2021年10月にパナソニックから発売された「セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K」(以下、MC-NS10K)。掃除機が吸い込んだゴミを溜める「集じん部」を、本体だけでなく充電ドックを兼ねた集じんボックス「クリーンドック」にも搭載。充電時にクリーンドックが掃除機本体のゴミを吸引してゴミ捨ての回数と手間を減らす、新しいスタイルの掃除機として注目を集めている。

  • パナソニック セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K

    10月25日発売のパナソニック「セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K」。掃除機としての使いやすさとともに、空間におけるインテリアとしての調和性にも力が注がれた製品だ

MC-NS10Kのデザインに対するこだわりと、機能と性能の両立を実現するまでの機構・設計上の苦労話やエピソードを、開発の中心メンバーに伺った。

シンプルさを突き詰め、空間にさりげなくたたずむ外観

外観のデザインに関して、デザインセンターAD1部の藤田和浩氏は次のように語った。

「最初のイメージモデルは、本当に丸棒だけで、それが四角いドックに付いた状態で作っていました。今までの考え方では、そこにダストボックスをはじめとした要素が増えていって、その結果、『見た目の上での掃除機らしさ』につながっていることを改めて認識しました。ただ、私たちはふだん生活する中で常に掃除のことを考えてはいません。身近にあって、すぐにサッと使えるけど、存在を意識せずに調和させるにはどうしたらいいかを追求しました」(藤田氏)

そんな中で、藤田氏が特にこだわったのが「手元のハンドル部分」と明かす。

具体的には、「シンプルな棒を目指すにあたり、凹凸は最小限にしたい。どこまで使いやすさを崩さずに、キレイな形ができるかを突き詰めています。今までの考え方で作られた製品には、持つ場所を指定していたものが多くありました。一方で、今回検討した『自由に握れるのに、それでいて握りやすい形』は従来の考え方にはなかったので、議論がいろいろとありました」と振り返る。

  • デザインを担当した、デザインセンターAD1部の藤田和浩氏

    デザインを担当した、デザインセンターAD1部の藤田和浩氏

ランドリー・クリーナー事業部 クリーナー製品企画課の重藤元暢氏も「径の太さなども何種類も試しましたね。人間工学的にも握りやすい太さでありつつも、溶け込みやすいように。目立たない突起を裏に付けて滑りにくくしたり。新たな取り組みというのもあって、デザイン部門から強いこだわりがあり、企画部門としても社内でいろいろと働きかけて実現しました」と語る。

  • 掃除のしやすさを追求すると、道具としてのほうきの形状にたどり着く。空間の中で違和感なくたたずむためには、できるだけストレートでスッキリとしたデザインが求められるが、握りやすさのために滑り止めを設けるなど、さりげなく工夫が仕込まれている

    掃除のしやすさを追求すると、道具としてのほうきの形状にたどり着く。空間の中で違和感なくたたずむためには、できるだけストレートでスッキリとしたデザインが求められるが、握りやすさのために滑り止めを設けるなど、さりげなく工夫が仕込まれている

デザインと技術がせめぎあった、クリーンドックの設計

クリーンドックのデザインも設計担当者を悩ませた部分。ランドリー・クリーナー事業部 クリーナー技術部 設計課の水野陽章氏によると、特に大変だったのは掃除機本体をセットする部分。

続いて藤田氏が、「ヘッドにはからまないブラシも付いていますし、ゴミ捨てをしても手が汚れないのに、そこ(本体の装着部)だけゴチャゴチャして、ホコリが溜まりそうだったら興ざめですよね。クリーンドックの形状でも、ゴミのたまりにくいということを表現してほしいと注文をつけ続けていました(笑)」とその意図を明かした。

それに対し、水野氏は「ノズルが斜めにセットされるとゴミが上手く移送しないとかいろいろ問題が生じてしまいます。台座でしっかり位置を決めてあげるのが一番安心なのですが、それだとデザインがどんどん無骨になっていくので、必要最小限の凹凸のみで、最終的にはある程度斜めから本体を入れてもしっかり収まるように調整しましたがとても苦労しました。こちらも粘土を使って模型を作り、盛っては削っていくの繰り返しで。これであればデザイン性を損なうことなく、セットしやすいところまで徹底的に調整しましたね」と答えた。

  • クリーンドックの構造とデザイン性は相反する要素が多く、「担当者間でケンカになってもおかしくないほど議論を交わした」と語られた部分

    クリーンドックの構造とデザイン性は相反する要素が多く、「担当者間でケンカになってもおかしくないほど議論を交わした」と語られた部分

カラー展開はホワイト一色のみ。藤田氏によると、現在のパナソニックではクリーナーのイメージカラーが白というのが大きな理由とのこと。

「今回も白は確実にやろうとなりました。ただし、全部真っ白にしてしまうと複雑な部分が目立つので、ノズルの下部分はグレーにしてトーンを落とすことで、白くてシンプルな棒に見えるようにしました」(藤田氏)

昨今のスティック掃除機はサイクロン式が主流となり、紙パック式は縮小傾向にある。そんな中、MC-NS10Kのクリーンドックに紙パック式が採用された理由は、次のようなものだ。

「(スティック掃除機の)ダストボックスのゴミを捨てる行為と、そこでのゴミの舞い上がりに対する不満の声はずっとありました。紙パック式は(ゴミ捨てを)清潔に行える利点があり、クリーンドックは紙パックにしてみようとなりました。もちろん、若い人にはなじみがなく、ランニングコストの面などでネガティブな反応があるかも――と社内から意見が出ましたが、一方で紙パックを好む方もいて、根強い需要があることから採用しました」(重藤氏)

MC-NS10Kは、スリムなスティック掃除機ゆえに抱えるダストボックスの容量や本体の取り回しの良さといった問題を、充電ドックにも集じん部を設ける思い切った発想で解決した。紙パックの採用とデザイン性の両立も、従来型のスティック掃除機では難しい要素だろう。そういった意味でも、MC-NS10Kはコードレススティック掃除機としてブレイクスルー的な製品ではないだろうか。

  • クリーンドックの集じん部には、最近下火になっているものの、お手入れの手間が少ないことから根強く支持される紙パック式をあえて採用した。紙パックの交換はおよそ1カ月に1回。容量と本体サイズの兼ね合いからスティック掃除機本体を紙パック式にするのは難しいが、MC-NS10Kでは本体とメインの集じん部を分離型にしたことで課題がクリアになった

    クリーンドックの集じん部には、最近下火になっているものの、お手入れの手間が少ないことから根強く支持される紙パック式をあえて採用した。紙パックの交換はおよそ1カ月に1回。容量と本体サイズの兼ね合いからスティック掃除機本体を紙パック式にするのは難しいが、MC-NS10Kでは本体とメインの集じん部を分離型にしたことで課題がクリアになった