スウェーデン発の空気清浄機専業メーカーとして、グローバルでも高い人気と販売実績を誇るブルーエア。そんなブルーエアが2020年12月に発売した「Blueair Protect」シリーズは、長きにわたり最上位モデルだった「Classic」シリーズのさらに上位にあたるフラッグシップモデルとして、このほど満を持して投入された。
業界を率いるトップメーカーの威信をかけて、最新鋭の技術を詰め込んだともいえるBlueair Protectシリーズ。その開発に至る経緯や製造過程のエピソードを、プロダクトマネージャーを務めるクリスティーナ・アーリンダー氏に語ってもらった。
「24時間365日、ウイルスや細菌から空気を守る」新たなフラッグシップシリーズ
まずアーリンダー氏は、Blueair Protectシリーズについて、「ブルーエアが『きれいな空気を提供する』ことにこだわり、創業以来つちかってきた経験やノウハウを生かして開発した、これまでで最も先進的な空気清浄機です」と説明した。
ブルーエアでは創業以来20年以上にわたり、コア・プロダクトであるClassicシリーズをベースに、機能やパフォーマンス、デザイン面において革新を繰り返してきた。しかし、Classicシリーズはその長い歴史ゆえに「統合しきるのが難しい時期に来ていた」と打ち明ける。そして、「次のステージに前進するには、まったく新しい製品開発の必要がある」との認識から、新シリーズの開発が始まった。
こうして封切られた「新しいフラッグシップ製品を作る」プロジェクト、始まりは2017年のユーザー調査だ。この調査は、現在のユーザーと潜在的な消費者を深く理解するために行われた。
「プロジェクトの始動から約4カ月、世界中の主要市場を回り、消費者の自宅を訪ね、空気浄化に関するさまざまなニーズと問題点を把握するユーザー調査を実施しました。そこで得たアイディアと、技術開発をスタートするための重要な情報、そして洞察をもとに、最初のプロトタイプを開発しました」と明かす。
調査の結果を反映して生まれたコンセプトは、「24時間365日、ウイルスや細菌から空気を守る」こと。その実現に向け、従来のテクノロジーを見直した。捕集能力は、0.03μmの超微粒子を99%以上除去する「HEPASilent Ultra」にグレードアップ。吸い込んだ空気を外側に放つ機構も、全方向に向けて広範囲に循環気流を拡散する「SpiralAir」に変わった。
加えて、本体がスタンバイ状態であっても、フィルター内のウイルスや細菌を不活化する「GermShield」を採用するなど、これまでのブルーエア製品の中でも最高峰の新しい空気清浄技術が詰め込まれた。
高性能・多機能化を図りつつ本体も小型化
Blueair Protectシリーズが秀逸なのは、こうした高性能・多機能化を図りながらも、本体が大型化するどころか、逆にコンパクトになっている点だ。内部を見ると、さまざまなパーツがパズルのように効率的に組み込まれ、「なるほど、その手があったのか!」と感心してしまう。
サイズ感に対するこだわりは、アーリンダー氏も強調するポイントだが、一方で機能向上とコンパクト化は、両立が困難だった点として挙げた。
「デザインの観点から、筐体はコンパクトな湾曲した形状で、美しく部屋に溶け込む必要があると考えていました。ところが、パフォーマンスの観点からすると、筐体は大きく、角張った四角い構造であるほうが優位で、吸込口と供給口を大きく取る構造が最適なのですが、そうなるとデザイン性が損なわれます。開発過程で最も困難だった点のひとつは、優れた工業デザインと優れたパフォーマンスのバランスや妥協点を見出すことでした。デザイン性とパフォーマンスは矛盾する要素なのです」
優れたパフォーマンスとデザインの共存
「空気清浄機はきれいな空気を作り出すことが最優先」と考えるブルーエアでは、まずは何よりも高い性能基準を満たす設計を目指した。その上で、性能と外観のバランスをとるために、ある特別な手法を用いた。
「優れたパフォーマンスとデザインを共存させるために、我々はデザイナーとエンジニアを集めて、1日だけ役割を交代してみるという試みを行いました。自分の専門分野ではない別の役割で行動することで、チーム全体であらゆる方針やビジョンを共有し、理解し合う原動力となりました」と秘話を明かす。
一方で、「優れた製品設計は絶対に不可欠ですが、設計は製品の外観だけではありません」と強調する、アーリンダー氏。「デザインは、ユーザーインタラクションをはじめ、使いやすさと耐久性、品質、そしておそらく最も重要なのは、それぞれの目的を満たす機能が統合的に設計されていることです」と続ける。
そうした要件を満たすために、特にユーザビリティーの改善には力を入れて取り組んだ。
そのひとつが、本体の天面に集約された操作・表示部「インタラクティブタッチスクリーン」だった。上位の2モデル(7770i、7470i)はフルカラーの液晶ディスプレイにインタラクティブなタッチスクリーンを備え、粒子数やVOCレベル(※)の検出結果、フィルターの寿命、温度、湿度といった情報を数値データでパネルに表示する。
※VOC(Volatile Organic Compounds):揮発性有機化合物
一方、スタンダードモデルでは、粒子の量を数値データでパネルに表示(7710i、7410iを除く)。ホコリや花粉などの粒子と、VOCレベルをLEDライトで色分け表示する機能は、全モデルに共通した仕様だ。
「Blueair Protectのユーザーインタフェースは、開発プロセス中に消費者と一緒にいくつものワークショップとテストを行い、開発したものです。消費者とのセッションを通して、室内の空気はきれいかどうか見分けるのが非常に難しいため、空気清浄機が効率的に機能している安心感を高める必要性を感じました。そこで、Blueair Protectの本体でユーザーと多くの情報を共有できるユーザーインタフェースとして、インタラクティブタッチスクリーンが開発されました」と語る。
PM2.5による健康被害など環境汚染が深刻化した2010年代以降、普及が進んで市場が成熟しつつある空気清浄機。業界のトップランナーとして、常に技術を更新し、市場をけん引してきたブルーエアが送り出したBlueair Protectシリーズは、高性能な本体に、シンプル&モダンという北欧メーカーならではのフィロソフィーが詰め込まれた渾身作といえそうだ。