「GOETHE」1月号 |
GOETHEの特集「愛され男になる基礎講座」
女性誌では「愛され」という言葉が長らく使われてきました。今も以前よりは若干少なくなってきたとはいえよく見られます。
でも、男性誌ではモテという言葉はあっても「愛され」はあまり見かけないし特集まではなかった気がします。ところが、「GOETHE」の1月号では、ついに「愛され男になる基礎講座」という特集が組まれていました。「基礎講座」というのが、女性誌との違いで、まだまだこれから学んで行く段階であるということが見てとれます。
男性にも必要になってきた"愛され"
では、男性誌では「モテ」は多かったのに「愛され」が少なかったのはなぜでしょう。「モテ」も「愛され」も受動系ではありつつも、「モテ」には獲得の意味合いも強く、「愛され」よりも能動的な側面が強かったということがあるのかもしれません。
もちろん、女性が「愛され」と同じように「モテ」を使う場合もありましたが、能動的か否かという点で、どちらかというと「愛され」のほうが控えめな印象を持たれやすかったはずです。「愛され」には、ちょっとソフトというか軟弱なイメージもあり、男性の側からすると単に「愛され」るだけではダメだ! という意識もあったのかもしれません。
ところが、昨今では「愛され」は女性のものだなんて言ってはいられないようです。私がもっともその流れを感じるのは、朝からお昼にかけてのワイドショーです。以前ならば男性はメインの回し役で、女性は同性の共感を呼ぶ立場という役割分担のものが多かったけれど、今の時代は女性が回し役であったりもするし、男性も女性気持ちをくみ取ったコメントができないとMCをするのも難しい時代になりました。以前ならば威厳的なスタイルをとっていた男性司会者でも、ソフトな雰囲気に徐々にシフトチェンジしたりしているし、「愛され」キャラの男性が新たなMCとして選ばれることも増えました。
それは、一般社会でも同じことかもしれません。男性の上司も、トップである、リーダーであるという威厳を見せるだけではなく、部下に共感され、愛されないといけない時代になっているのではないでしょうか。そこで、「仕事が楽しければ人生も楽しい」というテーマを掲げる「GOETHE」が、男も愛されないと! と気付くのは、もっともな選択だと思います。
この特集の冒頭ではこう書かれています。「ゲーテは実にたくさんの各界の仕事人に話をうかがってきた。そこで気づいたのは、会社を率いるトップには共通する悩みがあるということだった。それはずばり! 『社内のコミュニケーション』。結局のところ、大変なのは身近な人間関係なのだ」と。働く女性ならば、「今頃気づきました?」とも思ってしまいそうなものですが、でも、それに気づいて特集することには拍手を送りたい気持ちでもあります。
男性の「愛され」とは?
では、どんなことが男性の「愛され」だと思われているかというと…。「アイドルが好きで意外とミーハー」とか「嬉しいと『やっほーい!』と叫ぶ」とかが挙げられていました。確かにその一例として出ていた「愛され社長」の方がそういう態度をとるのはギャップもあって素敵だと思いますが、人によっては「そうですか」とスルーされそうな気も。
また、女性の社員や部下に「いいですね」とリアクションを必要以上に求めてしまう行動は、ちょっと危険な「愛され」の方法のような気もします。これは、女性が男性にリアクションが欲しいがために行動することを考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
また、「愛され」すぎようとすると、人は違和感を抱くもの。「愛され」を意識しすぎて、人に迎合しすぎたら不自然に見えるし、逆に「いい子」にしかなれなくて、誰の心にもひっかからず、モテからも遠ざかってしまう……なんて懸念も抱かれるようになりました。本当に「愛され」道というのは険しいものです。
そんな中、実際に愛されキャラとして誌面に登場しているお二人の芸能人の方は自然体でした。表紙に登場した木梨憲武さんは、「そういう(愛されの)イメージを持ってもらうのは光栄ですけど、そんなに愛されていませんって」と謙虚。また俳優の滝藤賢一さんも「愛されているなんてとんでもありません」と否定します。もしかしたら、この愛されの自覚のなさこそが「愛され」の秘訣なのかもしれないと思ってしまいます。
男性の場合は、「愛され」の基本を学んで行こうという段階ですし、「こうでないと」という思い込みを捨てて、周囲と楽しくやっていくためのメソッドを見つけていくのはいいと思います。しかも、この本の「オンナたちの心の叫び」は辛辣ですが当たっていることも多かったので参考になるはずです。
男性は、「愛され」市場に参入したばかりですが、女性は長らく「愛され」目線にさらされてきたのでなかなか厳しいものがあるのかもしれません。しかも、「愛され」に参入した途端、「基礎」を超えて高度な「愛され」を求められるかもしれませんが、とにかく私は、「愛され」の世界へようこそ、と言いたいと思います。
<著者プロフィール>
西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。