「今の会社に、どのぐらい長く勤めるつもりですか?」と質問された時にどう答えるかは、その人が勤めている企業や業界によってだいぶ温度差があります。僕が以前働いていたインターネット業界は、業界そのものの歴史が浅いということもあり、転職をするのは「あたりまえ」でした。同じ会社に5年も勤めれば「長いですね」と言われたものです。人の入れ替えも激しく、毎月のように誰かの歓迎会と送迎会が行われていたことを覚えています。
一方で、メーカーやインフラ系企業などの場合は、これほど強く転職が意識されることはないようです。昔に比べれば転職する人も増えてきているものの、基本的には「勤め続ける」人のほうが多数派です。こういった勤め続けるのが多数派である企業で同期が転職をしたりすると、それだけで大きなニュースになります。インターネット業界にいた身としては、「たかが転職で、これだけ騒げるのはすごいなぁ」と思ってしまいます。
内定者飲み会の乾杯の音頭が「定年までしがみつこう!」
これはとある自動車メーカーに就職した友人に聞いた話なのですが、その友人が内定者時代に参加した内定者飲み会では、乾杯の音頭が「定年までしがみつこう!」だったそうです。いかに彼らの安定志向が強いかが分かります。
公益財団法人の日本生産性本部が毎年新入社員を対象に行っている「新入社員 春の意識調査」でも、「今の会社に一生勤めようと思っている」と答える社員はここ数年ずっと50%を超えています(2014年度は54.2%)。
もちろん、これはあくまで入社前や入社直後の話ですので、実際に働いてみてから「こんな会社にずっと勤め続けるのは無理だ。やっぱり転職しよう」と考えを改める人たちも少なからずいます。実際、前述の日本生産性本部が春の調査の半年後に行う「新入社員 秋の意識調査」だと、「今の会社に一生勤めようと思っている」と答える社員は約半分の30%ぐらいまで低下します。もっとも、これは「入社後半年たっても30%ぐらいの人はまだ定年までその会社で働くつもりでいる」とも読めるので、「就社志向」を抱いている社員が存在することは決して珍しくないということがわかります。
徹底的に会社にしがみつく「寄生虫型社畜」
このような強い就社志向は、結果的には社畜への道に通じます。転職などの手段によって会社から離れることを一切選択肢として考えず、何があってもひとつの会社にしがみつこうとする社畜を、僕は「寄生虫型社畜」と分類しています。
寄生虫型社畜が会社にしがみつこうとするのは、会社のためというよりも自分のためです。そういう意味で、いわゆるお荷物社員として会社側からも厄介に思われているという場合が少なくありません。寄生虫型社畜は、ベンチャー企業のように経営が不安定な会社よりも、歴史があり世間から「安定している」と思われているような企業に多く生息しています。もしかしたら、あなたの会社にもろくに働かず、周囲から煙たがられ、それでも給料はちゃっかりもらう、という「使えないおじさん」がいるかもしれません。そういう「使えないおじさん」が、寄生虫型社畜の典型です。
寄生虫は宿主が死ねば一緒に死ぬ
そんなに一生懸命働かなくても、会社から安定した給料をもらいながらぬくぬくと定年まで働けるなら、それが理想的だと考える人がもしかしたらいるかもしれません。
たしかに、これはひとつの理想の形ではあります。もっとも、それは「いつまでも会社が安定的に存在しつづける」という前提があって初めて成り立つものです。昔ならともかく、いまはこのような前提が成り立つ企業はまずありません。
仮に企業そのものは長期間生き残れたとしても、そこで働き続けることができるかどうかはまた別問題です。「つぶれないから安心」とは言えません。企業は常に変化していきます。そして、変化の際にはほぼ必ず人員の削減が行われます。こういう時に真っ先に切られるのは、しがみつくだけしか能がない社員です。
寄生虫は宿主が死んでしまうと、結局は自分も死んでしまいます。そうならないためにも、勤めている会社に人生を託すのではなく、状況に応じて自分で選択ができるように心がけなければなりません。会社は「しがみつく」対象ではなく、あくまで主体的に「利用する」対象であるべきです。
日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。
(タイトルイラスト:womi)
※毎週金曜更新