投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。今回は投資をする上で過去の実績をどこまで重視するべきか考えたいと思います。
過去の実績は参考になるのか
個人投資家の皆さんは、金融商品を選択する際に何を基準にしていますか。精緻な予測を立てて収益をシミュレーションされていますか。ただ、将来の予測には高い不確実性が付きまといます。確実なのは、過去の実績です。
たとえば、「○○ファンドは過去3年間、毎年高いリターンを実現してきました」と勧められれば、「それなら」と○○ファンドに投資しようという気になるかもしれません。
ここで注意が必要です。過去の投資実績と、今後期待されるリターンの間に明確な関係はありません。例えば、過去3回コインを投げていずれも表が出たとします。その際に4回目に高い確率で表が出ると考えるでしょうか。上の例で○○ファンドに投資するのは4回目も表が出ると考えるのに似ているかもしれません。
もちろん、投資の成否はコイントスのように完全に五分五分ではありません。ある程度の期間、同じような相場状況が続くことがあります。したがって、過去3年間にどんな相場状況だったか。そして、それはこれからも続くかを判断するべきでしょう。答えが「イエス」なら○○ファンドに投資しても良いかもしれません。逆に、答えが「ノー」なら○○ファンドは避けるべきでしょう。
過去3年間の相場状況が毎年全く異なるのに、○○ファンドが安定的に高いリターンを上げているのであれば、相当に優秀なファンド・マネージャーが運用しているのかもしれません。それでも、将来の高いリターンを約束するものではありません。
あまい広告には要注意
さて、虚偽の投資実績を宣伝することはもってのほかですが、そうでなくても、実績の対象期間を、事後的に、恣意的に選定していないか、よく注意すべきでしょう。最近、ある投資手法を勧めるFX会社の、突っ込みどころ満載の広告をみつけました。概ねこんな感じです。
「〇〇万円を2カ月運用で利益率40%
*上記の成績はポンド/円で運用した2019年1月12日~3月11日の実損益です」
2カ月で利益率40%なら、年率換算すれば利益率653%。元本が7.5倍になる計算です。すごいですね。でも、なぜたった2カ月なのか、なぜ1月12日という中途半端な日に投資を始めたのか、なぜ半年近くも前の実績を取り上げるのか、その期間の前後のパフォーマンスはどうだったか、含み損はないか、など次々に疑問が浮かんできます。その辺りの説明は全くありません。
もちろん偶然でしょうが、ポンド/円は2019年1月3日に急落した後に反発に転じ、3月14日に年初来高値をつけました。1月12日から3月11日の期間にポンドは円に対して5.1%上昇しました。つまり、元本に8倍のレバレッジをかけてポンド/円を買ってその期間持ち続けていれば、40%を超える利益率を達成することができたはずです。あくまで結果論ですが、特別な投資手法は必要なかったのです。
したがって、その投資手法を勧めるのであれば、強調すべきは利益率が40%だったことではないでしょう。そうではなく、8倍のレバレッジをかけてポンド/円を買い持ちする場合に比べて、いかに損失のリスクを軽減できたか、あるいは一時の相場変動に左右されることなく、いかに安定的に利益を生み出したか、などを誇るべきでしょう。
なお、3月14日の年初来高値から8月の安値までポンド/円は15%下落しました。かの投資手法のパフォーマンスがどうだったか、大変気になるところです。