パソコンの周辺機器メーカーとして知られるエレコムが、初めて手がけた白物家電のIHホットプレート「HOT DISH」。2022年1月19日からクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行販売し、およそ1時間で目標金額を達成するなど、期待と注目を集めている。
今回は、エレコム 商品開発部デザイン課のプロジェクト中心メンバーを直撃。白物家電のプロジェクト立ち上げの経緯からはじまる、HOT DISH誕生秘話を伺った。
「エレコムの家電」が生まれたきっかけ
プロジェクトが立ち上がったのは2018年。エレコム 商品開発部 デザイン課 デザイナーの佐伯綾子氏は、社内に発足したデザインチームが、新領域の家電開発プロジェクトにつながったと振り返る。
「2018年にデザインチームが発足したのをきっかけに、新規事業として家電製品の提案を決めました。当初のチームメンバーは全員ひとり暮らしだったことから、『自分たちが本当に欲しい、ひとり暮らし向けのモノを作ろう』となりました」(佐伯氏)
家電製品の新規プロジェクト第1弾として選ばれたのは、IHホットプレート。佐伯氏は「もちろん、さまざまな案がありました」と前置きしつつ、調理家電のIHホットプレートが選ばれた経緯と理由を明かした。
「『生活を豊かにするもの』というテーマのもと、洗濯機や照明器具など、さまざまな候補を検討しました。最終的に白羽の矢が立ったのは、これから増加が見込まれる単身世帯に向けた調理家電。私たち自身もひとり暮らしを経験する中で、自宅でもおいしいものを楽しみたいとの思いがありました。ですが、従来のいかにも『機器っぽい』製品ではなく、もっと暮らしやインテリアに溶け込むものがいいよね……と話し合い、『お皿みたいなホットプレート』にたどり着きました」(佐伯氏)
続けて、同じチームのデザイナー・鹿野峻氏は、ホットプレートに決めた理由をこう補足した。
「ホットプレートがいいなと思ったもう1つの理由は、作っている時間も食卓にあって、楽しく豊かな時間につながっていること。例えばフライパンだと、食卓とは切り離されたキッチンで調理しますよね。さらに、一度しまうとそのままになりがちなホットプレートを、日常で使えるようにと考えた結果、食器も兼ねたホットプレートといったアイデアにつながりました」(鹿野氏)
開発方針は「機器っぽさをなくす」こと
こうしてたどり着いた、そのまま食器としても使えるホットプレート。方向性は決まったものの、まだ世の中にないモノをかたちにするのは、すべてが手探りだった。
「まずは、大きさの検討から。一般的なディナープレートはだいたい直径が26センチなので、発泡スチロールで試作を始めました。当初から、IH本体は(使っているときに)見えないようにしたいと考えていました」(佐伯氏)
「この手の製品では、IH本体にまったく質感の違うプレートが乗ることも多いです。しかし、デザイン上のこだわりとして、お皿とIH本体が一体となるようにしたかったんです。全体のまとまりを考えて、上下の継ぎ目を極力減らし、『機器っぽさ』をなくしていくことを目指しました」(鹿野氏)
試作段階では、実際にさまざまなお皿を購入して比較・検討。最終的に選ばれたのは丸い皿だった。
「四角いお皿も考えましたが、食卓に並べたときのたたずまいは、やはり丸くて縁のあるかたちがしっくりきました」(鹿野氏)
エレコムが初めて手がけた白物家電「HOT DISH」、ホットプレートのプレートがそのまま食器として使えるという大胆な発想は、「生活を豊かにするために、自分たちが欲しいと思うものを作りたい」という、消費者起点の想いだった。
技術力の訴求に情熱が注がれがちな業界関係者にも目からウロコな、新しい気付きとインパクトを与えた逸品ではないだろうか。