家電の機能やメニューをユーザー自身がアップデートしていくという新たな考え方で注目を集めている、パナソニックの「マイスペック」シリーズ。2021年9月1日に発売されたオーブンレンジ「『ビストロ』NE-UBS5A」と、調理機能付きIHジャー炊飯器「『ライス&クッカー』SR-UNX101」の2製品について、3人の担当者に話を聞いた。
シンプルな使い勝手を追求
マイスペックシリーズに共通するアイデンティティは、「シンプル」であること。そのため、UX(ユーザーエクスペリエンス)やデザインには特に力を込めた。
オーブンレンジに関して、パナソニック くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 調理機器BU 商品企画部 電子レンジ商品企画課の金田美智代氏はこう説明する。
「最低限のボタンに集約して、極力シンプルに。感覚的に操作できることを意識し、機能設定するダイヤル式ボタン1つだけでメニューを選択・決定といったように、シンプルで直観的な操作性、スマートかつスムーズに最後までたどり着く操作手順を何度も検証しました」(金田氏)
表示部はモノクロのドット液晶。その理由を、「スマホアプリから本体へとメニューをたくさん送れるようになっているので、文字をちゃんと際立たせて見やすくするためです。画面の明るさやコントラストにもこだわっています」と明かした。
本体の外観は、全面を白で統一。クリーントレイの部分まで真っ白にした。そのほか、「ロゴの色味、LEDの色や輝度も目立ちすぎず、空間になじむようにトーンを落として調整しています。操作ボタンの英語表記にも初めてチャレンジしました」と続けた。
一方、アプリ操作を基本とした炊飯器「ライス&クッカー」SR-UNX101では、「本体側のシンプルなUIを追求した」と語る。本体側はアプリを通じてお気に入りの炊飯メニューを3つ登録できる仕組みとし、調理のときはアプリでレシピを確認して加熱プログラムを本体に送信する手順だ。
炊飯器を担当した商品企画部 調理器商品企画課の高桑恵美氏によると、議論に多くの時間を要したのは「本体の機能をどこまで削っていくべきか」という部分だった。
「アプリを使わない、あるいは無線LANにつながない場合も想定して、本体側の操作方法を検討しました。炊飯器は、普段はコースをあまり変えないユーザーが多いので、スマホを活用することでシンプルな本体デザインを目指しました」と語る。イメージとしては「常に使用する一軍だけを本体に入れておいて、たまにしか使わない、使うかもしれない二軍はアプリにしまっていつでも使えるようにしておく」とたとえた。
シンプルな操作性を追求した結果、本体側で常に表示されているのは起動ボタンのみとなった。メニュー選択画面などは、「必要なときに必要なものだけLEDで点灯する仕組みにして、究極のシンプルさを実現しました。従来の炊飯器のような液晶画面はなくして、白い本体上にLEDで表示させる仕様にしました」と高桑氏は語った。
シンプル=低機能にあらず。調理のスペックにもこだわり
炊飯器のライス&クッカーに関しても、マイスペックのコンセプトである「あったものを削る」方向性に、社内の反対意見は避けられなかった。「お客様対応部門から懸念が強くありました。企画担当としては『ユーザーの方々に操作方法をわかってもらえるか?』が冒険でしたが、実際に使ってみてもらうことで解決できると思います」と説明した。
外観デザインやUIにおいて究極のシンプルさを追求した「マイスペック」シリーズの2製品。シンプルにスッキリと仕上げるために性能を落とすことは決してしていない。国内マーケティング部の岡橋藍氏は、「シンプルさを求めるけれど、基本性能は本格派の、単機能ではないものを求める人に向けた製品です」と強調する。
オーブンレンジと同様、炊飯器もシンプルな印象にするため、外側のデザインは白で統一。加飾を散りばめたりせず、フラットな天面は見た目と同時にお手入れのしやすさも目指した。こうしたシンプルな外観には、機能と両立させることが難しかったところもあるという。
「炊飯中に水が沸騰して『おねば』が上がってくる蒸気筒を廃止して、別パーツを採用したのですが、そのためにフタの部分に備えた高性能センサーの位置も設計し直さなければなりませんでした」(高桑氏)
また、オーブンレンジで大火力とお手入れ性の向上を実現するにあたっても、こうした葛藤はあった。具体的には、熱源を管ヒーターにすると、レンジ庫内にむき出しで設置するため火力が強い。一方、平面ヒーターは本体内に格納するため、庫内のお手入れは簡単だが火力が落ちてしまう。
そこで、平面ヒーターでも大火力を実現するために、フラッグシップモデルで展開している技術を応用。マイスペックシリーズのために「大火力平面ヒーター」を開発した。
スチーム料理は、オプションの「スチームポット」を使って調理する。「調理検証から新しいメニューの開発も含めて、すべて一から行っています。(スチームポットは既存のスチームオーブンと)機構そのものが異なるため、従来のスチームメニューを再現するのに時間を要しました」と金田氏は明かした。
将来的には「新カテゴリーの製品」も?
購入後もメニューやレシピが増えていくことが特長のマイスペックシリーズ。若い人から人気の高いニューヨーク発のデリカテッセン「DEAN&DEULCA」とコラボしたメニューなどを随時配信しており、「今後もコラボなどによる新しいメニューを追加していく予定です」と岡橋氏。
さらに、「当面は、多様なライフスタイルやユーザーの好みに対応する選択肢を増やす2製品の強化に注力して進化させ、将来的には新しいカテゴリーの調理製品でも、マイスペックの考え方を展開することを検討していきたい」と話した。
マイスペックシリーズは、パソコンやスマートフォンのように、機能を「あとから足す」発想で生まれた。多くのユーザーが手に取り、それぞれの「マイスペック」を追求するなかで、さらなる発展につながることを期待したい。