騙されない投資家になるために……。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。その第10回です。

「外貨投資は資産運用に不向きか」

「株式投資はプラスサム、為替取引はゼロサム。だから、株式投資は資産運用に向いているが、外貨投資は向かない」との指摘があります。これについて、考えてみましょう。

為替取引はゼロサム・ゲーム

「ゼロサム・ゲーム」とは、勝つ者がいれば、必ず負ける者がおり、損益の「総和(=サム)」がゼロになるという意味です。為替取引は2通貨の交換なので、勝つ者がいれば負ける者がいるのは当然です。

では、為替取引をしなければ、勝ちも負けもないのでしょうか。当然のことのように聞こえますが、ここに大きな誤解があります。

日本に住んで、円で生活し、円資産を保有し、外貨を持たない方は、実はお金の100%を円に投資しているとも言えます。換言すれば、円のリスクを目一杯抱えているということです。

第6回「外貨を持つことの意義」で説明したように、円安になった場合、円しか持たない方は生活費の上昇や実質的な預貯金の目減りによって大きな打撃を受ける可能性があります。

つまり、為替取引の「ゼロサム・ゲーム」において、広い意味で必ず「負け組」になります。もちろん、円高になれば、円しか持たない方は「勝ち組」になりますが、そのシナリオに賭けてしまって良いのでしょうか。

株式投資は必ずしも「プラスサム」とは限らない

他方、株式投資は、企業や経済の成長に合わせて資産価値が増加する「プラスサム・ゲーム」だと言われます。ただし、これには注意すべき点が2つあります。

まず、「プラスサム」は皆がプラスになるという意味ではありません。当たり前ながら、総和がプラスだとしても、大きくマイナスになる方はいるかもしれません。

もう一つは、「プラスサム」が過去の経験に基づく想定に過ぎないという点です。今後の経済情勢次第で、「ゼロサム」や「マイナスサム」にならない保証はありません。これに対して、為替取引は常に「ゼロサム」です。

株式投資が長期低迷した例

私たちは、幅広く、かつ長期的に株式に投資しても、「プラスサム」にならなかった例を身近に知っています。仮に、1989年末に日経平均を38,915円で買ったとします。10年後には18,934円に値下がりしました。

長期保有が前提なので、さらに10年待ったとしましょう。2009年末の日経平均は10,546円でした。当初の投資額が20年後に4分の1程度になったのです(ただし、配当は考慮していません)。

今、とても元気な米国の株式市場にしても、NYダウは1966年初めに1,000ドル近くまで上昇したものの、その後は低迷が続きました。

1,000ドルを超えて明確な上昇が始まったのは1982年末、実に27年後のことでした。この1970年代を中心とした時期は「株式市場の死」と呼ばれました。

債券投資も「マイナスサム」になりうる

債券にしても、満期まで保有して無事に償還されれば、元本に加えて保有期間中の金利がつくので「プラスサム」になります。

しかし、デフォルト(債務不履行)となる可能性もゼロではないでしょうし、途中で売却しようとすれば、市場の状況によっては購入価格より低い価格でしか売れないケースもあります。

それらの場合は「マイナスサム」になり得ます。要するに、株式や債券投資は資産運用に向いており、外貨投資は向いていないとの二元論は短絡的過ぎるのではないでしょうか。

外貨預金とFXの違いは?

ところで、外貨投資といえば、外貨預金やFX(為替証拠金取引)を思い浮かべるでしょう。そして、外貨預金は安全で、FXは危険だと考えていませんか。

FXでも、レバレッジを1倍(つまりレバレッジなし)にして、長期保有するのであれば、外貨預金と基本的に同様の投資を行うことはできます。

むしろ手数料が低い、指値注文が入れられるなど、FXが外貨預金よりも有利とみられる特徴もあります。あくまで「やり方」の問題です。

外貨預金を扱う銀行に比べて、FXを扱う会社は財務的に脆弱だと心配されるかもしれません。ただし、FX会社が顧客からの預かり金を区分管理して信託保全していれば、心配しすぎる必要はないはずです。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。

2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。現在、マネースクエアのWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを解説。