世間を騒がせた大手飲食チェーンでの迷惑動画事件では、投稿者だけでなく企業側も重大な損失を被ったことは記憶に新しいところ。採用においても、企業は候補者の人間性やネットリテラシーに、よりセンシティブになっています。この連載では現役の調査員が、採用調査や問題社員のリスク調査といった「企業調査のリアル」をお伝えします。
面接では誰もが「普段とは違うきちんとした自分」を演じる
採用担当者は知識と経験を駆使して、限られた時間と資料で応募者の能力、適正、人柄を見極めなくてはなりません。履歴書や職務経歴書が立派な人物を採用しても、実際には能力的に大きな不足があれば、期待した成果があげられなかったり、ミスにつながり、部門や会社に損失をもたらします。さらに、社会的規範の面で問題のある人物を採用してしまった場合、社内外で犯罪行為や迷惑行為を行い、会社に不利益をもたらしかねません。また人間性も、一緒に働く周りの人の職場環境を左右する重要ファクターですが、面接では誰しも「普段とは違うきちんとした自分」を演じるので、見抜けないこともあります。
そういった「採用の失敗に起因する大災害」は、どんなに熟練した採用担当者であろうと一定の確率で起こるものです。大切なことは、書類審査や面接をすり抜けて入ってきたそういう従業員が、現職に含まれている可能性があると自覚することと、大きな問題に発展する前に彼らを見つけ出し、問題防止に務めることです。今、複数の企業で、問題行動が見られる現職社員に対するチェックが行われています。そのうちの一つがSNS調査です。SNS調査で、素行の悪さが明るみに出たケースをご紹介します。
きっかけは営業中の「サボり」
B氏は30代。営業社員として採用されました。面接での印象は、「人当たりが良く、積極的」「モチベーションが高い」「打てば響く会話」と非常に良く、営業としてのポテンシャルを感じさせるものでした。ところが採用後、徐々にボロが出始めます。営業中に頻繁にサボっている様子が見られ、遅刻も常習的でした。「勤務時間中に副業をしているのではないか」という疑惑から、当社に調査が依頼されました。サボっていることはすぐに判明しましたが、そのサボる理由を探ったところ、好青年という印象からはかけ離れた素顔が現れました。
SNS調査を行ったところ、風俗店に女性を斡旋するスカウト業を、長年、副業として行っていることがまず明らかになりました。これは副業禁止規定に反するだけではありません。性労働従事者の斡旋自体が違法です。また別のアカウントでは「ナンパ師」と名乗り、繁華街や出会い系での女性との出会いが「釣れた」「食えた」「ゲット」「捕獲」などという言葉で綴られていたのです。これらの女性を風俗店に斡旋していたであろう痕跡も、投稿内容から見て取れました。職業に貴賤はなく恋愛は自由であるとはいえ、このような公序良俗に反する投稿は、企業の社会的なイメージにとって問題です。
また履歴書に書かれていた住所のマンションの一室は、実際にはB氏は賃貸契約しておらず、数日滞在しただけの民泊で、現在は居住実態がないことも判明したのです。では彼は一体、どこに住んでいるのでしょうか。毎日、どこから会社に向かっているのでしょうか。驚いた我々の調査で最終的に判明したことは、B氏は、スカウトした複数の女性の部屋を転々としていたということです。近隣からは「よく口論している」という声があったり、女性のうちの1人から後日、「B氏にお金を返してもらいたいが、連絡が取れない」という電話が勤務先にかかってきたことからも、B氏の素行が相当悪かったと再確認されました。
SNS調査が当たり前になる時代
従業員が就業中に問題行動を起こした場合はもちろんのこと、社外で何らかの事件や不法行為を行った場合、まずネットで情報が拡散し、勤務先やSNSを含めた個人情報が特定される世の中になりました。先日起きた、総理を狙ってのテロ事件でも、発表から数時間もせず、犯人のSNSやネットの書き込みが特定されています。もし犯人が無職ではなく、どこかの企業に勤務していたならば、その名前も一緒に拡散されたでしょう。また仮に犯人が日々、職場や上司への不満を書き連ねていたなら、どうしても「会社は何かおかしいと思わなかったのか」といった批判に晒されることになります。今回のB氏のような現職従業員の「私生活の乱れ」「素行不良」だけでなく、「犯罪をほのめかす発言」なども、企業にとって、見て見ぬふりはできない懸念材料です。
採用候補者の経歴をチェックすることで採用後の自社リスクを軽減するバックグランドチェックも大切ですが、既に採用した現職に不審な点が見られる時に、SNS調査などを実施し適切な対策や処分を行うことで、企業は大損害を被ることを未然に防ぐことができます。人は、「繕うものであり、変わるものであり、ミスをおかす」ものですから、採用前のみならず採用後のSNS調査を行うべきと考える企業はこれからも増えていくでしょう。応募者や従業員側は、調査対象にならないため日頃の勤務態度や発言に留意することに加え、SNSなどネットでの発言や画像は「会社や取引先に見られる」ことを前提に投稿するべきではないでしょうか。