2021年1月15日に発売されたシャープの空気清浄機「FU-NC01」。20年におよぶシャープの空気清浄機史上でも最小サイズとなるモデルだ。
小型化と同時に性能やデザイン性にもこだわって開発された新製品だが、多くの乗り越えるべきハードルがあり、技術的にも革新的な製品となった。
今回、その開発エピソードを、シャープ Smart Appliances & Solutions事業本部 空調・PCI事業部 国内PCI商品企画部 主任の千種真也氏(商品企画担当)と、同事業本部 国内デザインスタジオの岡勇樹氏(デザイン担当)に語ってもらった。
シンプルな円筒形の実現に奔走
前編で語られた経緯で大筋が固まったデザインだが、コンパクトで円柱状の設計は、製造段階も困難を極めた。中でも高度な技術が求められたのは成型だ。
樹脂の成型は、前後で金型を挟んで抜き取るのが一般的な方法。抜き取るためには、バリ線と呼ばれる立ち落とし線に3度の角度をつける必要がある。そのため、「通常の設計では(バリ線が)ハの字になって、台形に近い形になってしまうんです」と岡氏。
さらに、FU-NC01では陶器のような滑らかな質感にするため、表面にはシボ加工も施されている。これもまた成型を難しくした。岡氏は、「円錐状にならないよう、金型は多分割したものを用いています」と話す。
デザイン担当者がこれほどまでに円筒形にこだわったのは、円錐状と比べて操作部の面積が大きくなり、ユーザーの操作性が高まるからだ。
「ストレートなデザインを実現するために、リブの形状を3Dデータで何度も入力しましたね。デザイナーにとっては、いかに細部を調整するかが一番の仕事でした。シンプルにしようとすればするほど、大変になっていったんです」と振り返った。
性能を満たすために空気の吸引口はできるだけ大きく取りたいが、外観的にも衛生的にも美しさを保つために、できる限り吸引口を目立たせたくないという相反する思い。その綱引きは、底面の構造にもあった。
側面の吸引口を小さくして目立たなくすると、吸い込み能力が低下してしまう。そのため、底面からも空気を吸い込める構造にして補っている。本体をよく見ると、底面には台座のようなものがあり、少し浮き上がっている。
「床からの浮き具合も、空間があくほど性能的にはよくなります。そこで、空間を広くするよう設計側から指示が入るのですが、本体が高くなるとコンパクトさが失われてしまいます。そこで、台座の厚みを薄くして問題を解決しようと思いましたが、ペラペラな弱々しい台座では見栄えがよくありません。台座が根本から外側へ向かって少しずつ薄くなるように緩やかな曲線を描き、厚みに抑揚をつけることで、薄くても厚みを感じるように調整しています。全体的に少し丸みを帯びたフォルムですが、R(角)の取り方も試作機で形状を何回も見ながら削っています」(岡氏)
これまでのノウハウとは違う、新たな設計
上に向かって空気を放出する、吹き出し口の形状もユニークだ。中央に操作部があり、外径と内径の間から風が出る。
「風と同時にプラズマクラスターイオンも放出するので、すき間から優しくイオンを放出するイメージで、操作部と吹き出し口を浮島のように配置しました。ですが、この配置だと開口面積が小さくなってしまいます。そこで、開口面積を狭めても性能が確保できるファンの選定や、吹き出し口までの長さを設けることで風が出やすくなるように工夫しました」(岡氏)
直径190ミリという本体サイズは、フィルターの形状や性能面から決定された。
「事前に発泡スチロールで試作するのですが、本体はもっと小さくするのが理想でした。ただ、フィルターの形状や性能とのバランスから決定したのがこのサイズでした。直径を決めた後に、高さを330ミリに決めて、このサイズ感としてデザイン上はどうあるべきか? を議論して詰めていきました」(千種氏)
シャープの空気清浄機は、通常はシロッコファンを採用している。しかし、FU-NC01ではシロッコファンではなく、ターボファンの中でも特殊な形状のものを用いた。
「今回は小型サイズでありながら、プラズマクラスターイオンの適用畳数が6畳という必須条件をクリアするために、風を全周に効率よく出す必要があり、通常とは異なるターボファンを採用するに至りました。また、今までよりも厚みのあるフィルターによって、不純物の捕集面積を確保しています。総じて、シャープがこれまで培ったノウハウが通用しない製品でした」と千種氏は振り返る。
FU-NC01はナイトライト機能も備えている。その理由は「1台2役で使えるわかりやすい機能として照明機能を採用した」(千種氏)ためだ。
常夜灯をイメージして、後ろ半分が光るようになっている。岡氏は、「直接光が目に入るとまぶしく感じてしまうので、後ろ半分だけが光る仕様にしました。LED自体は、浮島のような構造の操作部の下に配置していますが、実際に暗いところに置いてみたとき、明るすぎないか、まぶしくないかなど何人もの社員で評価し、光のバランスや色味などを細かく調整しました」と、そのこだわりについても明かしてくれた。
シャープの空清に新たな道筋
さまざまな困難を乗り越えて世に出た、シャープ史上最小の空気清浄機。その開発と製品化で得た知見は、今後の空気清浄機が発展する新たな道筋を開くものでもある。千種氏は最後にその意義を次のように強調した。
「弊社のこれまでの空気清浄機は、壁際に置いて空気を効率よく循環させるように風を吹き出す仕組みでした。今回、FU-NC01が360°下吸い込みと全周吹き出しのコンパクトデザインになったことで、置き場所を気にせず、さまざまな場所で使っていただけるようになりました。新しい常識や概念を財産として、今後の可能性が広がる製品だと思っています」