メルセデス・ベンツ「S124」の3号機である「E320」に乗り始めてはや3カ月。遠方では愛知県(空飛ぶクルマ取材)、近郊では千葉県君津(メルセデス「Eクラス」)や神奈川県大磯(メルセデスSUV)、箱根(ボルボ「XC40」)、御殿場(アウディ「e-tron」)などあちこちの取材会場を駆け回っているだけでなく、杉並に住む孫の送迎や買い物の足などに使用することで順調にオドメーターの数字が増えている。そんなある日、カーオーディオに不調が……。はたして、直せるのか?
オーディオが片チャンネルに!
11月のある日、ちょっとした取材のため横浜の「アイディング」に向かおうと多摩川の堤防道路を走っている時だった。車内に流れる吉田美奈子の歌声が突然、右チャンネルからしか聞こえてこなくなったのだ。うーむ……。まるで、まっすぐ走らないクルマに乗っているような感じ(大げさか)で、音の定位がズレているのは本当に気持ちが悪い。
まずは、ボリュームツマミの接点あたりに原因があるのではと疑いを持って音量を上げ下げしてみたけれど、状況に変わりなし。次はiPhone→ナカミチ「CD-500」のbluetoothに問題があるのかもと考え、外部入力のAUXからFMラジオに切り替えてみたのだが、左側からは音が出ていない。
仕方なく、そのまま走ってアイディングに到着し、すぐに白濱社長に相談すると、「スピーカーかなぁ、ナカミチ本体かなぁ」と呟きつつチェックを始めてくれた。スピーカーは純正なので装着されてから25年は経っているし、中古で購入したCD-500は15年近く前に製造されたものだから、どちらに原因があってもおかしくない。
調べてみた結果、リアは左右から音が出ていたので、原因はフロントスピーカーであるとの診断が下った。
しばらく事務所で何かを探していた社長が戻ってくると、その手には小ぶりなダンボールが。中身はなんと、デッドストックの124用フロントスピーカーだという。124の母国であるドイツのケルン近郊に本社がある「mac Audio」製で、12cmの2wayコアキシャルタイプだ。124への取り付け用金具も付属していたので、早速交換と相なった。
白濱社長が手早くダッシュボードのネットを外して取り出した純正スピーカーは、コーンの部分が厚紙のような素材で、当時の高級モデルにしてはあまりお金がかかっているとは思えないものだった。交換後の音色は全域で曇りが1枚はがれて、それぞれの楽器の粒が立ったような感じ。ヘッドユニットのCD-500とも相性が良いようで、大変満足のいく仕上がりだった。
もしもナカミチが壊れたら
今回はスピーカーの交換だけでことなきを得たが、もしも本体のナカミチがダメになってしまったら……。実はナカミチという会社自体は、2003年ごろに倒産してしまって今は存在していないのだが、製品の修理ができる「ナカミチサービスセンター」はいまだに健在で、茨城県つくばみらい市にその拠点がある。ナカミチファンである筆者は、現在の3号機に取り付けている「CD-500」のほか、1DINヘッドユニットの「MB-75」(CD6連装自動再生)、「CD-400」、「CD-45z」を予備機として持っていて、それらの修理についても相談したかったので、実際にサービスセンターを訪れてみた。
対応してくれた特殊機器事業部の永田正一部長によると、ナカミチサービスセンターはメディカル事業を主とするIDKという会社の一部門になっていて、ナカミチのほかにも、有名なサンスイ(こちらも会社はすでにない)製品を修理するカスタマーセンターもあるのだという。
カセットデッキやカーオーディオの「ナカミチ」、アンプの「サンスイ」という当時のマニアが大切にしてきた両メーカーは、経営が怪しくなっていた2000年前後、日本の有名ブランドに目をつけた香港のグランデホールディングの傘下として海外生産などを行なっていたが、のちに消滅。同じ傘下のケープトロニクスというメーカーの修理を請け負っていたのがIDKで、そうした関係から2社の修理部門だけを同社が引き継ぐことになり、今に至っているのだという。詳細はかなり複雑な経緯があるので、ここでは触れないこととさせていただきたい。
社内に入れてもらうと、修理のため全国から送られてきたナカミチやサンスイの製品が倉庫の棚の上にどっさり積まれている。引き出しの中には全製品のサービスマニュアルもそろっているという。修理担当者の机の上にはハンダゴテやテスト用カセットテープなどが置かれ、プロの仕事場という雰囲気にあふれている。聞けば、修理は倒産間際に福島県にあった倉庫からごっそりと送られてきた純正部品を使用して行っているのだが、やはり数に限りがあるので、そろそろ修理ができない機種も増えてきているのだという。
筆者の手持ちの機種では、すでにCD-500とCD-400は部品がなく、CD-45zとMB-75ならまだ修理可能らしい。ということで、その場でCD-45zを預けることに。1カ月ほどして戻ってきた同機は、フロントパネルが新品になっていた。請求書を見ると、細々した部品代と診断料、技術料を合わせて2万6,840円。これが高いか安いかは別として、とりあえず稼働中のCD-500と今回リフレッシュしたCD-45zがあれば、3号機に乗り続けているあいだはナカミチの音と共に過ごせるのではないかと思う。
「この部門は経営の足を引っ張るところ(つまり、儲からない)なので数字は厳しいのですが、ナカミチやサンスイといった古いものが修理できるというのは会社の看板になっているので、やめられません。現在は月80台ほどの修理を扱っていて、7割がホームオーディオ、3割がカーオーディオです。本物のマニアは修理品を自分で持ち込んできてくれて、その時にお土産まで持ってきてくれたりもするんです」と永田さん。別室には綺麗にリビルトされて販売中のアンプとともに、地元の石材を使ったアンプ用のサイドストーン(10万円!)やインシュレーター(1万8,000円)が置かれていたので、興味のある方はドライブがてら訪れてみる(要事前確認)のも楽しいと思う。