「毎月、100時間以上は残業をしている。残業代はほとんど出ない」
「仕事が多くて休日出勤はあたりまえ。もちろん、有給休暇なんて取れるわけがない」

――たまに、このような「過酷」としか言いようがない環境で働かされているという人の悲痛な声を聞くことがあります。

ここ数年、「ブラック企業」の話題がたびたびニュースに出るようになった結果、このような過酷な働き方が常態化している企業が、日本には数多く存在することが明らかになってきました。残業代を払わないのも、休みを取らせないのも間違いなく法律に違反しているのですが、残念ながらこの手の法律違反はそのまま見過ごされてしまうことが少なくありません。経営者の中には、「労働基準法なんて守ったら会社はつぶれてしまう」と開き直って、労働基準法違反を正当化してしまう人すらいるほどです。一説には、労働基準法は道路交通法と並んで日本でもっとも守られてない法律なのだそうです。

法律に基づかない違法な状態で行われる労働は、「労働」というよりも「奉仕」に近いと言えます。そもそも僕たちが会社で働くのは、契約に基づいて提供した労務の対価をもらうことができるからです。「残業代を払わない」「休みを与えない」というのは、この根底にある契約に反しますから、それはもう正しい労働とは言えません。

違法な労働を強制され、壊れたら捨てられる「奴隷型社畜」

「残業代が払われない」「休みが取れない」といったような違法な働き方を強制されている人たちを、僕は「奴隷型社畜」と分類しています。今までいくつか社畜の分類を紹介してきましたが、その中でもっとも悲惨だと言えるのがこの「奴隷型社畜」です。あえて「奴隷」というキツいことばを使っているのは、前述のようにこれはもはや正しい労働の形とは言えないからです。

「奴隷型社畜」は、ブラック企業にとっては消耗品でしかありません。体や心を壊すまで不当な対価で酷使され、壊れたらそのまま捨てられます。あえてこういった企業で「奴隷型社畜」として会社に「奉仕」をするべき利点は何一つありません。もっともなることを避けなければならない社畜がこの「奴隷型社畜」です。

なぜ、違法な状態で働かされてしまうのか

そもそも、なぜこのような違法な状態で働かされる人が出てきてしまうのでしょうか。原因はいくつか考えられますが、その中のひとつとして「労働法規や労働者の権利を正しく理解していない人が少なくない」ことが挙げられます。

正しい知識を持っていないと、「うちの会社では、残業代は出ません」と言われても「この会社はおかしい」と気づくことができません。「説明になっていない説明」で、丸め込まれてしまうことも多くなります。

例えば、残業代がもらえないことをなんとなくヘンだと感じていても、

「残業代なんて他の人もみんなもらっていない」

といったように他の人の例を出され、「みんなと同じだ」と説明をされると「そういうものか」と納得してしまう人がいます。

日本人は「みんなと同じだ」と言われるとそれだけで安心してしまうところがあるようですが、この問題に関しては「みんなと同じ」だと言われてもそれだけで納得してはいけません。「みんながそうしている」からと言って、それが正しいとは限らないのです。「残業代なんて他の人もみんなもらっていない」のだとすれば、それは他の人もみんな違法な状態で働かされている、という意味です。これは、典型的な「説明になっていない説明」です。

こういうトリックにだまされないためにも、労働法規や労働者の権利については、どんな人でもある程度は知っておく必要があります。

知識を身に付けることで自分を守る

労働法規や労働者の権利についての知識は、当然ながら会社では教わることはできません。日本の場合、学校教育の場でもあまりしっかりとは教えてもらえません(ほとんどすべての人に必要な知識なのに学校で教われないのは不思議です)。そのため、自分で主体的に身につける必要があります。まずは一冊、一般向けに書かれた労働法に関する本を読んでみることをおすすめします。

また、働いていて何かおかしいと感じたら、社内だけで解決するのではなく社外の専門家や相談窓口などを活用することをおすすめします。相談窓口などを社内に設けている会社もありますが、性質上、社内の窓口には限界があります。外部の力を借りたほうが適切な問題があるということを知っておくとよいでしょう。

労働法規や労働者の権利についての知識を身につけることは、自分を守ることに直結します。「勉強は嫌だなぁ」と思う人もいるかもしれませんが、必ず役に立つのでぜひ勉強してみてください。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

(タイトルイラスト:womi)

※毎週金曜更新