入社したものの短中期で離職してしまう社員、そして主にメンタル面での不調や病気を理由に休職する社員が増えています。休職自体も企業にとっては損失ですが、これ自体は社員の権利でもあり、理由が正当なものであれば、適切な期間、休職すること自体はそう問題ありません。問題になるのは、休職中の不適切行動です。
休職者の不適切行動とSNS
「不適切行動」には色々ありますが、不安感や動悸などで電車に乗ることもできず、食欲もなく夜は眠れず、「〇ヶ月ほど休職し、安静に過ごすように」と医師に勧められて休職したはずの人が、休職した途端に旅行にイベント、飲み歩き……と遊び回る様子をSNSに載せ、それが上司や同僚、取引先の目に止まるというのはその代表的なものです。他には、職場への不満から休職や退職した場合に、仕事、会社、仲間についての悪口や公にするべきでない情報を、SNSやネット掲示板などに書き込んでしまうケースもあります。
今回、調査対象となった現職社員も、正にこのパターンでした。「楽しいニート生活」と、上司の悪口を子供じみた表現で綴った日記ブログが原因でした。「なんだ、よくある話じゃないか」と思われたかもしれません。しかしながら今回のケースは、調査員たちも今まで見たことのない経路で不適切行動が発覚しました。一億総スマホ/ネット時代でなければこんなことにはならなかったのだろうと、SNS調査担当者としては感慨深いものがあります。
28歳のO君は、あまり気は利かないタイプでコミュニケーションも苦手ですが、気立ては決して悪くなく、仕事ぶりも実直。年上の女性社員やパートさんからは時々注意されながらも、上手くやっているように見受けられました。
ただ、O君の上司であるC部長はやり手で面倒見も良い反面、典型的な“体育会系気質”で、はたから見ても2人はそりが合わない様子でした。そのためO君が「非定型うつ型」の診断書を提出し休職を申し出た時、周りは「ああ……」となんとなく納得したものです。C部長も多少気がとがめたのか、O君に「ゆっくり休んで、また元気になったら頑張って」と神妙な顔で声をかけました。恐らくこの時点では、C部長も「Oが戻ってきたら、もう少しやさしく接するようにしよう」という気持ちがあったのだと思われます。
「これってお父さんのこと?」
O君が休職した翌月の終わりごろのこと、C部長の息子さん(中学生)がO君のブログを見つけてしまったのです。その日記ブログには、好物のラーメン屋巡りと「カネはないがヒマはあるので、寺、公園など〇〇県の観光名所巡り」をしている毎日が綴られていました。「ニート最高」「もう働きたくねえ」「皆さまが忙しく働いている間に、桜を愛でます」「ああ平和だなあ、移住でもしよっかな」など、自分の立場を考えない内容が書かれてはいましたが、ここまでなら、まあ笑って見過ごすべきでしょう。
しかしそれだけでなく、休職に至るまでのいきさつや気持ち、職場への不満、会社の問題点、職場の人、とりわけC部長の人間性について強い批判が書かれていました。O君の子どもっぽさからか、「やってらんね〜」「バカバカバーカ」といった表現は少なからず普段から見られるのですが、C部長については積年の恨みか、「ハ〇オヤジのC」「人格○○者」と連呼し、お絵描きアプリで描いた悪意ある似顔絵まで載せていたのです。
さらに、O君の憶測と言いましょうか、妄想による「去年、同じ課の〇〇さん(女性)が急に辞めてしまったのはあのバ〇ハ〇オヤジのセクハラにちがいない。」「アイツの妻は大学時代の同級生らしいが、よくあんなモラハラゴリラと何十年もいられるな。家でもあの調子なのか。それとも家では妻の機嫌を取って……(※性的な表現を含む侮辱的な内容でした)」などといった誹謗中傷も書かれており、その罵詈雑言はこの約3ヶ月で悪化していました。
もちろんC部長は非常に腹立たしく不快感を持ち、しかもこれが自分の子どもの目に触れてしまったことを父親の沽券にかかわると感じました。しかしながらC部長が問題視し調査を依頼してきたのは、次の内容です。「〇〇クリニックの先生はやさしいから、まだまだ休職できそうだな」「休職中も内職(アプリ関連の在宅ワーク)で小遣い稼げるし、何なら週何回かバイトに行けばいい」「会社から頂いてきたアレを売ればカネになるかな」……私たちがブログ、SNS 、フリマやオークションサイトを調査したところ、現時点ではO君が会社の備品を盗んで持ち帰り売っている事実はありませんでした。また彼が重要な社内機密に携わっていたこともありません。しかしながらC部長や関係者の中で、O君の人物評価は著しく下がりました。
現職社員のSNS調査依頼を受けて毎回感じるのは、日頃の行状などに「不審点」がある社員がやはり対象になるということです。「何かちょっとおかしい……」そう感じると、人は以前にもまして注視します。その注視が、「要調査」と判断される点を見つけ出すのです。そして調査すると経歴詐称やSNSでのやらかし、不倫など、何かしらの問題点が見つかる割合の多いこと。まして今は子どもから老人までスマホやネットに触れる時代です。正に「壁に耳あり、障子に目あり」。SNSやネットでの行動は、独り言ではないという認識を多くの人が持つべきでしょう。