前回は、カウベル効果について解説いたしました。今回は、筆者が2021年に読んだ資料の中から財務担当者向けの参考文献を紹介いたします。新刊以外も含まれております。

  • 2021年版 財務担当者へお薦めする参考文献

    2021年版 財務担当者へお薦めする参考文献

金融・資本市場リサーチ

2021年2月創刊の季刊誌で、「産官学のプラットフォームとして金融・資本市場についてのオピニオン・論考を発信する媒体」とのことです。一橋大学大学院経営管理研究科のメンバーを中心に、民間からも執筆者を募って発行されています。個人的には、マーサージャパン株式会社 代表取締役社長CEO 草鹿泰士氏の連載「フィンテックスタートアップ戦記」を楽しみに読んでいます。

サラ金の歴史

2021年2月発売。法人向け融資について考えるとき、出資による資金調達と比較することでメリット・デメリットを把握できたように、個人向け融資の特徴と対比することで更に理解が深まります。日本におけるマイクロファイナンスの歴史が記されており、人間がいかに借りたお金を返さないか、知ることができます。現代の起業家が融資の経営者保証に対して異を唱える気持ちも分かりますが、先達が好き勝手に資金提供者を蹂躙してきた結果として出来上がった制度でもあるので、資金調達の契約をビジネスとして合意することの大切さを再確認しました。

企業価値向上のための資本コスト経営 投資家との建設的対話のケーススタディ

2020年8月発売。東京証券取引所が公表しているコーポレートガバナンス・コードにおいて、上場企業は自社の資本コストを適格に把握することが求められております。その資本コストの推計方法について最新情報が紹介されているとともに、IR(Investor Relations)の実例が収録されており、財務担当者が経営戦略や経営計画について投資家とコミュニケーションを取る際の参考になります。

ザ・ネクストバンカー 次世代の銀行員のかたち

2019年8月発売。銀行の支店長をはじめとした、現場で働くリーダーのインタビューを集めています。銀行員がどのような気持ちで仕事に取組み、どのようなことを考えて行動しているのか、窺い知ることができます。融資は商取引ですから、企業の財務担当者は取引先である金融機関の担当者のことを知るに越したことはありません。相手の立場を知る一助になる本です。

実録 資金ショート危機から生還した病院 銀行に見殺しにされないための十箇条

2009年10月発売。病院の経営再建を担った担当者が書いた、金融機関との交渉録です。交渉前の準備としてのコストカットの過程、複数の金融機関と同時並行で交渉するための段取り、登場人物の言葉遣いや言い回し等、全てが生々しく感じられます。銀行から提出を求められた資料の一覧や、実際に作成した事業計画書や資金繰り表も掲載されており、赤字の環境下で融資の申し込みする際の指針となります。

中小企業金融入門(第2版)

2006年3月発売。民間金融機関・公的金融機関だけでなく、直接金融やノンバンク・リースまで含めたかたちで中小企業を取り巻く資金調達環境を解説している書籍です。特にノンバンクとリースに関しては取引実態を解明している文献が少ないため、参考になります。日本とアメリカやヨーロッパの公的な融資制度を比較する章も設けられており、国内の資金調達環境の特徴を理解する上で助けになります。

P.O.ファイナンスの企業ニーズ(中間)報告

2013年3月に金流商流情報連携タスクフォースの活動報告として発表された資料です。本連載第45回で紹介したPO(Purchase Order)ファイナンスについて、詳細に調査・検討されています。海外事例も紹介されており、ビジネススキームや具体的な利用シーン、融資の諸条件の水準が書かれていて勉強になります。なお、本報告書の内容を引き継いで公表されている資料は「SCM における金流商流情報連携」になるので、併せてチェックするとよいでしょう。

参考文献の紹介は以上です。本年もデットファイナンスを巡る最新情報を中心に、10回に渡って連載させていただきました。2022年も不定期ながら書き続けたいと思っております。お読みいただきありがとうございました。