2021年9月発売の「Zuvi Halo コードレスヘアドライヤー」(以下、Zuvi Halo)。コードレスで使えることに加え、熱ではなく光と風で乾かす独自の方式が注目を集めた。2022年1月には、第2弾の製品として電源コードを追加した有線バージョンが登場している。
今回は、Zuvi Haloにプロダクトデザインの視点で着目。Zuvi Japanの代表を務める川中良之氏に、製品が生まれた経緯や狙い、開発エピソードなどについて伺った。
ドライヤーのあり方を根本から見直し生まれたZuvi Halo
Zuviは2019年前半に香港で立ち上がった家電系のスタートアップ企業で、アメリカの投資会社などが出資している。そんな企業が、最初に取り組む製品にドライヤーを選択したのは「ドライヤーには大きな課題があると認識した」ためだった。
「Zuviは、課題意識に対するソリューション企業として、サステナビリティの時代に誕生しました。弊社が注目した課題は『ヘアケア』です。
現在広く使われているドライヤーの基礎原理は、19世紀末に誕生したときから大きな変化がありません。大量の電気を使い、熱線コイルで取り込んだ空気を熱して排出します。過度な熱が髪や頭皮にダメージを与えてしまうことは広く知られるようになり、今日では高価格帯のドライヤー製品を中心として、ダメージをいかに最小限に抑えるかが重要になってきました。
Zuviが目指したのは、既存の技術に固執せず、次世代の乾燥技術を確立すること。ダメージを与えずに健康的な髪の状態を維持し、さらにケアしていくこと。髪のダメージに悩んでいる人に対してどう取り組むか。また、いかに省電力化と両立するか。そうした部分に大きな可能性を見出し、ヘアケアのプロセスも含めて変えて行きたいと考えました」(川中氏)
先行して発売したコードレス版では、特許技術「LightCare」を採用。自然光による乾燥原理に着想を得た光と風による髪の乾燥技術で、仕組みは有線版と共通だ。その原理について、川中氏は次のように説明する。
「自然にある乾燥原理にたとえて言うならば、雨が降った後に太陽が出て、道が急速に乾いていく現象です。単に太陽の熱だけで乾くのであれば、冬は夏よりも乾くのが遅いはずです。先日雪が降ったときもそうでしたが、実際は(季節によらず)けっこうすぐに乾きますよね。科学的に言うと、紫外線をはじめ光の波長がさまざまある中で、温かいと感じる部分の光が、水分子の蒸発を促進する原理です。
それと同じように、光で髪の表面の水分を集中的かつ効率的に乾かして、さらに強い風で乾燥を加速させるのがZuvi Haloの仕組みです。高温の熱風を浴びせなくても乾かせるため、髪の内部に水分が多く残って潤うことで、滑らかさやツヤが出ます。また、ヘアカラーの退色スピードを抑えられるのです。Zuviでは、この光の乾燥原理を技術的に再現するための仕組みに対して、100件以上の特許を取っています」(川中氏)
Zuvi Haloは、2021年9月にコードレス版を発売し、2022年1月に有線版を発売した。コードレス化は後発製品で加わることが多いイメージだが、その理由と意図を次のように明かした。
「もちろん、当初から有線版のアイディアは存在していました。ただ、Zuviにとって第1弾の製品発表では、コードレス版を通じた、Zuviが成し遂げたいメッセージの発信に注力しました。長年変わらなかった髪の乾燥原理を根本から変えること、環境に配慮した低消費電力だからこそ、コードレス化も図れることをお伝えしたかったのです。洗面所以外の好きな場所で使えるため、ドライヤーはさらに進化できると感じていただけるかと思います」(川中氏)
軽量化や省電力化など、複数の壁を超えて製品化
電力消費に関する問題への取り組みは、Zuviにとって大きな挑戦だと語る。
「熱で乾かすドライヤーの問題として、もう1つ大きなものは電力消費です。近年では、自動車分野のEV化が注目されていますが、省エネはドライヤーにおいても課題と考えます。ドライヤーの部品の中で、ヒーターが最も電力を消費します。髪を過度に熱することなく、電力も浪費せず、高エネルギー効率の技術を追い求めた結果、光と風で乾かす発想にたどり着きました。日本において家庭用ドライヤーは1,200Wのモデルがハイパワーと位置付けられていますが、電圧の違いから、他国と比べるとかなり低いぐらいです。日々使うドライヤーの省エネ化を世界レベルで実現できれば、環境への貢献度は非常に大きくなるのです」(川中氏)
コードレス化を実現するため、軽量化にも取り組んだ。本体にバッテリーを搭載すると重くなるのが一般的だが、コードレス版の重さは630グラム。市場に流通しているハイエンドなドライヤーと同じレベルの重さを目標にした結果と語る。バッテリーはもちろん特注品だ。
そして部品の軽量化以外にも複数の問題に取り組む必要があり、1つは「放熱」だった。
「バッテリーはハンドル部分に搭載したのですが、使っているうちに熱くなることを避けるため、バッテリーを冷ます仕組みを考えなければなりませんでした。2カ所ある吸入口のうち、1つをハンドルの底部に設置し、風を取り込みながらバッテリーを冷ます一挙両得の仕組みで課題を解決しました」(川中氏)
「ほかにも、19分で90%まで充電できる急速充電に対応したり、さまざまな場所で使えるコードレスならではの課題もありました。さらに、風量も重要です。消費電力290Wで強風を出すために、自社開発の10万500回転/分のハイパワーモーターを採用しています。風の強さに皆さん驚かれるのですが、実は風を生み出すのにそれほど電力は使わないのです」(川中氏)
もう1つの課題は、バッテリーの持続時間。コードレス版Zuvi Haloの連続駆動時間は、日常の乾燥でおもに使うモードで13分、最大の冷風モードで34分となっている。
「以前から、コードレスのヘアドライヤーは市場に存在していました。しかし、従来型のドライヤーと同じ原理を用いていたために、バッテリー式の制約の中で長時間使えるようにするには、風の温度を低くするしかありませんでした。
従来型の技術には、消費電力の部分でエネルギーロスが大きいという課題があります。本体内部で生成した高温の熱風は、髪に達するまでに冷めるだけでなく、空気中に分散します。洗面所で使っていると周囲の温度が上がって暑くなるのはそのせいです。電力消費の観点から言うと、燃費の悪いクルマのようなものです。
Zuviでは、バッテリーを効率的に長時間使うため、電力効率を高めて、バッテリーを最大限に有効活用できるよう試みました。当然、バッテリー容量を上げれば利用時間を伸ばせますが、本体の重さに影響するので試行錯誤しましたね」(川中氏)
また、コードレス版には15個のセンサーを内蔵。川中氏はその理由を、利用シーンの多様さに対応するためと説明する。
「どこへでも持っていけるコードレスなので、さまざまな利用シーンを想定しています。ジャイロセンサーを搭載し、傾きによって使われていないと判断したときには自動でオフになる機能や、空気を取り込むところがふさがれたり、異常を検知したりしたときには安全装置が働く機能を搭載しました。使用環境の温度・湿度を検知して、光の出力を調整することもできます」(川中氏)
コードレス式のヘアドライヤーとして登場し、注目を集めた「Zuvi Haloコードレスヘアドライヤー」。この製品が誕生した背景には、サステナブルという社会課題の解決に向けた、意欲的な挑戦が込められていた。