個人的な話で恐縮だが、ヨーロッパの全寮制の学校に留学していたときのこと。お湯を沸かすために、学生用のキッチンに向かい、そこで見た「電気ケトル」にちょっとした驚きを覚えた。

日本製の「電気ポット」が円筒形で背が高いのに対し、それは丸みを帯びたずんぐりむっくりの愛らしいかたち。台座から伸びるケーブルがコンセントにつないであるのを確認し、本体の蓋を開いて、水を注ぎ、台座に置いて、ハンドルの部分にあるスイッチを入れる。すると、すぐにお湯が沸く音が聞こえてきて、"カチン"というスイッチが元に戻る音。それがお湯の沸いた合図だ。でも、保温の機能はないので、すぐに使わないと冷えてしまう(※)。だから、"ケトル"なのだ。お湯が沸いたら電子音で知らせ、保温までしてくれる日本製のように、"至れり尽くせり"ではないが、ほんとうに必要な機能を厳選した潔さと、個性的なデザインに好感を持ったのを今でも記憶している。

それが、ティファール製品とのはじめての出会いだった。素っ気ないインテリアの学生用のキッチンの中で、ヨーロッパのエスプリを感じさせてくれたティファールの電気ケトルは、メイドインフランス。1956年に世界ではじめて、こびりつかない(ノンスティック)フライパンを発明したティファールは、温度の見える「お知らせマーク」が付いたり、取っ手が着脱できたりするフライパンや、ワンタッチで蓋の開閉が可能な圧力なべを開発するなど、調理器具ブランドとして確固たる地位を築き、現在では世界約120か国で愛用されている。

本格的な料理からちょっとしたティータイムまで、使い勝手に優れるコンパクトなデザイン

ティファールのものづくりに共通するのは、暮らしに役立つ機能と、流行をとらえつつも暮らしに溶け込むデザインを備え、現代に生きる人々の毎日の暮らしを楽しくしたいという思い。そこから、本日ご紹介する卓上IH調理器「コンパクトIH」も誕生した。

トッププレートは、ヨーロッパが誇る特殊ガラスメーカー、ショット社が開発した「ショットセラン」。熱や衝撃に強く、そして黒の光沢が際立つ

「内食」という言葉を聞いたことはないだろうか? 不景気な昨今において、外食を控え、家で食事をする家庭が増えているという。コンパクトIHでは、料理に応じて、とろ火から弱火、中火、強火まで6段階で火力レベルと保温の設定ができるほか、「加熱調理」「揚げ物」「煮込み」「湯沸かし」という4つの調理コースを用意している。ボタンひとつで簡単にコースが選べるのは、初心者には特にうれしい機能だ。また、小さな子どもが一緒でも安心な「チャイルドロック」や、操作部に「点字」を表示するなど、すべての人々に使いやすい配慮がなされている。エコに対する意識や、安全性、光熱費の節約という観点からも、IHは時代に合っている。

操作部を下部に設けることで、すっきりとしたデザインに。点字も併記

視認性の高い表示部

もうひとつ見逃せないのが高いデザイン性。コンパクトで洗練されたデザインは、置く場所を選ばない。トッププレートには、熱や衝撃に強い高品質セラミックガラスを採用。美しい黒の光沢が際立つとともに、フラットゆえにメンテナンスがしやすいという機能的にも優れている。

デザインを手がけたのは、日本人デザイナーの安積伸氏。曰く、「操作部をプレート面から切り離したデザインは、やけど防止など操作時の安全性を生むだけでなく、コンパクトでスタイリッシュな印象を与えます」(同氏)。

側面の流線形のライン。360°どこから見ても美しい

コンパクトIHは、家族そろっての夕食や友人を招いてのティータイムなど、料理を通じて、大切な人たちとの距離を縮めてくれる美しい道具なのだ。

安積伸

1965年 神戸市生まれ。1994年、RCA(英国王立美術大学)修士課程修了。1995年からデザインユニット「AZUMI」として活動後、2005年に個人事務所「a studio」を設立。プロダクト、家具、空間などを中心に、幅広くデザインを手がけている。代表作に、「LEM」「Yauatcha Tea Set」など

※一部、例外あり