既成概念を捨て去ることで誕生した掃除機、ダイソン「DC26」

「吸引力の変わらないただひとつの掃除機」
イギリスの家電メーカー、ダイソンの掃除機の機能を簡潔に表現したコピーである。世にキャッチフレーズの類は数あれど、近年の家電の中でこれほどインパクトのあるコピーは他にないだろう。

ダイソン社および創業者のジェームズ・ダイソン氏についておさらいしておこう。

ポール・スミス氏、テレンス・コンラン卿とともに、イギリス3大デザイナーと称されるダイソン氏は、1947年生まれ。英国王立美術大学(Royal College of Art)在学中から、高速の上陸用舟艇シートラック(Sea Truck)を開発するなど、デザイナー、エンジニアとして、早熟の才能を発揮していたダイソン氏は、従来からの紙パック式の掃除機に不満を覚えるようになる。その解決のためのヒントは、近所の製材所にあった。

製材所内に置いてあった巨大なサイクロンが、おがくずを分離し、集塵室に集める様子を見たダイソン氏は、この原理を掃除機に応用できないか、と考える。そして、5年の歳月と無数のプロトタイプを経て、紙パックを使わない、吸引力の落ちない掃除機の発明に成功したのだ。

だが当時、この斬新な技術に興味を示す企業はなかった。その後、最初にダイソン氏のサイクロン技術を受け入れたのは、日本だった。それを機に、ダイソン社を設立し、「DC01」が産声を上げた。1993年のことだった。

創業以来、世界中にシェアを伸ばしていく過程においても、製品の改良の手を緩めることがないダイソン氏は、見る者の心を躍らせるこれまでにない機能を持つ掃除機を世に送り出していく。そして、今春発売されたのが、ダイソンでもっともコンパクトなモデル「DC26」だ。

「吸引力が変わらない」「紙パックが不要」などのダイソンの代名詞的な機能に加え、カーペットの奥のゴミやペットの毛も逃さないモーターヘッドなど、機能面でも確実に進化しているが、一番の特徴は、A4用紙とほぼ同じサイズという小型化を実現したことだろう。従来の「DC22」に比べ、DC26は、体積で4割減、本体重量で約4.8kgから約3.3kgに軽量化されている。狭い住居の多い日本向けに開発されたとのことだが、このコンパクトサイズなら小回りも利くし、女性でも取り回しが楽だ。

ダイソンの素晴らしさは、機能だけではない。秀逸なのは、押し入れにしまわずに、壁にもたれかけさせておいてもインテリアの一部になる、そのデザイン。透明のボディにカラフルなカラーがアクセントとして添えられたボディは、視覚的な美しさとともに、実際のサイクロンの動作をオープンに見せるという製品に対する自信の表れと見ることもできる。その優れた機能美は、ロンドンのビクトリア&アルバート博物館、デザインミュージアム、ニューヨーク近代美術館、パリのポンピドゥ・センターなどで展示されていることからも証明されている。さらにDC26は日本でも高く評価され、2009年度グッドデザイン金賞を受賞した。

ダイソン氏の留まるところを知らないアイデアは、近年では掃除機以外にも発揮されており、今秋発表された"羽根のない扇風機"「エアマルチプライアー」に、衝撃を受けた方も多いことだろう。

これからのダイソン氏の夢は何なのだろう、と考える。永遠の発明少年を思わせるダイソン氏のものづくりはずっと続いていくことだろう。さらに、次世代のデザイナー、エンジニアを発掘、育成するために実施されている「ジェームズ ダイソン アワード」の実施や、2011年にイギリスのバースに「ダイソン スクール オブ デザイン イノベーション」の開校を予定しているなど、第2、第3のダイソンの登場を心待ちにしているようにも思える。

ダイソン氏が創造するデザインおよびエンジニアリングの進化を見続けていきたい。

Cafe Obscura

今回の撮影場所は、三軒茶屋駅から6分ほどの静かな環境にある「Cafe Obscura」。今年の春にオープンしたばかりの新しい店だが、早くも三軒茶屋界隈の感度の高い人々が集う場所になっている。スペシャリティコーヒー専門店ならではの品揃えで、9種類(ストレート7種類、ブレンド2種類)のコーヒーを日替わりで楽しんだり、棚に置かれた本を読んだりとひとりの時間をゆっくりと楽しむこともできる

住所:東京都世田谷区三軒茶屋1-9-16
営業時間:12:00～23:00
定休日:第3水曜日