新入社員が現場配属を受けた後、最初に直面する問題に「残業」があります。

定時が過ぎても誰一人帰ろうとせず、みんな黙々と仕事を続けるような職場に配属されてしまった場合、新人の多くは「いつ帰ればいいのか」に悩むことになります。先輩や上司より新人の自分が早く帰るのはマズいのではないか、と考えて初日から意味もなく残業をしてしまったという新人は、思いのほか多いのではないでしょうか。

白状すると、実はかつての僕がそうだったのです。配属の初日に振られた仕事はあっという間に終わってしまい、手持ち無沙汰になってしまいました。誰かの仕事を手伝うにも、新人の自分では逆に足を引っ張るだけです。どう考えてもその日は残業などする必要はなかったのですが、「新人が初日から誰よりも早く帰るのはマズいのではないか」という懸念が払拭できず、結局は他の人が帰るまで空気を読んで会社に居残ってしまいました。

今思えば、これは実にアホらしい話だと思います。これは典型的な「つきあい残業」であり、誰も幸せになりません。

新人が一番最初に帰るのはあたりまえ

そもそもの前提として、「新人が先輩や上司よりも早く帰ってはいけない」という考え方自体が大きく間違っています。新人のうちは、どうせ大した仕事なんて任せられません。仕事のほとんどは、業務時間内に終わるものばかりです。そして、業務時間内に任せられた仕事が全部終わったら、定時に帰宅するのは当然です。仕事の分量から考えれば、新人が先輩や上司よりも先に帰るのは「あたりまえ」だと言えるでしょう。

実質面でも、新人のうちから「意味もなく残業する」習慣を身につけるのはよくありません。「どうせ定時には帰れないんだ」というあきらめの気持ちを抱いてしまうと、仕事はどんどん非効率なものになります。業務時間中はダラダラとネットサーフィンしながら仕事をして、夕方ぐらいから本腰を入れるといったような、ひどい働き方が習慣化してしまいます。

「残業する新人=仕事ができない」と捉えられてしまうかも?

僕の会社員時代の経験では、「残業をしている新人」はどちらかというとプラス評価よりもマイナス評価を受けていました。新人が大した仕事を任されていないことはみんな知っているので、それなのにも関わらず遅くまで残っていると「今年の新人は、仕事ができないのか?」と思われてしまうのです。

実際、とある後輩が毎日毎日遅くまで残って仕事をしていたので、何回か後輩育成に関する課題として会議の議題に上がったこともあります。長く働けばそれだけで無条件で評価されるという旧態依然とした職場ならともかく、そうでない職場だと新人の残業は損でしかありません。

帰りづらいのは最初のうちだけ

そうは言っても、「どうしても職場の空気が気になって帰れない」という人はいるでしょう。そういう人に教えてあげたいのは、「実は帰りづらいのは最初のうちだけ」だということです。

誰も定時に帰らない職場でひとりだけ早く帰ると最初は目立つかもしれませんが、何日も連続してやっていると、周囲に「あの人は早く帰る人だ」という印象が定着します。一度そういう印象が形成されてしまえば、あとはその印象に従って毎日行動するだけです。大事なのは、オドオドせずに堂々と帰宅することです。「え?自分の仕事は終わったんですから、早く帰って何が悪いんですか?」と平然と言えるような、そういうキャラを目指しましょう。

仮に、仕事を全部片付けて早く帰ることをあからさまに批難する人しか職場にいないというのであれば、そもそもそのような職場には長くいるべきではありません。

先輩は新人に背中を見せるべき

「新人が定時帰宅しづらい職場環境」を改善する一番よい方法は、先輩社員が率先して定時帰宅をすることです。これが理想なのは言うまでもありません。

それができないのであれば、せめて「新人に声をかける」ぐらいはしてあげるといいのではないでしょうか。「もう定時すぎたから、そろそろ帰ろうか」と一声かけてあげると、かなり帰りやすくなることでしょう。具体的な仕事の内容を指導するだけでなく、このような「正しい働き方」を教えるのも、とても大事な指導なのではないかなと僕は思います。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

(写真は本文とは関係ありません)