投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。その第4回です。前回に続き「株式より債券の方が安全か」を考察します。

債権投資のリスク

債券投資にもリスクはあります。(1)信用リスク、(2)インフレリスク、(3)価格変動リスク、(4)流動性リスク、(5)為替変動リスク、(6)カントリーリスクなどです。(1)から(4)はほぼ全ての債券に当てはまるもので、(5)と(6)は外貨建て債券のみに当てはまるものです。

(1)信用リスク
(2)インフレリスク
(3)価格変動リスク
(4)流動性リスク
(5)為替変動リスク
(6)カントリーリスク

前回は(1)から(3)を説明しました。今回は(4)から(6)を説明します。

流動性リスク

流動性とは取引のしやすさであり、取引量と言い換えることもできます。流動性が低いと売りたい時に全く売れないか、あるいは大幅に価格が下がらないと買い手が現れないケースがあります。特に何かの金融ショックが発生して、投資家が一斉に保有債券を売ろうとするような場合、流動性リスクは顕著に価格に表れます。

流動性リスクが最も小さいのが、世界最大の市場を持つ米国の国債でしょう。米国の国債に次ぐ発行残高を誇るのが日本の国債です。ただ、残念ながら、日本銀行が量的緩和の一環として日本の国債を大量に購入しているので、その部分を除けば流動性は低下しているようです。

流動性リスクの高い債券と言えば、代表的なものとして、新興国の債券やハイイールド(高利回り)社債が挙げられます。新興国の債券やハイイールド社債は基本的に外貨建てであるため、これから説明する(5)為替変動リスクがあり、(6)カントリーリスクに注意が必要な場合もあります。

為替変動リスク

外貨建ての債券の場合は、為替変動リスクがあります。投資家のリスク回避姿勢が強まる場合、新興国の債券やハイイールド社債は売られやすく、また為替市場では円高(外貨安)になりやすいため、債券価格と為替相場の両方の下落により打撃を受ける場合があります。 為替変動リスクをなくすために、為替ヘッジを付けることもあります。ただし、為替ヘッジのコストは基本的に内外金利差が基になるので、日本の金利が非常に低いことから相応のコストがかかると考えるべきでしょう。

カントリーリスク

新興国の債券の場合、発行体に問題がなくても、政変や紛争などその国独自の事情によって取引ができなくなったり、流動性が低下したりするケースもあります。これがカントリーリスクです。

なお、発行体が政府であっても、債券が外貨建ての場合は、政府の外貨不足からデフォルト(債務不履行)することがあります。そればかりか、98年にはロシアが自国通貨建ての国債でデフォルトしました。外国、とりわけ新興国の場合はその情報が日本に伝わりにくいため、思いがけない相場急落に見舞われることもあります。

株式より債券の方が安全か

最初の問題提起ですが、以上みてきたように債券にも様々なリスクがあり、必ずしも株式より安全だとは言えません。とりわけ、「高利回り」と宣伝されることの多い外貨建て債券、新興国債券、ハイイールド社債の場合に注意が必要でしょう。

また、比較的安全とされる日本や米国の国債でも、状況によって価格が大きく変動する可能性があることを知っておく必要があります。いくつか例を挙げましょう。

運用部ショックとVaRショック

日本国債の需給に大きなショックが発生した例です。 前者は、大蔵省(現在の財務省)の資金運用部が国債の買い入れを停止したことから国債相場が暴落しました。長期金利(10年物国債利回り)は1998年11月の0.7%から99年2月に2.5%近くまで上昇しました(国債価格は10%近く下落)。

後者は、金融機関で採用が広がっていたVaR(バリュー・アット・リスク)というリスク管理手法に基づいて、国債相場の下落局面で「売りが売りを呼ぶ」展開になった局面のことです。長期金利は2003年6月の0.5%から9月に1.6%まで上昇しました(国債価格は8%弱下落)。

現在、日本銀行は国債を大量に購入しています。どこかの段階で日本銀行が国債の購入を停止すれば、あるいはそうした噂が広がっただけで、「日銀ショック」が起こらないとは限りません。

リーマン・ショック

皆さんご存知のリーマン・ショックでは、世界的に株価が暴落し、安全とされる米国の国債に資金が集中して市場金利は急低下(国債価格が急騰)しました。そして、その後に政府の支援策が打ち出されて株価が回復すると、財政赤字の拡大(=国債の大量発行)や景気回復期待を背景に市場金利は大幅に上昇(国債価格が下落)しました。2008年10月から2009年6月までに長期金利は4%→2%→4%とジェットコースターのような動きとなり、国債価格は上下に約20%ずつ変動しました。

これまで2回にわたって長々とお話ししたのは、「株は怖いから債券で」と誤って考える投資家が多いように見受けられるからです。投資に(100%の)安全はありません!

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。

2012年9月、マネースクエア(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」「市場調査部エクスプレス」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。