厚さ1ミリのPVC(ポリ塩化ビニル)素材を用いたEMS※製品として、2020年春に発売された「ルルドスタイル EMSシート」。このヒットを皮切りに、2020年秋には「ルルドスタイル EMSパワーロール」、そして2021年春には「ルルドスタイル EMSベルト」と、PVC素材を使ったシリーズ製品が続々と登場した。
※EMS(Electrical Muscle Stimulation):電気刺激を与えて筋肉を動かす機能。この機能を筋トレやダイエット目的で活用した、エクササイズ用機器の総称としても使われる。
今回は、第3弾のPVC製品であるEMSベルトの開発秘話を、アテックス 商品開発本部 商品開発第2部・次長の佐藤奈津貴氏をはじめ、開発に携わったメンバーに聞いた。
EMSシートに続く新製品を模索、ユーザーの声が突破口に
EMSベルトは、EMSシートをベルトのようにお腹周りに巻き付けて使える、新たなタイプのアイテム。だが、2019年春にアテックスからは、ベルトタイプのEMS製品「シェイプアップベルト」が発売されている。EMSベルトの開発・設計を担当した佐藤氏は、類似の既存製品があるにもかかわらず、EMSベルトを発売した経緯を次のように語った。
「先に発売したシェイプアップベルトは、振動とEMS、ヒーターと3つの機能を持った製品です。振動のためのモーターを内蔵しているため、どうしても厚みを抑えることができません。その一方で、2020年のEMSシート発売後、PVC素材のシリーズとして、次はどういった製品を作ろうかと議論をしていました。EMSベルトはPVC素材の薄さを生かした、新たなアプローチの製品として発売しました」(佐藤氏)
PVC素材を使った試作品をいろいろと作ってはみたが、ほとんどのものが「EMSシートで代用できてしまう」との意見に落ち着いてしまっていた。「EMSをシートにした時点で汎用性が高く、ほぼ全身をカバーできるんです」と佐藤氏。そんな中、EMSベルトにつながる突破口となったのは、「シートを身体に巻きつけて使えませんか?」という、ユーザーからの質問だった。
「EMSシートはその上に身体を置いて使うスタイルで、巻きつけることはできません。でも、身体に巻き付けられたら、他のことが同時にできて、もっと便利になる」(佐藤氏)ことから、EMSベルトの開発が決まった。ユーザーの声が新製品誕生の一歩へとつながったのだ。
ベルトのフィット感を高めるため、形状にも工夫
次の課題は「どこに巻く商品にするか?」。これに関しては「ニーズが高いのは、やっぱりお腹に巻くものだろう」と意見がまとまった。
前述のとおり、アテックスはお腹に巻き付けるタイプのEMS製品「シェイプアップベルト」をラインナップしている。そのため、次なる議論のテーマとして「(既存製品と)どう差別化を図るか? 」が挙がった。佐藤氏は次のように振り返る。
「シェイプアップベルトは、正面に振動モーターを搭載していることから、通電する面積が部分的で、EMSが作用する範囲も限られています。それに対し、EMSベルトでは通電するプリントが全面に張り巡らされており、お腹から背中までグルっと一周し、一度に作用させることができます。これは大きなアドバンテージだということで意見が一致しました」
かくして開発が進められたEMSベルトだが、EMSシートをベルト化すると言っても一筋縄ではいかなかった。
「EMSシートは柔らかくて薄い素材です。とはいえ、巻き付ける側のお腹はカーブもあって、すべて平らなわけではありません。PVCを身体に最大限なじませるため、形状も工夫しました。ベルトの幅は太いところで7センチ、細いところで5センチと変化をつけています。お腹の形状にフィットするように狙ったんです。使用する人それぞれに体格が異なるため、最適解を見つけるための調整がかなり大変でしたね」(佐藤氏)
独特の装着法で、EMS効果と固定を両立
商品企画を担当した、企画マーケティング部・部長の田代晶子氏によると、操作部の調整も苦労した部分だと明かす。というのも、この部分も身体にフィットさせる必要があるからだ。厚みはわずか12~13ミリ程度だが、「操作部がいかに薄く見え、なじむか? 」も追及した。
「最初にサンプルができあがったとき、存在感が強くてオモチャの変身ベルトみたいな仕上がりだったんです(笑)。そこで基板も含む操作部が1ミリのシートに極力なじむように、実際の厚みより薄く見えるデザインイメージを、工場の担当者に伝えるのがなかなか難しかったですね。堅牢性とも両立させながら、よりスタイリッシュに仕上げなければなりませんでした」(田代氏)
佐藤氏も、「最初のうちは操作部が大きくて、フラットさはなく、悪い意味で印象的な状態でした。シリコンベルトの腕時計をイメージして改良しました」と続ける。
「EMSベルトはベルトそのものの幅が狭いので、それに合わせて操作部の幅を最小限に抑えつつも、厚みも極力薄くしなければなりません。操作部を横から見ると、実は微妙に傾斜をつけているのですが、これは薄く見せることと、肌なじみを狙ってのことです」(佐藤氏)
田代氏は「ウエストに巻いた後のベルトの締め方と範囲、できるだけ金具や別パーツを使わず簡単に留められるかも試行錯誤しましたね」とも語った。
一般的なベルトは剣先(ベルトの先端)を外側に回すが、EMSベルトは内側に通すよう設計されている。EMSが全方向に行き渡るよう通電面を肌に触れさせる必要があるためだ。同時に固定する必要もあるため、通電面が内側になるように一度ベルトを通して、面ファスナーでサイズを調整しながら装着する方法が採用された。
わずか1ミリの薄さでEMSを実現した「EMSシート」の技術を、ベルト型の製品として発展させた、アテックスの「EMSベルト」。単純にお腹周りに巻きつけられるようになっただけに見えるかもしれないが、全周にEMSの機能を働かせるために、一見しただけでは想像できないような苦労と改良が施されているのだ。