2020年10月にキングジムから発売された、ラベルプリンター「テプラ」PRO “MARK” SR-MK1(以下、MARK)。30年以上にわたるロングセラーのラベルライター「テプラ」の新製品で、テプラPROシリーズとして初のスマートフォン専用モデルだ。

スタイリッシュなインテリアになじむデザインは、これまで多くのテプラが持っていた事務機器のイメージを一新。家庭での使用を強く意識した製品でもある。今回はそんなMARKの誕生秘話を、キングジムの企画・開発チームのメンバーに伺った。

現代のライフスタイルにあった「スマホ専用機」を開発

  • キングジムの「テプラ」PRO “MARK” SR-MK1は、テプラPROシリーズ初のスマートフォン専用モデル。電源ボタン以外の操作部をなくして、シンプルでスタイリッシュなデザインに一新

    キングジムの「テプラ」PRO “MARK” SR-MK1は、テプラPROシリーズ初のスマートフォン専用モデル。電源ボタン以外の操作部をなくして、シンプルでスタイリッシュなデザインに一新

スマホと連携して使うテプラは今回が初めてではない。2019年に発売された感熱式のスマホ対応「テプラ」Lite LR30(以下、LR30)もスマホ専用機だったが、前述の通り感熱式のため、使えるテープの種類がPROシリーズより少なかった。

それ以前にも、2012年からスマホ接続に対応した機種はある。だが、本体のキーボードによる直接入力を前提に、パソコンやスマホと連携して使い方の幅を広げる目的の機能だった。

企画全般のリーダーを務めたキングジム 開発本部 電子文具開発部の井上彩子氏は、MARKが生まれた背景には、やはりスマートフォンの普及があったと説明する。

「いまや日常生活において、スマホはなくてはならない存在になりました。そんな中で、テプラからスマホ専用の新製品を検討するなら、スマホと使うからこその新たな価値を提案したいと考え、今回の企画がスタートしました」(井上氏)

  • スマホ専用モデルとして、MARKに先駆けて2019年に発売された「テプラ」Lite LR30」

    スマホ専用モデルとして、MARKに先駆けて2019年に発売された「テプラ」Lite LR30

2019年に発売されたLR30の企画・開発は、MARKとほぼ同時進行だった。

「LR30のヒットを受けてMARKに着手したというよりは、価格も機能もお手軽なLiteシリーズと、業務用から家庭利用まで幅広く使えるPROシリーズのどちらからも、スマホ専用機を投入する狙いで開発しました。結果として、先にLR30を市場へ投入しました」(井上氏)

柴田文江氏による「アイコニック」なデザイン

価格・機能ともにお手軽なLR30と差別化するため、MARKはデザイン・機能・印字品質ともにハイクオリティであることを目指した。

本体デザインは、プロダクトデザイナー・柴田文江氏に依頼。電化製品から日用雑貨、医療機器など幅広くプロダクトデザインを手がけ、グッドデザイン賞の審査委員長も務めた柴田氏。キングジムからは「暮らしに溶け込み、新しいラベル体験が提供できるような『テプラ』を作りたい」とオーダーしたそうだ。

「MARKは、食器や花瓶のように、シンプルなたたずまいで暮らしに溶け込むデザインを目指していました。柴田さんのデザインは、日用品としての使いやすさはもちろん、シンプルな中にも温かみがある優しいイメージがあり、目標とするイメージにぴったりだと思いお願いすることになりました」(井上氏)

柴田氏から掲げられたデザインコンセプトは「アイコニック」。テプラらしさを残しつつも、そこにアイデンティティを感じるデザインにしたいと提案されたデザインイメージは、「奇抜な形ではないのに新しさを感じるもので、不思議な感覚になりました」と井上氏。

  • テプラのイメージを一新したデザイン。事務機器には見えない外観で、卓上や棚の中でもインテリアの一部として上品にたたずむ

    テプラのイメージを一新したデザイン。事務機器には見えない外観で、卓上や棚の中でもインテリアの一部として上品にたたずむ

色やカタチで上質感を表現

MARKの目指す高品質を表現するため、ボディの質感には力を入れて取り組んだ。

「MARKは質感がすごく良いと評判なのですが、外装には細かいシボ加工を入れているんです。質感にこだわる場合、通常は塗装をすることが多いのですが、今回は塗装に頼らず樹脂成形のみで陶器のようなすべすべとした質感を出しました。パーツの接合部分も、分割線がなるべく見えないようにしています。通常、製造上のばらつきや組み立てやすさなどを考慮して、すき間や遊びの部分を設けているのですが、MARKでは上質さを表現するために、できるだけシームレスに見せる工夫をしています」(井上氏)

  • 角がなく、樹脂の接合部分のつなぎ目もシームレスで目立たない。表面にはシボ加工が施され、マットで上品な質感は陶器のよう

    角がなく、樹脂の接合部分のつなぎ目もシームレスで目立たない。表面にはシボ加工が施され、マットで上品な質感は陶器のよう

カラーリングはベージュとカーキの2色を展開。これも今までのテプラのイメージを大きく覆す要素だ。

「カラーリングも柴田さんからの提案です。これまでのテプラにはない色で驚きましたし、社内では賛否両論がありました。でも、MARKはオフィスワーカーではなく、ホームユーザーを意識した製品。家庭の中で見たときにしっくりとなじむカラーであることが第一です。今までのテプラの常識からはなかなか思いつかない色でしたが、ご家庭や最近のオフィスのインテリアトレンドからすると、むしろこのほうがマッチすると思いました」

プロダクトデザイナーに柴田文江氏を迎えてスタートしたMARKの企画開発。プロジェクトは、単に見た目のデザインをよくするだけでなく、製品の価値を見直すところから始まった。

30年以上の歴史を誇るテプラにおいても、新しい体験を提供するという目標は、チャレンジングで革新的なものであったことが伺えた。