2020年10月に米国で発売し、日本では2021年6月の先行販売を経て2021年7月下旬に正式販売となった、World Matchaの「Cuzen Matcha(空禅抹茶)」。米国で日本人が立ち上げたスタートアップ企業が手掛ける「抹茶版エスプレッソマシン」だ。

  • 「抹茶版エスプレッソマシン」として米国で先行発売され、2021年夏に日本上陸を果たした、World Matchaの「Cuzen Matcha(空禅抹茶)」。茶葉から臼(うす)でひいた粉末を水と混ぜ合わせて、抹茶液を作るマシンだ

    「抹茶版エスプレッソマシン」として米国で先行発売され、2021年夏に日本上陸を果たした、World Matchaの「Cuzen Matcha(空禅抹茶)」。茶葉から臼(うす)でひいた粉末を水と混ぜ合わせて、抹茶液を作るマシンだ

開発スタート前からプロダクトデザインの重要性を強く認識し、「円」をモチーフにした印象的な本体デザインを先行して決定。それを製品としてカタチにするまでの裏話やこだわりを、同社CEOの塚田英次郎氏に語ってもらった。

抹茶が生活の一部になるよう、徹底的に手間を削減

デザインの大枠が決まった後、物理的にマシンとして必要な機能がその中に入れられるのか、その確認と検証をしつつ、プロトタイプの試作が重ねられた。ゴールは「理想とするUX(ユーザーエクスペリエンス)」に設定。塚田氏は、「どちらかと言うと、不要なファンクションを削ぎ落していく作業でした」と振り返り、当初のアイディアからの最も大きな変更点として、「水タンク」をなくしたことを挙げた。

「コーヒーメーカーをはじめ、この手のマシンには、マシン本体の中に水を入れて使うものが多く、ユーザーにもそういうものだという先入観があると思います。しかし、ユーザーに話を聞くと、『水タンクの中の水は誰が入れたかわからないので、自分が使うときは必ず入れ替えている』という意見がありました。それであれば、わざわざ水カビなどの衛生上のリスクを高めてまで、マシンの中に水タンクやチューブを持たせる意味や意義は何なのか、と考えました」(塚田氏)

そこで、自分でカップに水を入れてセットするという、シンプルな現在のスタイルが考え出された。Cuzen Matchaは、お手入れのしやすさを含めて、徹底して使いやすさにもこだわっている。

  • コーヒーメーカーなど多くのドリンクマシンで常識である本体内に水をセットする仕組みをやめて、水を入れたカップに抹茶の粉末を注ぎ入れ、混ぜ合わせるというスタイルを採用している

    コーヒーメーカーなど多くのドリンクマシンで常識である本体内に水をセットする仕組みをやめて、水を入れたカップに抹茶の粉末を注ぎ入れ、混ぜ合わせるというスタイルを採用している

「目指したのは、毎日無理なく使い続けられることです。マシンの中にお茶が触れるパーツが増えれば増えるほど、結果としてお手入れ時に洗うものが増えてしまいます。茶葉から粉を生成して液体を作るまでを、一気通貫して使えるよう試行錯誤しました」(塚田氏)

毎日無理なく使えるマシンにするために、抹茶の点て方に近い方法をあえてやめたことも明かした。

「例えば、抹茶を攪拌(かくはん)する方法には、茶道で使う茶筅(ちゃせん)のように、液体を上からウィスクでかき混ぜるやり方もあり、そのほうが製造側は簡単なのですが、ウィスクを取り外して洗う手間が生じます。それならば、毎回洗うコップの側にウィスクが付いていたほうがいいよね、という発想で、今の仕様になりました。抹茶の場合、茶葉をまるごとひいて食べるので、コーヒーのかすや緑茶の茶がらのようなゴミもでません。毎回洗うのはコップだけ、というのは本当に楽だねと、使っている人ほど実感していただいています」(塚田氏)

  • お手入れの手間を減らすために、お茶が触れるパーツは極力少なくなるよう設計した

    お手入れの手間を減らすために、お茶が触れるパーツは極力少なくなるよう設計した

こうして2019年5月に初期プロトタイプが完成。2019年7月からは、マシンの共同開発・生産を行うパートナーとともに、2020年秋の発売を目指した。翌2020年1月にはラスベガスで開催された家電見本市「CES2020」へも出展し、反応を探った上で、完成度を高めていくフェーズに突入。しかし、塚田氏によると、初期プロトタイプから完成形までの間に、変更された点はほとんどなかったそうだ。

「外側の形としては、縦横比が若干変わった程度ですね。機能面で唯一変わったのは、『Grind-only mode(粉だけモード)』の追加です。Cuzen Matchaは、茶葉からひきたての抹茶の『液体』をつくるマシンとして開発しましたが、ひいた粉だけを使いたいとの要望もあり、粉だけをひく機能を追加しました。そのほかには、粉の粒度のバラつきを押えたり、精度や細かい性能面での質を高めるといった、大きく目立たないものの、とても大切な課題に取り組み続けました」(塚田氏)

シャープ「お茶プレッソ」のDNAを継承

量産化の段階では、実は日本の大手電機メーカー・シャープから技術提供を受けている。シャープといえば、2014年から「お茶プレッソ」という、Cuzen Matchaと似たコンセプトのお茶用マシンを展開していた。お茶プレッソが採用していた「セラミック製お茶うす」の技術が、Cuzen Matchaに引き継がれたそうだ。

「いろいろな製品を研究する中で、シャープさんの技術は、茶葉を細かくひく性能が圧倒的に優れていました。それと同じレベルのものを我々のようなスタートアップ企業が一から開発するとなると時間的にも金額的にも得策ではないと判断し、私たちの思いを伝えて、『ご協力いただけないか?』と、シャープさんに正面からお話をしてみたところ、快くご支援いただけることになりました」

  • 臼ユニット一式。茶筒に茶葉を入れて、ボタンを押すだけで粉を生成し、マシン直下にセットしたカップに注ぎ入れる。臼のパーツは、シャープが技術提供。『お茶プレッソ』で使用されていた「セラミック製お茶うす」の技術が生かされている

    臼ユニット一式。茶筒に茶葉を入れて、ボタンを押すだけで粉を生成し、マシン直下にセットしたカップに注ぎ入れる。臼のパーツは、シャープが技術提供。『お茶プレッソ』で使用されていた「セラミック製お茶うす」の技術が生かされている

  • 臼と同様に、精度を高めるため、ウィスクも徐々に細かな改良がなされた

前述した「健康的で美味しい抹茶を家庭で手軽に飲めるようなマシンを作りたい」という目標と同時に、「茶葉本来の味を楽しめる高品質な茶葉の需要を創出する」ことも大きなミッションとして掲げるCuzen Matcha。ユーザーに提供する茶葉は、有機認証を受けた厳選されたものにこだわっている。

「お湯を注いで抽出液を飲む一般的な煎茶と違って、抹茶は茶葉をまるごと臼でひいてすべてを摂取します。だからこそ無農薬で安心安全、かつおいしいことが求められます。私たちは生産者さんと直接関係を築き、高品質な茶葉とセットで提供できる供給体制を整えています。こうした仕組みを整え、世界で展開することで、日本の高品質な茶葉の需要を世界規模で創出し、茶葉の価格下落に苦しむ日本のお茶生産者さんがつくる、品質の高い茶葉を買い支えていくことができると信じています」(塚田氏)

抹茶リーフの種類は、追って拡充も検討しているという。

「現在、抹茶リーフは2種類のブレンドですが、シングルオリジンのように、お茶の産地を楽しんでいただけるようなリーフ展開や、新たなブレンド展開など、お客様に茶葉の味をより楽しんでいただける施策を展開していきたいです」(塚田氏)

最後に、今後の展望についても語ってくれた。

「まずは現在展開しているアメリカと日本で、しっかりと事業を定着させることが必要ですが、いずれはそのほかの国への展開も視野にいれています。世界中のより多くのお客様へお茶本来のおいしさをお届けすることで、いずれ耕作放棄されてなくなってしまうかもしれない、日本が世界に誇る『お茶どころ』のきれいな茶畑を、次世代へつないでいきたいと考えています」(塚田氏)

日本での販売は始まったばかりのCuzen Matcha。これからの発展に期待したい。

  • World Matcha CEOの塚田英次郎氏。2019年1月より、米・カリフォルニア州を拠点に事業を展開している

    World Matcha CEOの塚田英次郎氏。2019年1月より、米・カリフォルニア州を拠点に事業を展開している