過去にマイナビニュースに掲載された記事で、とても興味深いものがありました。マイナビニュース会員の男女440名に自分のことを「社畜」だと思うかどうか聞いたところ、「はい」と答えた人は13.6%、「いいえ」と答えた人は86.4%だったそうです。このアンケートの結果から考えると、自分のことを「社畜」だと思っている会社員はそれほど多くはない、ということが言えそうです。
「社畜」の定義って?
でも、ちょっと待ってください。そもそも、「社畜」とは具体的にどのような人たちを指す言葉なのでしょうか? 上記アンケートの「自分を社畜だと思う理由・思わない理由」を読んでみると、各自思い思いの「社畜」に対するイメージがあり、それにあてはまると思えば「はい」と答え、あてはまらないと思えば「いいえ」と答えていることがわかります。 実際、「社畜」という言葉は今ではだいぶ曖昧な言葉になっています。論者によって使い方はまちまちで、「社畜」という言葉を「会社員」とほぼ同義で使う人もいますし、もっと限定的な意味で使っている人もいます。前提を合わせるためには、この連載でも一度「社畜」という言葉を定義しておく必要があるでしょう。
「社畜」はもともと「転職の不自由」から生まれた言葉だった
「社畜」という言葉に僕なりの定義を与える前に、まずは社畜という言葉の歴史について考えてみたいと思います。
「社畜」という言葉を考案し、初めて使ったのは『小説スーパーマーケット』などの経済小説で知られる安土敏さんだと言われています。安土さんの『ニッポン・サラリーマン 幸福への処方箋』(日本実業出版社/1992年)という本に、「社畜」についての記述があり、おそらくこれが「社畜」という言葉の初出です。
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転職の不自由は、こうしてサラリーマンをひとつの会社の枠のなかに押し込める。自分の会社以外の世界を知らず、自分の会社のなかでの昇進のみに興味を持ち、話題は会社内の人々の噂話だけ。こうなると、もう会社から離れては生きていけない、まるで家畜のようなサラリーマン、いわば社畜ができあがる。(p51)
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この本が出版されたのは1992年11月ですので、社畜という言葉には大体20年ぐらいの歴史があることがわかります。この記述によると、「社畜」は「転職の不自由」によって生み出されるものということになっています。
たしかに、転職という選択肢が絶たれてしまうと、視点はどんどん内向きになります。自分の世界=会社の世界となり、自分の人生と会社を過度に重ねあわせ、会社に深く依存しながら生きていかざるをえないという人も出てくるでしょう。このように、「社畜」という言葉は、もともとは終身雇用の負の側面のひとつとして提唱されたものだったのです。
終身雇用は崩壊したが、社畜は消えなかった
しかし、そうだとすると少し不思議にも思われます。20年前と比べれば、今はもう「転職の不自由」はずっと緩和されています。ひとつの会社に一生勤め続けることは、今ではもう「あたりまえ」ではありません。そういう意味では、「社畜」が存在する前提はすでになくなっているかのようにも見えます。
しかし、実際にはいまだに「社畜」という言葉は使われています。現代では転職の自由がなかった20年前とはまた違った理由から、会社に利用され、会社に依存しないと生きていけない人たちがいるということです。
社畜=会社と自分を切り離して考えることができない会社員
以上を踏まえて、現代の「社畜」を僕は、「会社と自分を切り離して考えることができない会社員」と定義することにしています。
本来、会社と個人は「切り離されたもの」です。ある会社で働いているという状態は、その会社と雇用契約を結んでいる状態にある、というだけに過ぎません。この基本的な関係に立ち返ることができない人は、この定義では「社畜」になります。例えば、会社の掲げる理念に共感してそれを自分の人生の目標のように考えてしまったり、あるいは会社がつぶれると生きていけないから徹底的にしがみつこうという考えてしまったりするのは、会社と自分を切り離していない行動の典型例と言えるでしょう。
別に、会社を敵視しろと言っているわけではありません。利害が一致している限りは、会社で一生懸命働くというのも良いと思います。ただ、必要な時にはいつでも「会社と自分を切り離して考えられる」ようでなければいけません。このような心構えでいることが、脱社畜の基本姿勢になります。
日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。
(タイトルイラスト:womi)
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