前回は、融資の申込時に提出する書類のうち、企業概要、商品・サービス案内、メディア掲載履歴、売り上げ上位10社、仕入れ上位10社、借入残高一覧を作成する際のポイントについてレクチャーいたしました。今回も前回に引き続き提出書類について触れますが、経営計画(事業計画)の作り方に的を絞って整理します。
株式会社A 経営計画(サンプル)
融資を受けるにあたって金融機関へ提示する経営計画では、返済原資となる利益を生み出す仕組みについて説明する必要があります。利益を生み出す仕組みとは即ち、(1)商品・サービスを潜在顧客に知っていただく、(2)商品・サービスを購入していただく、(3)商品・サービスを提供する、というサイクルを回すことです。
加えて、(1)(2)(3)の活動を支える資源であるヒト・モノ・カネをどのように調達するのかについても、利益を生み出す仕組みに内包されています。上記の構成要素をわかりやすく示す資料が経営計画なのです。過去に筆者が作成した、小企業向けの資料をサンプルに紐解きます。
●事業概要
(1)飲食店 店舗運営
営業時間 17:00~23:00、モーニング営業なし、ランチ営業なし
(2)飲食店 コンサルタント
メニュー監修/商品監修 ※(1)の営業時間外に取り組む
(3)食品販売(直接販売/飲食店店頭)
手土産 茶菓子、惣菜
●代表取締役B経歴
20XX/3 C県D高等学校 卒業
20XX/4 E株式会社 入社
板前としての下積み経験。高級店のサービスの基本を学ぶ。
20YY/6 E株式会社 退職
20YY/7 F株式会社 入社
店主からマンツーマンで味付けや包丁などの技術指導を受ける。
カウンターに立ち接客も担当。
20ZZ/9 F株式会社を退職し、新店舗を開業する予定。
●収支計画(売り上げ計画および費用計画)
概要(半年毎)単位:円
(1)飲食店 店舗運営 試算の想定
全10席(カウンター6席、個室4席)
営業日は月25日
1席あたりの売り上げ期待値22,500円
席の稼働率は、開店当初50%から70%まで引き上げていく
毎年10%ずつ改善して2年で達成する
(2)飲食店 コンサルタント 試算の想定
スポットで年に数件受託
手土産品:商品企画、パッケージ企画、デザイン企画
各種催事:催事企画、補助、協業先のご紹介
プロジェクト単価は100,000円から300,000円
(3)食品販売(直接販売/飲食店店頭) 試算の想定
・茶菓子詰め合わせ 単価3,500円、月30個
・惣菜 準備中
計算過程の詳細(月次試算表24カ月分)⇒別紙を参照※本サンプルでは割愛
●設備計画
・店舗
家賃月額300,000円想定 → 保証金3,000,000円
・内装
テーブル・椅子・カウンター・壁 → 10,000,000円
・厨房機材
冷蔵庫・鉄板・ダクト → 6,000,000円
・食器
一式 → 1,000,000円
初期設備投資 合計20,000,000円
●購買計画(仕入れ)
・取引先企業一覧
●人員計画
・組織体制
調理1名(代表取締役 B)
ホール1名(採用する予定)
テーブルコーディネーター外部委託1名
ワインプランナー外部委託1名
バックオフィス外部委託1名
記帳・税務申告: G税理士事務所 H氏
・採用計画
紹介で探す予定。難しければ、求人媒体を併用。
●広報計画
年2件、書店販売される媒体に掲載されることを目標とする。
F株式会社の顧客に報道関係者が多数おり、下記の記事の掲載実績がある。
口コミで取材の依頼が舞い込み、インターネット媒体においても記事が出た。
過去実績
●広告宣伝計画
・広告出稿
Webやコミュニティ誌等の有料媒体を使用する。
・ダイレクトメールおよびe-mail
F株式会社入社時の顧客リストは50件。案内の送付後の来店状況は下記の通り。
年1回来店 :2割
年2回来店 :2割
年3~6回来店 :3割
年6回以上来店 :3割
新店舗の開店にあたり、保有している顧客リストは200件。
ダイレクトメールを送付するほか、季節メニューのご案内も随時送付する予定。
e-mailは月1回配信する。
●資金計画
必要資金: 23,000,000円
[内訳]
初期設備投資: 20,000,000円
運転資金: 3,000,000円
調達金額: 23,000,000円
[内訳]
自己資金: 3,000,000円
融資: 20,000,000円
以上
「事業概要」のセクションでは、どのような商売を営むのか、言い換えればどのような「(2)商品・サービスを購入していただく」かを、端的にわかりやすく書きます。「代表取締役 経歴」は履歴書や職務経歴書をまとめるイメージで、「(3)商品・サービスを提供する」ために必要なスキルをどこで身につけたのか明らかにします。
「収支計画」は、サンプルでは開店当初から黒字となっておりますが、仮に赤字となる見込みでも、いつまで待てば業績が反転するのかを提示できれば十分です。試算にあたって想定した数字について、補足するとよいでしょう。「(2)商品・サービスを購入していただく」結果として売上高がいくらになって、「(3)商品・サービスを提供する」ために費用をいくら使ったのか、概算します。
「設備計画」は「(3)商品・サービスを提供する」ために必要な「モノ」の調達に関する内容です。「購買計画」も同様です。資金使途を明確にするとともに、先払いの費用がどの程度あるのか金融機関側が類推できるようにします。「人員計画」は「(3)商品・サービスを提供する」ために必要な「ヒト」の採用状況と業務執行の体制について列挙し、オペレーションが破綻しないことを傍証するようにします。
「広報計画」は「(1)商品・サービスを潜在顧客に知っていただく」ためにどのような活動をして、当面の目標をどこへ置くのか、見込みを書きます。PRは活動の効果が予想しづらいので、計画通りに実績を積むことは難しいですが、闇雲に取り組まないことを事前に宣言した方がよいと考えます。
「広告宣伝計画」は「(1)商品・サービスを潜在顧客に知っていただく」側面と「(2)商品・サービスを購入していただく」側面の両者に関わりますが、施策毎にどのような効果が期待されるのかを見積もり、計画通りの売上高を達成できるか否かを確認できるようにします。
最後の「資金計画」は上記の各計画を踏まえて、必要となる資金がいくらで、そのうち融資で調達する「カネ」がいくらなのか、情報をまとめたものになります。
経営計画の作成方法の例示は以上になります。次回は第8回で触れた「紐付き融資」を申し込む際の添付資料について取り上げます。
※写真と本文は関係ありません
筆者プロフィール: 千保 理(せんぼ ただし)
株式会社情報基盤開発CFO(最高財務責任者)
ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。財務と広報を兼務し、融資を受けた金融機関向けに経営状況を伝えるデットIR(Investor Relations)と、報道機関を介して社会全体へ情報発信するPR(Public Relations)を担う。Microsoft Innovation Award 2015にて、株式会社情報基盤開発のデータ入力業務支援ソフトウェアAltPaperが優秀賞を受賞した際のプレゼンター。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、弥生株式会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。