2020年10月にキングジムから発売された、ラベルプリンター「テプラ」PRO “MARK” SR-MK1(以下、MARK)。テプラPROシリーズでは初めて、スマートフォンに接続して使う現代らしい仕様を採用した。
見た目も中身も、従来のテプラのイメージを覆す製品に仕上げられている。今回は特にデザイン面に注目。製品化にかけた思いを、キングジム開発本部 電子文具開発部 ラベルライター課に所属する企画・開発チームのメンバーに語ってもらった。
テプラではなく、MARKを主役にしたロゴ配置
MARKの密かなこだわりとして、おもに製品本体を担当した臼井香那子氏が明かしてくれたのがロゴの部分だ。トラディショナルな「テプラ」のロゴ自体は本体の背面にさりげなく配置して、MARKのロゴが表面にデザインされている。
「あえてとても細いフォントデザインを採用しているのですが、これは高精細のプリンターヘッドを搭載したMARKがキレイに印字できることを示しています」
MARK本体の操作部は電源ボタンのみ。この部分にも工夫が凝らされている。
「暮らしになじむデザインにするため、柴田さん(※)からはパッと無機質に点灯するのではなく、ぼんやりと光らせたいという要望がありました。光らせ方を何パターンも試作し、LEDのパーツが本体から飛び出て見えないように2色成型を用いるなど、細かな部分にまでこだわりました。本当に工場泣かせの製品だったと思います」(臼井氏)
※:MARKのプロダクトデザインを手がけたプロダクトデザイナー・柴田文江氏
「スマホで見たまま」を実現するため、機能を強化
PROシリーズの製品として高精細なヘッドを搭載しているMARKだが、企画された当初は方向性が異なっていたという。
「ご家庭向けのテプラは手ごろな価格を実現するため、業務用のものに比べ精細度の低いヘッドを採用するのが常でした。MARKもホームユースを意識したラベルプリンターとして開発を進めていたので、当初は180dpiのヘッドを検討していたんです。ラベル文字の視認性という意味では十分な解像度なのですが、柴田さんからちょっと(印字性能が)足りないんじゃないか、とご意見をいただきました。MARKでは、高解像度な画面のスマホでラベルをデザインします。だから、スマホの画面で見たままにプリントされるのが、ユーザーが期待する品質ではないかというご指摘でした」と打ち明ける。
企画全般のリーダーを務める井上彩子氏は、「高性能=業務向け、というメーカー的な考えが無意識に自分の中にもあることに気付きました」と話す。
「家庭向けの機種に、主に業務向けに採用していた高精細ヘッドを搭載することは考えもしなかったので、目からウロコでした。キレイな印刷物を手軽に出力できる新たな製品の提案は、既存のラインナップを見直すきっかけにもなりました。柴田さんにトータルでディレクションいただいたことで、本来のプロダクトデザインのあり方を改めて認識しました」と続けた。
MARKでは、新たに専用のスマホアプリ「Hello」が用意された。従来のiOS/Androidアプリ「TEPRA LINK」を引き続き使わなかったのは、それが業務向けの思想で作られていたためだ。
「(先に発売されたスマホ専用機である)LR30専用アプリ『TEPRA Lite』も自由に文字を動かせるほか、手書きや写真挿入、似顔絵作成といったスマートフォンならではの機能を持たせてはいましたが、入力方法は従来のテプラを踏襲した、テプラの操作感とスマホのいいところを組み合わせた設計でした。MARKではそれとは違う、新たなアプローチをしたいと考えていたんです。文字を打ち出したり、編集するだけのアプリではなく、どこにどんなラベルをどう貼るかという使い方から提案ができて、コンテンツ配信やユーザーとのコミュニケーションのプラットフォームになるようなアプリの開発を目指しました」と、アプリ開発担当のリーダーを務める川名太洋氏は続ける。
Helloには、印刷したラベルに日時や曜日をひもづけ、スマホのプッシュ通知を設定できるユニークな機能「タイムラベル」も盛り込まれている。
「アプリと連携することで新しいラベル体験を提供できないだろうか、との発想から生まれたのがタイムラベルでした。例えば、食材の賞味期限を書いたラベルを貼って終わりではなく、『期限内に食べる』という目的を達成するのに役立つようにしました」と川名氏。
スマホアプリは今後も随時アップデートされ、テプラとしての用途も広げていく。最後に、川名氏は展望も含めて次のように語ってくれた。
「アプリのよさは更新して進化できることですね。今までキングジムからリリースしたテプラ関連のアプリは、編集や印刷をサポートすることに特化していましたが、Helloではラベルの新しい活用方法の提案やテンプレートの追加、いずれは限定コンテンツの配信などにもチャレンジしていきたいと思っています。今まではテープと本体で売り上げを立ててきたビジネスでしたが、そこにコンテンツが加わったことで、テプラを使う機会そのものを増やせると考えています。テプラが持つ価値を、少しずつコンテンツにも増やしていきたいですね」