前回は令和2年度(2020年度)の制度融資について、東京23区の新型コロナ対応制度融資に的を絞って紹介いたしました。今回は第2回「融資の概要」で説明した、融資の要素である担保と保証について、内容を補足します。
担保や保証の利用実態については、2008年に一橋大学経済研究所の植杉威一郎教授らがまとめた『担保は国内中小企業のパフォーマンスにどのような影響をおよぼすのか』に分かりやすく書かれています。 担保を提供している企業の割合は77.4%、担保を提供していない企業の割合は22.6%です。担保の内訳は、複数回答ありの数字ですが不動産が95.9%、預金が22.8%、株式が9.2%、手形が6.9%と、換金性が高い資産が並んでいます。
これを見ると、担保の大部分は不動産で、時折有価証券を利用することがあるという理解でよいと思います。ただ、創業したばかりの企業が不動産や有価証券を保有していることは稀なので、担保がないことを理由に創業融資を諦めることはありません。創業者向けの制度融資も無担保のものが用意されているので、各地方自治体の情報を集めると良いでしょう。
一方、担保に使われる動産へ目を向けると、機械が5.4%、売掛金が0.8%、知的財産権が0.1%となっており、動産担保融資(ABL、Asset Based Lending)の制度がまだまだ活用されていない実態が見て取れます。この数値の低さは、実務面においても金融機関側の法人営業担当者が未経験である可能性が想定される数字ですので、動産担保融資を申し込む際は十分なリードタイムを取る必要があります。
担保を提供することの効果については「収益が改善すること」と「財務の悪化が回避されること」が挙げられます。また、担保を提供して1年間の企業に起きたパフォーマンスの変化として、総資本利益率(ROA)が1.2%改善し、赤字に陥る確率が12%低下、返済不能に陥る確率が0.6%低下すると分析されています。企業側から見た場合、特に心理面でネガティブに捉えることが多い担保ですが、デメリットばかりではないようです。
最近の研究結果についても確認しましょう。2018年に神戸大学大学院経営学研究科の内田浩史教授らの研究グループが発表した『日本の創業ファイナンスに関する実態調査の結果概要』に、民間金融機関から借り入れることができた企業の担保の差し入れ状況と、保証の付与状況が解説されています。
●創業企業
・不動産担保を差し入れたもの:18.6%
・不動産以外の担保を差し入れたもの:1.4%
・経営者による個人保証を付与したもの:47.1%
・信用保証協会による保証を付与したもの:58.1%
●第二の創業といえる設立、つまり法人化を新たに行った新規設立企業
・不動産担保を差し入れたもの:15.3%
・不動産以外の担保を差し入れたもの:4.6%
・経営者による個人保証を付与したもの:56.1%
・信用保証協会による保証を付与したもの:54.9%
このデータから、創業企業・新規設立企業のいずれも、担保を差し入れていない企業の割合がおよそ8割だと読み解くことができます。また、信用保証協会による保証を付与するケースは経営者による個人保証も同時に付与されるので、無保証の融資を受けた企業はおよそ4割だと類推されます。事業経験の長さが異なるにもかかわらず、創業企業と新規設立企業の傾向が似通っているように感じられることは、興味深いです。
先述の2008年の研究成果と比較しても不動産担保の利用状況に明確な差異があり、起業家が無担保で融資を受ける割合が増えていると言えるでしょう。政策的に創業が後押しされており、デットファイナンスにおいても制度融資を通じて支援が行われている証左だと考えられます。
なお、差し入れる担保の大多数が不動産だという点については不変のようです。
担保と保証の相互の関連性については、2016年のディスカッションペーパー『無保証人貸出の導入と企業の資金調達・パフォーマンス』にて検討されています。
この資料は、日本政策金融公庫中小企業事業を対象に分析されており、「融資件数を見てみると、有保証人貸出であっても無保証人貸出(保証人免除特例)であっても、その貸出が有担保貸出である比率には大きな差は見られない。この傾向は、融資総額で見ても、利用企業数で見ても同様である。この結果は、保証人の有無の選択と担保の有無の選択が、独立に行われていることを示唆している」ということがわかります。これは保証と担保との間に関係がない、相関がないということですが、一方で、担保の有無を選択することができるのは資産を保有できる程度まで成長した企業に限定される点に注意が必要です。
また、融資を受ける企業の財務状況の観点では、「保証人の場合には無保証人企業ほど格付が良く借入金比率が低いのに対し、担保の場合には無担保企業ほど格付が悪く、借入金比率が高い傾向にある」との結果が出ています。一部の創業融資を除けば好業績が続く企業でないと無保証融資を受けることができませんし、スタートアップ企業の大多数が創業時に担保たり得る資産を持ってないので、研究成果は実務と比較しても整合的だと言えるでしょう。
担保と保証に関する補足説明は以上です。 次回は第17回でも触れた融資金利の相場について、追加の情報を提供いたします。