投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。為替レート、株価、金利など、過去の相場を知ることは投資判断に役立つはずです。今回は、日本株式相場の歴史を取り上げます。

  • 日本株式相場の歴史を振り返る(写真:マイナビニュース)

    日本株式相場の歴史を振り返る

日本株といえば、平成バブルの崩壊を抜きに語れません。1989年12月29日につけた日経平均の最高値3万8,957円は、30年近く経った今からみても遥かな高みです。バブル崩壊後の高値2018年10月31日の2万4,448円でさえ、最高値を4割近く下回っています。

高度経済成長期の株高

平成株バブル崩壊までの日本株は、当時の日本経済と同様に基本的に右肩上がりでした。第二次世界大戦後の経済復興は1950年代前半の朝鮮戦争の特需に後押しされ、1950年代後半以降の高度経済成長へと発展しました。

日本は1953年のスターリンショック、1965年の山一証券への日銀特融につながった証券不況なども経験しました。しかし、高度経済成長期とされる1955-1973年に、年約16%の高い名目GDP成長率に裏付けられて、日経平均は年14%の上昇を達成しました。

2度のオイルショックと円高

日本の高度経済成長は、1973年と1978年に起きた2度のオイルショックによって終焉を迎えます。また、1971年のニクソンショックや1973年の変動相場制移行を経験し、1985年プラザ合意以降には急激な円高にも見舞われました。それでも、日本の企業が省エネや円高対策などの努力を重ねたことが、日本経済及び株価を支えたのかもしれません。

日本株バブルの醸成

1980年代後半の日本株バブルを醸成したのは、日米貿易摩擦によって米国から半ば押し付けられた日本の内需拡大策であり、積極的な財政政策や低金利政策でした。それらによって、不動産価格の高騰を伴って、株価も高騰を続けたのです。

1973年から1989年までの16年間に名目GDP成長率は年7%と、高度経済成長期の半分のペースに落ちました。それでも、同期間に日経平均は年13%と高い伸びを維持。とりわけ、1985-1989年の4年間に日経平均は年30%も上昇したのでした。

日本株バブルの崩壊

日本株バブル崩壊のキッカケは日銀の利上げでした。日銀は1989年6月にそれまで2年以上にわたって2.5%に据え置いてきた、当時としては非常に低い公定歩合の引き上げを開始。同年12月に就任した三重野日銀総裁は、「乾いた薪の上に座っている」との表現でインフレを強く警戒して利上げを続け、1990年8月に公定歩合を6.0%に引き上げました。もっとも、アグレッシブな利上げがなくても、経済成長率を大きく上回る株価の上昇は、いずれにせよ持続不可能だったかもしれません。

そして、土地価格の高騰に歯止めをかける目的で、1990年3月に大蔵省(当時)が金融機関に対して出した不動産融資の総量規制が、バブル崩壊のトドメを刺しました。

「失われた20年」とデフレ

1990年以降、株・土地バブルの崩壊を受け、日本経済は低迷を続けました。1997年には北海道拓殖銀行や山一証券などが破たん。1998年には金融危機が一段と深刻となり、日本長期信用銀行や日本債券信用銀行が破たんしました。そして、2000年ごろからはデフレ(デフレーション、物価の下落)が定着。デフレによる経済活動の低下がさらにデフレを悪化させる「負のスパイラル」から抜け出せなくなります。2008年にはリーマンショックが発生して世界経済が危機的状況となり、その後の円高が日本経済に追い打ちをかけました。

1989年末に3万8,915円だった日経平均は、10年後の1999年末に1万8,934円と半分になり、その10年後の2009年末には1万546円とさらに下がりました。まさに「失われた20年」だったわけです。この時期、バブル崩壊後の日経平均の最安値は2008年10月28日の6,994円でした。

アベノミクスの登場

日経平均が底打ちから上昇基調に転じるには、2012年12月の第二次安倍政権の誕生を待たねばなりませんでした。

安倍首相になると、大胆な金融政策・機動的な財政政策・民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」からなるアベノミクスが導入されました。とりわけ、2013年4月4日、就任したばかりの黒田総裁の主導で、日銀は「バズーカ」や「異次元緩和」と呼ばれた「量的・質的金融緩和」に踏み切ります。これにより、超円高・デフレが是正され、株価の上昇をもたらしたのです。

米株に後れを取る日本株

2015年にはチャイナショックなどもありましたが、この間も日本株は基本的に上昇基調でした。ただ、足もとでは世界的な景気減速懸念や米中の貿易摩擦などが株式市場の懸念材料となっています。 また、ここ数年の日本株の上昇は米株に先導された動きにみえます。そして、今年に入って、米株は最高値を更新したのに、日経平均は昨年10月の高値を超えていません。

日米株価の比較

「米株は右肩上がりなので長期投資に向いているが、低迷が続く日本株は長期投資に向いていない」との指摘をよく目にします。感覚的にはその通りなのですが、長期データを調べて驚きました。

1959年6月からの60年間の平均でみれば、TOPIX(東証株価指数)は年5.1%上昇(配当を考慮しない、以下同じ)。これは同期間のS&P500の年6.7%と比べてそれほど遜色ありません。1970年代以降に米ドルが対円で年2%以上減価してきたことを考えると、円建てパフォーマンスではTOPIXがS&P500をわずかながら上回ったのです。

もちろん、これにはカラクリがあって、1959年から1989年まではTOPIXのパフォーマンスがS&P500を大きく上回りました。それは平成バブル期以前の1959-1985年でも当てはまります。つまり、高度成長期やオイルショック後を通じて、米国との比較で、日本経済や株式市場に勢いがあったということでしょう。(下図、TS倍率参照)

もっとも、日本経済・株式市場が昔の勢いを取り戻せるかと言えば、大いに疑問でしょう。ただ、現時点で繁栄を謳歌しているかにみえる米国経済・株式市場にしても、日本の二の舞にならない保証はないと言えるかもしれません。

  • 米早退株価(TOPIX/S&P500)

    日米早退株価(TOPIX/S&P500)

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、 2012年にマネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで多数のレポートを配信(一部は口座をお持ちの方限定で公開)する他、投資家のための動画配信サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。