投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。前々回は米国の雇用統計がなぜ注目されるのかを、前回は雇用統計の詳しい内容を解説しました。
ミニシリーズ最終回の今回は、雇用統計の読み方を解説しますので、次回以降の雇用統計を見る上で参考にしてください。
アメリカの雇用統計は奥深い統計です。以下では、雇用統計をみるうえでのポイントをいくつか紹介しておきましょう。
雇用統計は月々の変動が大きい
他の経済指標の多くもそうですが、雇用統計も月々の変動が大きく、後になって大幅に改定されることもあります。したがって、ひと月の統計をあまり重視するのは考えものです。
雇用統計を発表している労働省統計局によれば、非農業部門雇用者数(Non-Farm Payroll、NFP)には90%の信頼水準でプラスマイナス11.5万人の誤差があります。3月8日に発表された2月のNFPは前月に比べて2.0万人の増加でしたが、本当のNFPは前月比9.5万人減少から13.5万人増加の範囲にあった可能性が高いということです。減ったかもしれないし、増えたかもしれないのです。
1月のNFPは前月比31.1万人と大幅に増加しました。ただ、それにしても、NFP全体では約1億5,000万人なので、その0.2%の変化に過ぎません。
季節的な影響が大きいことも
雇用統計のデータは季節調整されます。季節的に増減のパターンが決まっている業種に関してその季節性を排除する加工がなされるのです。たとえば、建設業は夏場に活発になり、冬場に活動が低下します。したがって、季節調整をする前のデータ(これを原数値あるいは原系列と呼びます)は、建設業の雇用者が夏場に増え、冬場に減る傾向がみられます。
それをならすため、夏場は原数値を4%程度減らし、冬場は原数値を5%程度増やす調整が行われます。そのため、原数値は前月から減っているのに季節調整後には増加しているというパターンもあり得ます。各月によって何%増減させるかは過去のデータから求められます。
もっとも、ハリケーンや寒波などは毎年決まった時期に来るわけではなく、来ない年もあるため、そうした天候の影響を調整することは不可能です。悪天候によって操業停止となったり、翌月に操業再開されたりして、NFPが一時的に大きく増減する可能性もあるわけです。
その他、夏休みのタイミング次第で教職員の数が大きく増減したり、ストライキや選挙、国政調査など一時的要因でNFPが変動したりすることもあります。雇用統計の調査対象期間である毎月12日の前後約1週間でそうしたイベントが発生したかどうかがポイントです。
雇用は増えれば良いというわけではない
米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)の2つの責務のうちの1つは「雇用の最大化」です。したがって、雇用は増えるに越したことはないのですが、それだけでは足りません。
米国の労働力人口は2019年2月時点でおよそ1億6,000万人、年間0.9%のペースで増えています。つまり、毎年144万人、月に12万人のペースで増加しています。したがって、NFPが月平均12万人のペースで増えなければ、失業者が増えて、失業率は上昇することになります(※)。
(※)ただし、前回説明したようにNFPは事業所調査、失業率は家計調査のデータなので、両者に直接的な関係はありません。あくまでも大きなトレンドとしてみた話です。
投資家は事前の市場予想に比べて良いか悪いかで一喜一憂しますが、NFPの増加幅が12万人、幅をみて10-15万人を平均的に上回るか下回るかで景気の良し悪しを判断すべきでしょう。
失業率は低下すれば良いというわけではない
リーマンショック後のように失業率が10%まで上昇したような状況では、経済政策は失業率を下げるために運営されるべきです。ただ、現在(2019年2月分)、失業率は3.8%です。これは、それを下回ると賃金インフレになるとされる水準、いわゆるNAIRU(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment)を下回っている可能性があります。
そのため、FRBは賃金動向にも注意を払い、失業率が低下して賃金上昇率が一段と加速するようであれば、景気をペースダウンさせるために利上げを検討する必要があります。
ただ、問題なのは、IT革命などの済構造の変化によってNAIRUがどの水準にあるのか、そもそも現在でもNAIRUは存在するのか、だれも確信を持てないことです。
なお、FRBが金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)後に公表された、今年3月の最新の資料によれば、FOMC参加者はNAIRUが4%台前半にあるとみているようです。上述したように、現在の失業率はそれを下回っており、賃金の伸びは徐々に高まっています。