投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。今回は相場をみるうえで重要な「循環と構造変化」です。
株価、債券価格(市場金利)、為替レートはいずれも、経済活動と密接に結びついています。短期的には、政治や突発的なイベントなど他の要素にも影響を受けますが、長期的には経済活動の変化を強く反映すると考えるべきでしょう。為替レートの場合は、二国間の通貨の交換レートなので、厳密には「相対的な」経済活動の変化を反映することになります。
そして、経済活動の変化は、景気循環と構造変化とに区別して考えると理解しやすいのではないでしょうか。
景気循環とは
景気循環とは、景気の回復と後退(あるいは拡大と縮小)が交互に繰り返されることを指します。回復と後退の一周期(=波)は、振幅の期間や大きさ、その性格においてそれぞれ特徴があります。それでも、類似性を持って景気の波は繰り返されます。つまり、過去の経験が役立ちます。
景気の波を直接的に把握することは簡単ではありませんが、金融政策を通してある程度捉えることはできます。金融政策は景気の波を平準化することを目的の一つとして運営されますが、実際には若干のズレを伴って景気の波とパラレルに動くケースがほとんどです。
そして、景気循環は、投資のタイミングを計るうえで重要な要素だと考えられます。例えば、景気回復の初期に株式に投資すれば、比較的長期間にわたって値上がりを享受することができそうです。
また、景気回復の終盤や後退の初期に債券に投資すれば、価格上昇(=金利の低下)を享受できそうです。また、相対的に景気回復のタイミングの早い国の通貨に投資すれば、値上がり益を得られるかもしれません。
構造変化とは
構造変化とは、文字通り経済構造、言い換えれば経済の性質が変わってしまうことです。構造変化のもとでは、過去に起きなかったことが起こります。あるいは過去に起きたことが起こらなくなります。つまり、過去の経験があまり役立たなくなります。むしろ、過去の経験が判断を間違わせることもあります。
構造変化の具体例として、製造業からサービス業への産業構造の変化、インターネットなどのIT革命、グローバリゼーション(世界的な経済統合)、日本の少子高齢化などが挙げられます。
循環と構造変化の組み合わせ
現実には、景気循環と構造変化とが組み合わされて、経済活動が形成されます。構造変化が経済に下向きの力を加えている場合、景気循環の回復局面が短く弱くなり、逆に後退局面は長く深くなります。
これは、日本の1990年代以降の平成バブル崩壊後の「失われた20年」をみれば明らかでしょう。不良債権や過剰投資などの処理によるバランスシート調整が景気を押し下げていました。
逆に、構造変化が経済に上向きの力を加えている時の景気循環は、回復局面が長く力強くなり、後退局面は短く浅くなります。米国の90年代、とりわけIT革命に牽引された90年代後半の繁栄を頭に浮かべれば理解しやすいでしょう。
そして、株価や債券価格、為替相場も、そうした経済活動の特徴を色濃く反映すると考えられます。ただし、そのことで勘違いも生じやすくなります。その典型的な例が、2000年代初頭のIT株バブルの崩壊であり、2008年のリーマンショックだったように思います。
いずれのケースも、米国の中央銀行であるFRBが早い段階から利上げを続けており、景気循環の観点からは、いつ景気が減速しても不思議ではありませんでした。しかし、前者ではIT革命、後者では住宅ローンの金融イノベーションという構造変化が利上げという循環的要因を凌駕して経済の活況が続きました。少なくとも、投資家の多くはそのように考えていました。
実際には、利上げの効果は着実に浸透しており、最終的には投資家の期待(高成長の持続)と現実(成長の鈍化)とのギャップを埋める形で、IT株バブルの崩壊やリーマンショックが起こったと考えることもできそうです。
なお、リーマンショックの直後には、「100年に一度の経済危機」というフレーズをよく耳にしました。世界中に危機が波及して大きなダメージを与えたという点ではあながち誇張とはいえません。ただ、主要国による財政出動と金融緩和という循環的な要因(程度の問題はありますが)によって、世界経済は比較的短期間で落ち着きました。
少なくとも、主要国の株価はリーマンショックの6カ月後には底打ちから上昇に転じました。