たしかに、好きなことをやりながらお金を稼げるというのは魅力的です。1日のうち仕事に費やさなければならない時間はそれなりに多いので、それなら好きなことを仕事にしたいと思う気持ちもわかります。

しかし現実には「好きなことを仕事に」することはよいことばかりではありません。むしろ、この発想にこだわりすぎてしまうことで、逆に仕事がつらくなってしまうケースもあります。そこで今日は、「好きなことを仕事にする」という発想に潜む落とし穴について少し考えてみたいと思います。

仕事に結びつかない好きなこともたくさんある

そもそも、自分が好きなことは、必ずしも仕事と結びつくとは限りません。

例えば、僕は昼寝がとても好きです。布団の中でゴロゴロしていると、「生きててよかったなぁ」という気持ちになります。こうやって毎日ゴロゴロと昼寝をするだけでお給料がもらえる仕事があるならぜひそのような仕事に就きたいと思うのですが、僕の知る限り昼寝をするだけでお金がもらえる仕事はありません。

必ずしも仕事に結びつかないような「好きなこと」しかもたない人が、無理に好きなことを仕事にしようと思ってもそれは無理です。それでも「好きなことを仕事に」という発想から抜け出せないでいると、「昼寝が好きだから、とりあえず寝具メーカーにでも就職しようか」と仕事さがしがあさっての方向に行ってしまいます。好きなことが仕事に結びつきそうもないなら、それにこだわりすぎないほうが安全です。

サービスを受けることと提供することは違う

また、よくある勘違いに「サービスを受けるのが好き」だから、「サービスを提供するのも好きだ」と思い込んでしまう、というものがあります。

たとえば、旅行をするのがとても好きな人がいたとします。では、その人は旅行代理店に就職するのが一番幸せかというと、それはまた別の問題です。「旅行をするのが好き」というのは、「旅行というサービスを受けるのが好きだ」というだけにすぎません。旅行代理店に就職してからする仕事は、「旅行というサービスを受ける」ことではなく「旅行というサービスを提供する」ことです。単にサービスを受ける場合と違って、サービスの提供者には苦労が数多くあります。そこまで含めて「仕事にしたい」と思えるのかよく考えなければいけません。

もちろん、サービスを受けることも提供することもどちらも好きだということはありえるので、旅行が好きな人が絶対に旅行代理店に就職してはいけない、と言いたいわけではありません。ただ、安直な思い込みは避けたほうがよいでしょう。仕事をさがす際には、「サービスを受けること」と「サービスを提供すること」は完全に別物だと捉えておくべきです。

「嫌いなこと」は仕事にすべきではない

「好きなことを仕事に」することよりも何倍も大事なのは、「嫌いなことを仕事にしない」ことです。

嫌いなことを仕事にした場合、不幸になるのはほぼ確実です。それだけは避けるようにすべきです。その上で、仕事の対象を「好きになれたらラッキー」ぐらいの気持ちでいるのが、現実的なのではないでしょうか。自分では好きなことを仕事にできる職に就けたと思っていても、実際に働いてみたら勘違いだったということもよくあります。最終的には働いてみないとわかりません。

そもそも、自分が何が好きかだってよくわからないという人は少なくないはずです。「好きなことを仕事に」することにこだわりすぎて、それで不毛な自分さがしをはじめるぐらいだったら、とりあえず働いてみてから考えていったほうがよほど健全なのではないでしょうか。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

(写真は本文とは関係ありません)