投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。

購買力平価とは?

外国為替に関連した投資の経験のある方なら、購買力平価という言葉を聞いたことがあると思います。今回はこれを解説してみましょう。

購買力平価、PPP(Purchasing Power Parity)とは、通貨の異なる2つの国であっても、同じモノが同じ値段で買えるはずだという考えを基本としています。

別の言い方をすると、それぞれの通貨で表された値段が同じになるように、2つの通貨の交換レート、つまり為替レートが決まるという考えです。そして、実際の為替レートには購買力平価に近づけるような力が働くと考えるわけです。

ビッグマック指数とは?

分かり易い例として、よく説明に使われるのが、ビッグマック指数です。ビッグマック指数は、約30年前から英国の経済誌「エコノミスト」が発表しているもので、世界の多くの国で購入できるハンバーガーの価格を比較することで、「適正な」為替レートを算出しようというものです。

  • 購買力平価の例としてビッグマック指数があります

ビッグマックの価格には、肉や野菜、小麦などの原材料費、輸送費、作る人や売る人の人件費、店舗の賃貸料や光熱費など、様々な経済活動のコストが含まれます。

したがって、それらを比べて為替レートを算出することに意味はあると、もっともらしい解説を付けることも可能です。

今年7月11日付けの同誌の記事に基づけば、ビッグマック1個が米国で5.51ドル、日本で390円だから、ドル円のビッグマック指数は1ドル=70.78円(=390÷5.51)となるわけです。

実際のドル円は今年の夏場以降、概ね110円ちょっとで推移しているので、円がドルに対して3割以上割安になっている(ドルが円に対して割高になっている)と判断することができます。

もっとも、だからといってドル円が70.78円に向けて直ちに修正されるというものでもないでしょう。

「エコノミスト」誌自体が、「ビッグマック指数は、為替レートの精緻な尺度を目指して作られたわけではない。単に、購買力平価を分かり易くするためのツールに過ぎない」と断わっています。つまり、シャレだと。

日米のビッグマックの違いは?

ところで、購買力平価の基本は「同じモノが同じ値段で買える」ということでした。そこで疑問が浮かんできました。同じ「ビッグマック」であっても、アメリカのものは日本のものに比べて馬鹿デカいのではないか、つまり「違うモノ」ではないか、と。

仮に、アメリカのビッグマックが日本の1.5倍の大きさだとすれば、アメリカのビッグマック1個と比較すべきは日本のビッグマック1.5個であるべきです。

先ほどの計算でいけば、ビッグマック1個が米国で5.51ドル、日本でビッグマック1.5個が585円(=390円×1.5)だから、ドル円のビッグマック指数は1ドル=106.17円(=585÷5.51)となります。

この仮説が正しければ、実際の為替レートにかなり近づきます。そう思って、ネットで調べてみました。ビックマックの重量は分からなかったので、カロリー量を比較しました。なんと……! ほとんど同じでした。アメリカが540kcal、日本が530kcal(公式HPより)。

筆者の仮説は木っ端みじんになりました。今年7月時点のドル円のビッグマック指数は、やっぱり1ドル=70.78円でよかったようです。

なお、Lサイズのソフトドリンクでは、量に1.5-2倍の差があるようです。もちろん、米国の方が大きいです。

次回は、購買力平価にもう少し踏み込んでみたいと思います。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。