして、静音性と設置性を兼ね備え、人のそばに置いてもストレスにならない製品を開発しました。室内の空気を改善してストレスのない空間を提供する、“カラダがよろこぶ空気。”がブランドのコンセプトになっています」(青山氏)
QAISシリーズ第1弾として、2019年9月に開発されたのが業務用の「QAIS -air- 01」。医療や介護業務の妨げにならないよう、使用場所に応じて壁や天井に取り付けられる脱臭機だ。
2020年8月には、初の家庭用機種として「QAIS -air- 03」を発売。同年10月には病院・介護施設向けに、移動が容易なキャスタースタンド型の「QAIS -air- 02」を発売した。
「air02の基本形態はair01と同じですが、必要なときに必要な場所へスムーズに移動できるよう、キャスターをつけました。また、空気を吸引する部分を鼻の高さに持ち上げるポールを付けたユニークなデザインが特徴です。
air03は家庭用ということで、軽量・コンパクト化と静音性を重視しています。より一層インテリアに溶け込ませるため、時計・ペンダントライト、スタンドライトにもなるアクセサリーも発売しました」(青山氏)
サンスターの技術が実現したフォルムと塗装
発売時期は異なるものの、第1弾から第3弾までの製品開発は同時に進行した。いずれの製品も医療機器・ヘルスケアデザインの第一人者であるインダストリアルデザイナーの大浦イッセイ氏に依頼し、デザイン性にも力を注いで開発した。
青山氏は、大浦氏にオファーした理由を「医療現場をよくご存知であることから、大浦さんにお願いしました。患者さんや介護者のそばに置くには、脱臭機に見えないものにする必要がある。それでいて、動線を邪魔しないこと。そうした課題をデザインによって解決できるのではないかという我々の思いともマッチし、コンセプトを具現化していきました」と説明した。
3製品の外観におけるデザインの共通項は、丸みのあるフォルム。「病院や介護施設などにゴツゴツとしたものがあると、視覚的にとがった印象を与えてしまいます。そこで、優しさを表現する方法として、“丸み”を軸にしています」と青山氏。
先述のとおり、サンスターグループは自動車や建築向けの接着剤・シーリング材と、オートバイや自動車向け金属加工部品などの産業向け製品・サービスをグローバルに展開している。air03に生かされた技術について、青山氏は以下のように語った。
「air03では金属をつなぎ目のない丸いフォルムに加工していますが、これは非常に難しいことで、弊社の強みである金属加工技術の賜物です。内部の光触媒もシーリング材で培ってきたケミカルの技術を活かしており、これまで培ってきた技術の結晶と言っても過言ではありません。素材はアルミ合金にこだわって美しさを追求しました。
また、表面には三層コーティングの焼き付け塗装を施していますが、これは自動車の塗装と同程度のものです。光の当たり方で表情が変わるので、和洋どのテイストのインテリアにも調和します。生産性を考えると、他社さんがここまで塗装にこだわるのはなかなか難しいかもしれません」(青山氏)
サンスターの脱臭機という、意外に思えた異業界への進出。それは、以前から関わりの深い医療・介護業界の要望に応えるかたちで派生した新規事業だった。
そして、一見奇抜なようにも見える、これまでにはないひと味違ったデザインまでもが、実は現場の需要から生まれたものなのだ。