2022年1月に正式発売となった、popInの「Aladdin Vase」。「Vase」という名が示す通り花瓶をモチーフとした、卓上タイプのプロジェクターだ。

  • popIn Aladdin Vase

    popInの据え置き型プロジェクター「Aladdin Vase」。プロジェクターである以前に、インテリアとして「置きたくなる」「触りたくなる」ことを目指して開発された異色のプロダクトだ

popInの代表的な製品といえば、2018年の発売以来、人気を誇るシーリングライト一体型プロジェクター「popIn Aladdin(ポップイン アラジン)」。その後継機や低価格版のリリースによって、製品ラインナップを拡充してきた。しかし、Aladdin VaseはpopIn Aladdinとはまったく異なる、完全新作といえる製品だ。

そんなAladdin Vase発売の狙いを、popIn代表取締役の程 涛(テイ トウ)氏に聞いた。

「置きたくなるデザイン」を追求

Aladdin Vaseのデザインは、著名プロダクトデザイナーの柴田文江氏が手がけている。popIn代表取締役の程 涛氏は、柴田氏の起用理由について、「インテリア性がこれまで以上に重要だった」ことを挙げた。

「市場にはすでにたくさんのプロジェクターがありますが、普及が進まない理由の1つに配線や設置場所の問題がありました。そんな中、popIn Aladdinはシーリングライトとプロジェクターを一体にしてそれらの問題を解決し、消費者の皆さまに受け入れてもらえた製品です。

一方で、今回作りたかったのは、それ自体が空間に存在する意味のあるもの。つまり、インテリアのオブジェとして置きたくなるものであることが大前提。それでいて、実はプロジェクターの機能を持ったものであることを目指しました」(程氏)

そうした設計思想である以上、デザイン性は外せない要素。これまでのモノづくりのプロセスとはうって変わって、今回はデザイン先行で開発を進め、「プロダクトのメーカーに依頼して製品を作り上げていった」(程氏)とのこと。

開発プロセスを変更したのは、「プロジェクターを使わないときにも意味があるような製品にしたい。そのためには、暮らしの中に置いておきたい、欲しくなるものでなければならない」との思いから。

  • 程氏が「空間にそれが存在すること自体に意味を持たせたかった」と話すAladdin Vase。テーブルの上に置かれた様子も、初見ではおよそプロジェクターであるとは思わないたたずまいだ

    程氏が「空間にそれが存在すること自体に意味を持たせたかった」と話すAladdin Vase。テーブルの上に置かれた様子も、初見ではおよそプロジェクターであるとは思わないたたずまいだ

初めての挑戦にあたり、以前から親交のあったジャーナリストの林信行氏に相談。プロダクトデザインに精通した林氏から「この人しか思い浮かばない」と名前が挙がったのが、柴田文江氏だった。さっそくコンタクトを取ったところ、柴田氏は快諾。プロジェクトが本格的に始動した。

程氏によると、柴田氏に依頼をするにあたって、最初にpopIn側からオーダーしたのは「コンパクトであること」。そして、想定している利用シーンとしてベッドサイドを設定し、「毎日ベッドサイドで使えるもの」と伝えたそうだ。

「当初、私の中でおぼろげにイメージしていたのは、ランタンのようなデザインでした。中身に関しては、popIn Aladdin初代モデルと同じ、上下に可動するレンズを搭載することは決めていました。加えて、部屋のインテリアとしてライト機能は必須なので、絶対に欲しい機能としてリクエストしていました」(程氏)

インパクト大の本体カラー、採用の理由

こうした要望を伝えた後、柴田氏から提案されたのは「花瓶」をモチーフとしたデザイン。しかも、本体カラーをキャメルブラウンに限定した意外なものだった。程氏は、「花瓶をモチーフとしたデザインに関しては、最初からスッと受け入れられましたが、色に関しては少々悩みました」と打ち明ける。

「第一印象は、インパクトがありすぎるかなと思いました。ですが、自然と愛着が湧いてくるカラーでもあったんです。そこで、ホワイトの試作機も実際に作ってみたのですが、それと比較してもキャメルブラウンのほうが愛着が持てたんです」(程氏)

  • 柴田氏から提案されたデザインスケッチ

    柴田氏から提案されたデザインスケッチ

柴田氏からは、デザインの背景について、「プロダクトを最初に目にしたときのイメージが大切」と説明を受けた。

「カラバリは後からいくらでも追加できますが、『消費者が製品を初めて目にする体験』は一度きり。そのとき、いかにインパクトが出せるかが重要なため、まずはプロダクトを象徴するカラーを出したほうがいいと(柴田氏から)伺いました。

このキャメルブラウンという色は、暖色系・寒色系のどちらの色味ともなじみやすく、さまざまなインテリアとの相性もいい。それでいて、個性を出せるカラー選択だったんです」(程氏)

オンラインで行われた製品発表会の席などで、Aladdin Vaseを愛でるように優しくなでながら、「ついつい触りたくなる」と何度も話す姿が印象的だった程氏。改めて「つい触りたくなる」理由を訊ねると、次のように語った。

「ゆるやかなカーブとツルツル感。まるでペットのような手触りが、人間の本能に刺さるのではないかと思っています。この絶妙なカーブこそ、プロダクトデザイン界隈では『文江さんカーブ』とも呼ばれる、柴田さんのデザインの真髄です。最初、工場からは(量産時に発生する)2ミリの違いを調整するのは無理だと言われたのですが、なんとかお願いして、『文江さんカーブ』を実現してもらいました」(程氏)

Aladdin Vaseは、500mlペットボトル程度のサイズ感ながら、最大100インチのスクリーン投影が可能。ストレージ容量や搭載したチップセットなどは、popIn Aladdinと同等だ。

「ハードウェアのスペックとしては、2021年時点での技術で、Aladdin Vaseの本体サイズに収められる、最高レベルの部品を盛り込んでいます。無線LANはWi-Fi 6にも対応しています」(程氏)

コンパクトな本体に多様な機能を収めるため、ハード面で特に苦労したのは、レンズが上下に移動する構造だった。

「レンズが上下移動するのですが、その可動域を確保するために、小さな本体に他の部品をどう収めたらよいか。まさにパズルのようでした。

また、本体には放熱とスピーカーを兼ねた穴を設けているのですが、その数と大きさと並びをどうするかも悩みました。1枚の金属に穴を配置して、放熱としてもスピーカーとしても性能を担保した上で、プラスチック部分とのつなぎ目が見えないレベルで組み合わせています。異なる素材を使用しているため、色味や質感をそろえるのも大変でした」(程氏)

  • 目指したのは、360°どこから見ても美しいデザイン。Aladdin Vaseの表側は、接続用の端子もなくして、電源ボタンのみ。穴の開いた部分は金属で、その上下はプラスチック製だが、そうとは気づかないほどに質感や色味が統一されている

プロジェクターはコンテンツの「入口」

また、プロジェクターを操作するリモコンを立てられる仕様にもこだわった。

「リモコンが立つこと自体は、柴田さんのアイディアなんです。リモコンをなくしてしまうのは、使わないときに無造作に置いてしまうがゆえ。定位置をデザインで示すことで、その問題を解決したかったのです。

置ける形にすると同時に、手に持って操作することも考慮して設計しなければなりません。手にフィットするようなカーブや長さといった形状はもちろん、つなぎ目が握る部分に重ならないようにするなど、ただリモコンを設計するのとは違った苦労が多々ありました」(程氏)

  • 紛失しがちなリモコンの問題を、「立てられる」デザインによって解決。手に握って操作する本来の役割と、自立する形状を両立するため、通常の設計にはない工夫が必要だった

    紛失しがちなリモコンの問題を、「立てられる」デザインによって解決。手に握って操作する本来の役割と、自立する形状を両立するため、通常の設計にはない工夫が必要だった

当初から必須としていたライト機能は、本体の天面から垂直方向に光を照らす。

「上にライトがあって、天井方向を照らすのも柴田さんのアイディアです。皆さんそれぞれ、自分が好きな(自宅の)場所があると思うので、間接照明として、そのお気に入りのスペース周辺が、くつろぎの空間になるようにと考えました。当初、接続端子などもフロント部分に設置する予定だったのですが、それらを全部なくし、最終的に本当の花瓶のようなたたずまいになりました」(程氏)

  • 本体の天面には、調光・調色機能を持ったRGBフルカラーのLEDを搭載。天井方向に向けてライトを照らし、間接照明の役割も果たす

    本体の天面には、調光・調色機能を持ったRGBフルカラーのLEDを搭載。天井方向に向けてライトを照らし、間接照明の役割も果たす

シーリングライト一体型に続いて、新たなスタイルのプロジェクターとしてpopInのラインナップに加わった「Aladdin Vase」。だが、程氏は「popInはあくまでコンテンツ、体験を提供する会社。プロジェクターはそのための入口であり、道具に過ぎない」と話す。

popIn Aladdin 2、popIn Aladdin SEといったバージョン、グレード違いの製品以外に、今回はじめてスタイルが異なるAladdin Vaseが加わった。最後に、新しいハードウェアが登場する予定や可能性など、これからの方向性について尋ねた。

「コンテンツの充実が第一という考え方はこれまでと変わりません。新しいハードウェアの展開はもちろんあり得ますが、楽しめる『体験』のほうが重要。そのための入口になるなら、新たなデバイスの展開も当然あります。ただの壁を新たな思い出や体験に変えられる手段、機会を提供するものとして、popInは今後も貢献していきたいと思っています」(程氏)

  • popIn代表取締役の程 涛氏。「ただの壁をさまざまな体験や思い出の窓口に変えられるようなコンテンツやサービス、ハードウエアすべての面から提供していきたい」と今後の意欲を熱く語ってくれた

    popIn代表取締役の程 涛氏。「ただの壁をさまざまな体験や思い出の窓口に変えられるようなコンテンツやサービス、ハードウエアすべての面から提供していきたい」と今後の意欲を熱く語ってくれた