スウェーデンの空気清浄機専業メーカー・ブルーエアが2020年12月に発売した「Blueair Protect」シリーズ。同社の最上位モデルとして長年けん引してきた「Classic」シリーズを久々に更新し、フラッグシップモデルに置き換わった製品だ。

業界のトップメーカーの1社として、最新の技術を余すことなく注ぎ込んだ「Blueair Protect」シリーズに、プロダクトデザインの視点で注目。製品化までの裏話を、ブルーエア プロダクトマネージャーのクリスティーナ・アーリンダー氏に語ってもらった。

  • ブルーエアの新製品「Blueair Protect」シリーズと、同製品を担当したプロダクトマネージャーのクリスティーナ・アーリンダー氏。メールによるインタビューで、開発秘話を明かしてくれた

    ブルーエアの新製品「Blueair Protect」シリーズと、同製品を担当したプロダクトマネージャーのクリスティーナ・アーリンダー氏。メールによるインタビューで、開発秘話を明かしてくれた

多機能でありながら、シンプルで洗練された操作部

ユーザーエクスペリエンスを高めるため、特にこだわって開発されたのは、前編でも紹介した操作・表示部「インタラクティブタッチスクリーン」だ。日本の消費者目線からすると、製品の多機能さとは裏腹にシンプルかつモダンにまとめられたデザインは新鮮。洗練された印象を受ける。

  • 最上位モデルの2機種(7770i、7470i)が搭載する「インタラクティブタッチスクリーン」。インタラクティブなタッチスクリーンであるとともに、フルカラーの液晶ディスプレイに、粒子数、VOCレベル、フィルターの寿命、温度、湿度といった情報を数値データで表示

    最上位モデルの2機種(7770i、7470i)が搭載する「インタラクティブタッチスクリーン」。インタラクティブなタッチスクリーンであるとともに、フルカラーの液晶ディスプレイに、粒子数、VOCレベル、フィルターの寿命、温度、湿度といった情報を数値データで表示

アーリンダー氏によると、ブルーエアでは「ディスプレイのデザインと使いやすさは不可欠」と考えているとのこと。「ディスプレイのインタフェースと製品デザインをシームレスに統合するために、多くの時間を費やしました。インタフェースは直感的で理解しやすく、Blueair Protectシリーズの洗練されたスカンジナビアデザインを体現したものになっています」と説明する。

「スカンジナビアデザイン」の具体例として、アイコンのデザインを挙げた。「ブレインストーミングでは多くの案が作られました。シンプルで機能的、それでいて統一性があり、いつの時代でも美しい普遍的なデザインを追求しました」とアーリンダー氏。さまざまな面でポイントを押さえたバランス感覚が秀逸で、まさに北欧デザインのすばらしさを示している。

  • ディスプレーのアイコンデザイン案。シンプルかつ直観的でわかりやすく、普遍的であることが北欧デザインの真髄

    ディスプレイのアイコンデザイン案。シンプルかつ直観的でわかりやすく、普遍的であることが北欧デザインの真髄

Blueair Protectシリーズは、全モデルでWi-Fiを搭載。情報表示用のディスプレイを省いたスタンダードモデルでも、スマートフォンのアプリ画面を通して各種の情報を確認できる。

アーリンダー氏は、「本体のインタフェースで空気環境に関する多くの情報を共有するだけでなく、新しいIoTプラットフォーム(スマートフォン)を介する仕様は、将来的にファームウェアへ追加機能を組み込むアップグレードも可能になる」ことを、メリットとして挙げた。

  • ミドルモデル(7740i、7440i)、スタンダードモデル(7710i、7410i)の操作・表示部は、液晶ディスプレイこそ非搭載だが、ミニマイズされながらも統一感ある美しいデザインは維持している

  • Wi-Fi経由でスマホアプリと連動。本体のディスプレイ機能の一部を補完する

    Wi-Fi経由でスマホアプリと連動。本体のディスプレイ機能の一部を補完する

アーリンダー氏によると、Blueair ProtectはIoT製品でありながら、単体でも機能する製品に仕上げる構想があったという。開発中はその構想の採否が確定しないままにIoTのシステム化を進めなければならず、この点も製品化のハードルを高くした部分だった。

「正直なところ、新しいフラッグシップ製品として開発する途中で、全貌を理解している人は多くありませんでした。そのため、途中で製品設計上の大きな見直しに迫られることもあり、ほぼ一から作り直しになったこともありました」

メンテナンス性を向上させる細やかな配慮

本体は、洗練された北欧デザインに加えて、耐久性と堅牢性を備えたスチール素材を採用。ほかにも、ユーザビリティーを向上するためのていねいな工夫が随所に仕込まれている。

「フィルターは側面のドアから簡単に取り外して交換できます。プレフィルターは前面からのメンテナンスを可能にし、お手入れのために本体を動かす必要がないように設計しました。電源コードを見せずに設置でき、別の部屋への移動もスムーズに行えるよう、底面に電源コードホルダーとキャスターを配備しています」(アーリンダー氏)

  • ユーザーエクスペリエンスのためにメンテナンス性の向上は不可欠な要素。左右の側面に備えるプレフィルターは、本体を動かすことなくスライド式で出し入れできる仕様

    ユーザーエクスペリエンスのためにメンテナンス性の向上は不可欠な要素。左右の側面に備えるプレフィルターは、本体を動かすことなくスライド式で出し入れできる仕様

  • 長さを持て余しがちな電源コードは、本体底部に巻き付けて長さを調整可能。接続口も下部にあるため、収まりがいい

    長さを持て余しがちな電源コードは、本体底部に巻き付けて長さを調整可能。接続口も下部にあるため、収まりがいい

スウェーデンの設計代理店や技術専門家の協力のもと、6カ月にわたり自社のラボで行われた厳格なテストは100回以上を数える。並行して、気流やデザイン形状、ユーザーインタフェース、IoTといった各々のポイントに焦点を当てたユーザー調査を重ね、2019年にようやく量産化のプロセスに移行したとのことだ。

量産化の段階では、各パーツのサプライヤーと緊密に協力し合い、最終的な品質をBlueairの高い基準まで引き上げることに重点が置かれた。

「長い間思い描いていた製品がようやく実現した段階は、チーム全員にとって本当にすばらしい時間でした。夜遅くにホテルの部屋で、ミニホッチキスだけを使ってプロトタイプを修理しなければならなかったり、韓国では7台の空気清浄機を輸送するための大きな車が見つからず、公共のバスを手配しなければならなかったことなど、製品が発売されるまでに予想外に苦労したエピソードは尽きません」と振り返る。

  • ペーパークラフトや模型を用いた試作の様子。設置性や性能など、多岐にわたる項目で比較検証が行われた

    ペーパークラフトや模型を用いた試作の様子。設置性や性能など、多岐にわたる項目で比較検証が行われた

「私にとって、デザインは品質にも大きく関わっています。たとえ製品の外観が優れていても、操作に不自然さがあっては充実したユーザーエクスペリエンスだとは言えません」と、製品デザインへの思いを強調したアーリンダー氏。最後に、製品への思いと、成果に対する自信をこう語った。

「暮らしに溶け込み、高い性能を維持したまま数十年使い続けられる製品を作るために、高品質の素材とこだわりをもって、Blueair Protectの開発に多大な労力を費やしました。モダンで、なめらかで、ハイテクであり、同時に生活のジャマにならないものです。A4サイズほどの小さな面積で簡単に設置でき、ほとんどの家庭環境にうまくフィットするBlueair Protectのデザインは、個人的にも大好きです」

  • Blueair Protectの構造を示す画像。コンパクトな本体ながら高いパフォーマンスと高機能を実現するために、とても合理的に構成されている

    Blueair Protectの構造を示す画像。コンパクトな本体ながら高いパフォーマンスと高機能を実現するために、とても合理的に構成されている