前回、確定拠出年金で何を選べばよいか迷った際のヒントとして、「アラカルト分散投資」と「セットメニューおまかせ投資」の考え方を紹介しました。
定期的な運用のメンテナンスが必要
二つとも、手軽な方法ですが、一つ注意が必要です。それは、確定拠出年金を通じた資産形成は原則60歳になるまで続く長期の取り組みであるため、定期的な運用のメンテナンスが必要になる点です。
メンテナンスとは、配分している投資信託ごとに異なる値動きが生じる結果、時間の経過とともに当初の資産配分のバランスが次第に崩れてくるのを元に戻す作業、すなわち、前回ご紹介した、国内外の株式・債券に25%ずつ配分した例で言えば、価値の上昇が大きく25%以上に膨らんだ資産を売って減らし、25%を割り込んだ資産を買い足す作業を指しています。この作業は「リバランス」と呼ばれ、できれば3カ月に一度、少なくとも年に一度は行うことが望ましいとされています。
長期運用のメンテナンスにはもう一つ、「リアロケーション」という、資産配分を自身の年齢やライフステージに応じて再調整する作業も欠かせません。
一般的に、将来に向けた賃金上昇が期待でき、長期間運用ができる20代では、株式の組入比率を高めにした資産配分が望ましい一方で、賃金上昇が一服し、リタイアまでに残された期間がそれほど長くない50代では、リスクの高い株式の組入比率を落とし、債券を中心とした資産配分にすることが理にかなっているとされています。
ですが仮に20代の時に4資産に25%ずつの配分をしたまま、50代になっても配分を変えていなかったとすれば、リタイア直前にかなり思い切った運用のリスクを取っていることになってしまいます。
米国発の自動運用の仕組み「ターゲット・デート・ファンド(TDF)」
第3回の本コラムで紹介した米国発の「自動運用」の仕組みは、まさにこの「リバランス」と「リアロケーション」の二つのメンテナンスニーズに対応したものです。それら機能を備えた究極のおまかせファンドともいえる投資信託は「ターゲット・デート・ファンド(以下、TDF)」または「ターゲット・イヤー・ファンド」と呼ばれています。
TDFのコンセプトは極めてシンプルです。例えば、2015年に25歳の人は退職年齢を60歳と仮定すれば、35年後に当たる2050年を「ターゲット・デート」とするTDF2050を選ぶだけで、資産配分からリバランス、リアロケーションまでこのファンドが35年間の長期分散積立投資をサポートしてくれます。
厳密にいえばTDFは一年刻みでファンドが用意されているわけではなく、5年刻み、10年刻みで用意されたファンドから自分の退職時期に一番近いものを選ぶ形になります。先のことはなかなか見通せるものではありませんし、退職時期も当初の予定から5年、10年単位で変動するかもしれませんが、それならそれで、変動が見えてきたところで別のTDFに乗り換えればいいわけです。
日本ではまだそれほど広く知られていませんが、TDFはこれまで見てきた確定拠出年金における「何を選べばいいか分からない」「リスクの低い元本確保型商品に長期間置いておくだけでは、十分な老後のための資産形成ができない」「運用には定期的なメンテナンスが必要」という、いくつかの根本的かつ簡単ではないチャレンジを乗り越えるための、具体的な処方箋として次第に普及が進むものと期待されています。
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確定拠出年金と他の資産形成手段との比較
最後になりましたが、確定拠出年金を他の職場または個人の資産形成手段と比べた場合のメリットと特徴について触れておきます。
皆さんの中には、2014年にスタートした少額投資非課税制度(NISA)や、職場を通じて勤労者の財産形成を支援する財形貯蓄制度(財形)について耳にしたことのある方もおられるかもしれません。両制度とも確定拠出年金と同じく税制メリットを有する貯蓄・投資の仕組みです。
NISAは資金引き出しの自由度が高い一方で、最長で5年間という非課税期間の短さや、資金拠出時の税優遇(所得控除)がないこと等、税メリットの大きさでは確定拠出年金には及びません。
財形は、NISAと同じく所得控除を受けることはできないものの、老後生活や住宅購入を支援する目的であれば、一定の税優遇が設けられています。投資先は預貯金型や保険型商品の利用が多く、給与天引きによる貯蓄の手段として広く普及していますが、確定拠出年金に比べると選べる運用商品が限られています。
この他、上場企業を中心に多くの職場で提供されているのが従業員持株会です。税メリットはなく、勤めている会社の株式を給与や賞与天引きで定期的に購入し、中長期的な資産形成を支援する制度ですが、会社によっては上乗せで奨励金が支給される場合もあります。従業員が株主となることで自社の経営や株価への関心が高まることを期待して提供されているケースが多いようです。
確定拠出年金では、掛金はそもそも従業員(加入者)の給与とは見なされません。もし確定拠出年金に加入して掛金を出すか、あるいは加入せず同額を給与として受け取るかの選択肢を与えられた場合には、確定拠出年金に加入した方が税メリットを期待できます。さらに、積立金の運用収益については現状非課税扱いとなっています。受取時には課税されますが、各種の税控除が設けられており、課税が軽減されるケースも少なくありません。
また確定拠出年金では原則60歳(最長65歳)まで掛金の拠出が可能(逆に言えば、原則60歳まで引き出せない点に留意が必要です)で、離転職時にはそれまで積み立てた資金を持ち運ぶこともできます。積立金は60歳以降70歳までに受け取りを開始することとされており、長期投資を通じた資産形成を促す制度体系となっています。
企業型の確定拠出年金の掛金上限額は最高で月額5.5万円(年間66万円)ですが、実際の利用状況(平均の掛金額)は月額1.2万円にも及びません。使い切っていない確定拠出年金の税メリットを有効活用するには「マッチング拠出」の利用がお勧めです。マッチング拠出とは、加入している確定拠出年金プランにおいて定めがある場合に、従業員が自分で一定範囲の掛金を上乗せ拠出する仕組みです。仮に、所得税の税率が20%の方が毎月1万円を拠出すると、給与で受け取ってから積み立てる場合に比べて、税効果によって年間2.4万円もお得に積み立てられますので、有効活用してみてはいかがでしょうか。
これまで5回にわたって、確定拠出年金コラムを書いてきましたが、多少なりとも皆さんの資産形成のヒントになれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。
筆者プロフィール:本庄洋介
フィデリティ投信 法人/年金ビジネス本部 シニアマネージャー。
2006年フィデリティ投信入社。確定拠出年金を含む法人/年金業務全般に携わる。2014年にはフィデリティ・インターナショナルのロンドン拠点に駐在し、英国の確定拠出年金市場の調査に従事。京大院卒。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。1級DCプランナー。
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