ブルーフレームの名で知られる英国「アラジン」ブランドのストーブを、日本で製造・販売する日本エー・アイ・シー。
2015年から展開している「アラジン グラファイト グリル&トースター」は、わずか0.2秒で発熱する特性を持つ「遠赤グラファイト」を採用したことで、すばやくおいしいトーストが焼けるのが特長だ。
ヒットを続けるトースターに、このほど「ポップアップ型」の新ラインナップが登場。その発売までの企画意図や経緯、デザイン上のこだわりについて、開発を担当した日本エー・アイ・シー 企画本部 商品戦略課の片山幸二氏に話を聞いた。
アラジンのトースターを広く印象付けるために
ポップアップトースターの発売は、アラジンブランドとしては初めて。開発の目的は「世界展開」にあるという。
「遠赤グラファイトによる、“外カリ、中モチ”を特長とする、アラジン独自のおいしいトーストを世界に広げたいという思いから企画しました。これまで展開してきたトースターは、パンを寝かせて置いて焼くオーブン型でしたが、世界展開を考えると、パンを縦に置いてレバーを下げて焼くポップアップ型が主流のため、新製品の開発に至りました」(片山氏)
また、「アラジンのトースター」をより強く印象づけることも、新製品開発の理由だったという。
「弊社では2015年からトースターを展開していますが、『アラジン=トースター』のイメージをよりいっそう定着させたいとの思いもありました。お客様それぞれの生活スタイルに合ったトースターを使っていただきたく、アラジンのトースターが提供する、新しいおいしさのカタチとして企画しました」(片山氏)
片山氏によると、企画が上がったのは2019年12月。開発期間はおよそ1年半にわたった。企画から仕様の決定、デザイン、試作、量産というプロセスはこれまでの製品と変わらなかったものの、海外向けならではの苦労もあったそうだ。
「普段は他社製品を購入して比較や検証を行うのですが、海外のポップアップトースターはネット通販で購入できず、ヨーロッパやアメリカなど現地の方に購入して送ってもらったりしました。国によって電圧もプラグの形もバラバラで、日本向けでは手間にならないことに手を焼いたりもしました」(片山氏)
グラファイトヒーターをポップアップ用に改良
開発にあたり一番の障壁となったのは、ヒーターとパンの距離だった。
「オーブン型ではパンと上下に搭載されているヒーターとの間に距離がありますが、本体の薄いポップアップ型ではパンとの距離が極端に近くなります。そのため、一般的なポップアップトースターでは火力の弱いヒーターが使われています。しかし、アラジンのポップアップトースターではおいしいトーストを焼くために、0.2秒で発熱する高火力のグラファイトヒーターを使用しており、それが持ち味です。そこで今回は、ポップアップ用にヒーターを改良したんです」と明かす。
ヒーターはガラス側の中央にグラファイトヒーター、反対側の上下に石英管ヒーターを配置し、合計3本が搭載されている。「当初、グラファイトヒーター2本で裏表を焼けると思っていたのですが、それだと耳の部分が焼けず、現在の3本のヒーターで焼き分ける仕様となっています」と片山氏。
さらに、遠赤グラファイトは、赤熱温度にグラデーションを付けられ、温度を細かく分けることができることも特長。「ワイド方向の焼きムラを抑えるために、中央を最も弱く、端に行くほど強くと、これまでのヒーターより細かく温度分けをしています。ヒーターだけではできない火力調整は、ヒーターの前にある反射板の穴の量で調整しています。穴の形はグラファイトの炭素骨格の正六角形になっていて、デザイン上のアクセントとして密かにこだわったポイントだったりします」と説明した。
同じ機能を形の違う機種にも搭載
プログラムの制御面では、2021年春に発売されたトースターのフラッグシップモデルと同様、「連続焼き」にこだわった。
しかし、連続焼きの実現にあたって、温度検知センサーの位置が難関となった。オーブン型のトースターはセンサーを庫内に収めやすかったが、まったく形や構造の違うポップアップ型にそれを組み込むには困難がつきまとった。
「ポップアップトースターは前面ガラス張りなので、センサーをどうやって隠すかが課題になりました。しかも上側が開放されている構造のため、温度検知も難しい。グラファイトヒーターの高火力を検知しやすい位置を、各部の温度上昇を測定しながら決めるのにかなり苦労しました」(片山氏)
世界展開を視野に入れた新しいラインナップとして生まれた、アラジンのポップアップ型トースター。単に世界標準であるポップアップ型に形を変えただけに留まらず、遠赤グラファイトという特殊な熱源ゆえに乗り越えなければならなかったハードルの高さは、想像を遥かに超えていた。かわいらしい見た目や楽しさの裏には、メーカーによる多くの挑戦が隠されているのだ。