投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。前回は米国の金融政策の仕組みを解説しました。米国の金融政策は足もとで重要局面を迎えつつあるようです。

  • アメリカの今後の金融政策と相場への影響を考える

そこで、今回は近年の金融政策を振り返りつつ、今後の金融政策と相場への影響を考えてみましょう。

リーマンショックと大胆な金融緩和

2008年9月のリーマンショック直後、米国の中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)は大胆な金融緩和を実施しました。リーマンショック前に2.0%だったFFレート(政策金利)を2カ月間で0-0.25%へと大幅に引き下げ、事実上の「ゼロ金利」としました。また、住宅ローン担保証券や国債を購入する量的緩和に踏み切り、この非伝統的緩和を2014年10月まで断続的に続けました。

金融政策の正常化に着手

その後、経済や金融市場が安定したことで、FRBは過度な金融緩和を平常時に戻す正常化を開始しました。まず、2015年12月に1回目の利上げを実施。2回目の利上げは1年後の2016年12月でしたが、その後は2018年12月までほぼ3カ月ごとに利上げを実施。合計9回の利上げによりFFレートは2.25-2.50%になりました。

FRBは、2014年の量的緩和終了後も、保有する国債が満期を迎えた際に再投資を行って残高を維持していました。しかし、2017年10月以降は再投資を減額することで保有国債を徐々に減らしています。これは資産を減らすことであり、バランスシート(貸借対照表)の縮小とも呼ばれます。

利上げの休止を示唆

金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)は、2019年1月29-30日の会合後に利上げの休止を示唆しました。声明文から、従来の「さらなる利上げが適切」との文言が削除されて、代わりに「FFレートのどのような調節が適切かを見極めるために忍耐強く(patient)待つ」との文言が付け加えられました。

3週間後に公開されたFOMCの議事録には、「patient」という単語が12回も登場しました。世界経済の減速、貿易摩擦の激化、株価の下落などにより不確実性がいつになく高いため、様子見を続けるとの文脈でした。

バランスシート縮小の停止も発表へ

また、同じ議事録によれば、FRBのバランスシート縮小について、「年内に停止する計画を早い段階でアナウンスするのが望ましい」とほぼ全員が考えたことが判明しています。量的緩和によって膨れ上がったバランスシートの正常化はほぼ終了したと判断しているのでしょう。

中立金利とは

利上げ休止の背景には、FFレートが中立金利に接近しているとの判断もあります。中立金利(あるいはFFレートの中立水準)とは、景気を刺激もせず、抑制もしない金利水準のことです。均衡金利と呼ぶこともあります。

中立金利がどの水準にあるのかは明確にはわかりません。ただ、2019年1月時点でFOMCに参加する各人が考えた中立金利は2.5-3.5%のレンジで、中央値は2.75%でした。そのため、FFレートは中立金利の「想定レンジの下限」に接近したと判断されたのです。

金融政策の重要局面

もっとも、FFレートが中立水準に達したらそれで終わり、とは限りません。景気が過熱して、インフレ圧力が高まれば、FFレートを中立水準以上に引き上げて、景気にブレーキをかける必要が生じます。逆に、「景気が腰折れしそうだ」と判断されれば、FFレートを中立水準から引き下げて、景気を刺激することが検討されるでしょう。

冒頭で、「米国の金融政策は足もとで重要局面を迎えつつある」としたのは、そうした理由からです。「次の一手」は上か下か。休止のあとに利上げが再開されるのか、それとも金融政策が転換して利下げが開始されるのかは、金融市場にとって大きな違いです。

利下げ転換は米ドルや米株にとってマイナスか

これまでFRBは3年にわたり利上げを続けており、そのことが米ドル相場を支えてきました。利上げが再開されるのであれば、米ドル相場は引き続き支えられるでしょう。逆に、FRBが利下げに転換するのであれば、米ドルは大きな支えを失うかもしれません。

一方、景気が悪化して利下げに転換するのであれば、企業業績の面から株価にマイナスのはずです。NYダウ(米株)は昨年10月の最高値から12月にかけて20%近く下落しました。しかし、その後は反発して、足もと(2月27日現在)は最高値から4%弱低いだけの水準に戻しています。

仮に、これからFRBが利下げに転じるほど景気が悪化するのであれば、(株価は景気に先行するとはいえ)株価の調整は昨年末の下落だけでは不十分ではないでしょうか。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。