アイリスオーヤマが2月に発売した「FK-D1」は、ハイパワーモデルやノズルが2つあるモデルなどを展開している「ふとん乾燥機 カラリエ」シリーズの新製品。ベッドサイドに置きっぱなしでもインテリア映えするデザインを意識して開発されたユニークなモデルだ。
今回は、アイリスオーヤマ 家電開発部 オフィス・乾燥機チームの筒泉佳菜子氏に、FK-D1開発のきっかけや、苦心したエピソードなどを伺った。
インテリア性のあるふとん乾燥機、生まれたきっかけは
ふとん乾燥機 カラリエシリーズ初の「インテリアモデル」として発売されたFK-D1。開発が始まったのは2019年冬ごろ。カラリエシリーズの既存ユーザーに使用感をヒアリングしたところ、冬場の就寝前にふとんのあたため機能がよく使われていることがわかった。これが、FK-D1開発のきっかけになった。
「アイリスオーヤマのふとん乾燥機 カラリエシリーズは、コンパクトな本体とノズルをふとんの間にセットするだけの手軽さから好評を得ていました。コンパクトで収納しやすい点も特長ですが、そもそも出し入れをしていない方も少なくありません。そして、ふとん乾燥を行うのは週1程度でも、冬のふとんの温めでは毎晩使っているユーザーも多いことがわかってきました。そこで、ベッドサイドに常時設置することを前提にコンセプトを絞り、これまでとまったく違った製品を発売することになりました」(筒泉氏)
空間と調和する木目パネル&曲線ボディ
こうして生まれたFK-D1。本体の両サイドには木目調のパネルを採用していて、横から見るとまるでマガジンラックのようだ。特にこだわったのは、木目のリアルさを再現すること。水転写と呼ばれる手法によってプリントした木目柄のフィルムを樹脂に貼り付け、さらに木目の繊維を樹脂の成型時に取り込んでいる。
「単に木目柄が張り付いているだけでは、光の加減で明らかにフェイクだとわかってしまいます。そこで、木の繊維のボコボコ感を樹脂で成型し、立体的でリアルな質感に仕上げました」
カラーラインナップは、ナチュラルオークとスモークオークの2色を展開。色合いの調整にも苦戦したという。
「(木目調パネルの)最終的な色味は、樹脂の下地とフィルムの組み合わせで決まります。作りたい木目と調和する色合いになるまで青みを調整し、シボの大きさまで何パターンもの組み合わせを検討しました。本物の木の合板を曲げて作ったかのような肉厚感を出すためにパネルの厚みを再検討し、サンプルをたくさん作りました」
形状は、従来の四角いカラリエシリーズのイメージから一新。直線的なデザインではなく、壺のように真ん中がくびれた、なだらかな曲線状のデザインを採用した。シャープなデザインも検討されたが、「既存のカラリエシリーズからガラッと変えたかった」というのが、今の形になった理由だ。
何といっても、一見ふとん乾燥機とはわからない、くびれたフォルムが非常に目をひく。このかたちになった理由を、筒泉氏は以下のように明かした。
「『寝室に置く』ことがデザインのコンセプトです。そこから、優しさとかやすらぎといったイメージをテーマに据えて、控えめで優しいデザインを考えていく中で、曲線のある形状へとつながっていきました。くびれ部分は、本体をこれ以上薄くできない限界のサイズで、それをできるだけコンパクトに見せるために断ち落とした箇所でもあります。そういう意味では、設計とデザインが一致した、機能美とも言える部分かもしれません」
インテリアモデルには、他にもアクセントカラーを採用する案や、全面を木目にする案もあったそう。しかし、「『寝室に置く』コンセプトを考えたとき、床の色と相性がよく、トーンを抑えたグレイッシュな木目調にプレーンな白という組み合わせが空間にもっとも調和するとの理由で、現在のデザインに決まりました」と筒泉氏は説明した。
「これまでにないモデル」だからこそ、既存製品の長所を踏襲
本体のデザインは大きく変わったが、すでにふとん乾燥機の性能面で定評のある「カラリエ」シリーズとして展開する以上、これまでの長所はしっかりと引き継ぐべきと考えた。そのひとつがサイズ感だ。筒泉氏は「コンパクトであることにはこだわりました」と話す。
収納から出し入れする前提の従来製品とは異なり、ベッドサイドに常設しておいてもジャマにならないことを重視して、縦長の構造が採用された。しかし、本体の縦横比が変われば、風の流れる向きも変わる。筒泉氏によると「中の構造の風路自体は同じで、つなぎ方やレイアウトを変えている」そうだ。
コンパクトさとデザイン性のために、ホースの機構を大きく改変した。
「縦置きにも横置きもセットできて、ホースが見えるのがカラリエの特徴。そのため、ベッド近くまでホースを伸ばせるように長さを確保する必要がありました。一方で、使わないときにはホースを隠せるようにもしたい。2つの要件を成り立たせるために、ホースが根元から倒せる機構を採用しました。使わないときはホースの根元を倒すと、フタをせずにホースを隠すことができます。新製品の開発にあたって、カラリエシリーズの長所は失ってはならないという前提がありましたので、ワンアクションでセットも収納もできる手軽さをしっかりと継承させました」
ホースの根元が倒せる機構は、安全面でも生かされている。「万が一ホースを収納した状態で運転してしまうと、温風がこもって危険です。そのため、ホースの根元が立っていないとスイッチが入らないように設計しています」と筒泉氏。
従来モデルと同様、本体内部に複数の温度センサーを設け、過熱状態になると運転を停止するサーモスタッド機能も備える。それに加えて、ノズルの先端が収納部に入った状態では運転できない仕様にもなっているそうだ。
「FK-D1は、吸気口がノズルの収納部の内側にあります。この位置に設けたのは、操作パネルの位置に関連した設計上の制約に加えて、インテリアモデルとして外側から見えないようにする狙いもありました。さらに、この位置に設けることで、ふとんにノズルをセットしたときには必ず吸気口の前に空間ができてふさがれることはないため、安全の確保にもつながります」
このように、機能とデザインを両立させて巧みにまとめられたFK-D1だが、開発段階ではもちろん多数の試作品が作られ、性能を満たすための検証が繰り返された。中でも試行錯誤の連続だったのが、風の量や勢いだった。
現在はホースを根元から起こす構造になっているが、開発当初はホースを収納状態のまま、まっすぐ水平方向に引き延ばす方法を検討していたそうだ。
「ベッドサイドに置いたFK-D1から水平方向に延びたホースをベッド上のふとんにセットすると、ホースが何カ所も折れ曲がってしまいました。風の流れが変わることによる風の圧損が想像以上で、吹き出し口の風量が少なくなってしまいました」
主要ターゲットは「ふとん乾燥機を使ってこなかった人」
FK-D1は、カラリエシリーズ全体のラインナップの中では、上位モデルである「ハイパワーシリーズ」と、スタンダードな「シングルノズルモデル」の中間に位置づけられる。ノズルの先端は、最新のモデルにも搭載している、フラップが3方向に開く構造の「立体ロングノズル」を採用。デザイン性のみならずコスパの面でも魅力的な製品に仕上がっている。筒泉氏はその狙いを「新規ユーザー層の獲得」と明言する。
「インテリアモデルは、例えば1人暮らしの方など、これまでふとん乾燥機を使ってこなかった人にも気軽に手に取ってほしいとの思いで開発しました。寝具の衛生的なケアだけでなく、就寝前にサッと温めたふとんの快適さを手軽に体験してほしいのです。また、FK-D1では既存ユーザーの方の声を受けて、ノズルの頭を引っ掛けられるハンガーを追加しており、簡易の衣類乾燥にも使えます。+αの機能を持たせることで、毎日使ってもらえる製品になるように仕上げています」