前回は最新の資金調達環境について、出資と融資を比較しながらレビューしました。今回は、連載の第6回「融資の申込時に提出する書類」で解説した内容を補完してまいります。

融資は元本の返済を約束して資金調達をする方法ですから、提出する書類は必然的に「私は何者でどのようにお金を返済するのか」を説明するものになります。

書類の雛形は、日本政策金融公庫の創業計画書や信用保証協会の信用保証委託申込書(例えば東京信用保証協会などのように指定された書式が存在するケースもありますが、補足資料に書く内容については金融機関側からフォーマットを指定されない場合も多いです。

資料の章立てが書き手に委ねられると、情報が足りているか否か心配になると思います。そのようなとき、作文の教科書によく登場する5W3Hの考え方が良いガイドラインとなります。伝えたい内容を構成するWhen、Where、Who、What、Why、How、How many、How muchの各要素について列挙すれば、情報をわかりやすく整理できます。

もちろん、5W3Hの全てを満たせないこともあるでしょう。全項目を無理に絞り出す必要はありません。5W1Hや6W3Hのように他流派も存在しますし、そちらを採用していただいても問題ございません。内容が明確に伝われば大丈夫ですし、書きやすさも重要です。資料ごとに確認していきましょう。

企業概要

融資を申し込んだ企業が何者かを説明します。取引先へ配布するパンフレットやWebサイトに掲載している内容を印刷して金融機関へ渡しますが、情報が不足しているケースもあるので面談時に適宜補足します。

商品・サービス案内

将来の利益で資金返済することを説明する場合、前提条件として、何を売るのかを示す必要があります。企業概要と同様に取引先へ配布するパンフレットやWebサイトに掲載している内容を印刷して金融機関へ渡しますが、新商品発売前で準備が整っていない場合はメモ書きでも構いません。

メディア掲載履歴

自社の商品・サービスに関する資料が、独りよがりな主張を書いたものではなくて第三者が認めていることを示します。自社が発信した広告は除きます。

売上上位10社

特定の販売先企業や業界に対して過度に依存していないか、マクロ経済の環境変化に対して売上高がどのくらい敏感に反応するか、営業活動に必要な資源がどの程度かを類推するための根拠資料になります。

仕入上位10社

商流を補足説明するとともに、特定の調達先に対して過度に依存していないか、どのような生産要素の価格変動に敏感かを類推するための根拠資料となります。

借入残高一覧

計算書類(貸借対照表)に記載されている短期借入金や長期借入金の明細を作成します。勘定科目明細(11)の借入金及び支払利子の内訳書で代用するケースもあります。過去の与信の履歴であり、将来の資金繰りを推計するための根拠資料にもなります。下記の例では社債のケースを割愛しています。未利用の当座貸越枠が存在する場合は残高がゼロとなり記載しないことも考えられますが、一覧表外に追記すると、より丁寧な説明となります。

融資の申込時に提出する書類のうち、企業概要、商品・サービス案内、メディア掲載履歴、売上上位10社、仕入上位10社、借入残高一覧を作成する際のポイントの解説は以上になります。

次回も今回の続きで、経営計画のまとめ方について補足説明します。

※写真と本文は関係ありません

筆者プロフィール: 千保 理(せんぼ ただし)

株式会社情報基盤開発CFO(最高財務責任者)

ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。財務と広報を兼務し、融資を受けた金融機関向けに経営状況を伝えるデットIR(Investor Relations)と、報道機関を介して社会全体へ情報発信するPR(Public Relations)を担う。Microsoft Innovation Award 2015にて、株式会社情報基盤開発のデータ入力業務支援ソフトウェアAltPaperが優秀賞を受賞した際のプレゼンター。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、弥生株式会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。