現代が炎上しやすい時代であるということは、このシリーズで何度もお伝えしてきました。同時に、他人の失敗に対して厳しく、一度炎上すると本人の過去までさかのぼって、勤務先や家族、学校の担任や元同級生など、周囲も巻き込まれて批判にさらされる時代でもあることは、皆さんも感じていると思います。監視社会ともいうべきこの風潮は、コロナによる感染への恐怖や自粛などを通し、この数年でさらに強まったのではないでしょうか。
そんな中、当社が請け負う採用調査や現職社員のリスク調査に注目が集まり、一部では「日本も米国企業のように入社前のバックグラウンド調査を必須にすることが、企業の責任だ」という声も聞こえてきます。同時に、リスクを回避するためか、昔懐かしい昭和時代に見られた「縁故入社」「紹介」といった方法に回帰しようとする企業も存在します。「今どき縁故入社なんて」と、世間の批判対象になりそうですが、実はひっそりと微増している感があります。信用できる人からの紹介なら、身元も人物も確かで安心に違いないから、という理屈です。
密かに微増している? 縁故入社
そういえば最近、岸田総理の息子さんである岸田翔太郎さんが、不適切な行動が原因で秘書官を辞任した件が、最近ニュースを賑わせていましたね。やはり、縁故で就職は、あるところにはあるのです。しかし、一国の総理大臣のご子息でさえ、人の口には戸は立てられず、自身の行動の責任を取る結果になるのですから、一般企業の縁故入社社員に至っては、よほどのワンマン経営で経営者肝いりの人物でない限り、問題行動があれば一般社員同様に調査対象とせざるを得ないでしょう。
信用できる人からの紹介なら、身元、人柄、能力もまあまあ保証されているであろう。少なくとも、とんでもない人物ではなかろう。こう期待して採用した縁故入社者が、チェック対象になってしまったのにはもちろん理由があります。
ズル休みは当たり前、仕事をサボってデスクで枝毛切り…目に余る言動
Oさんは、社外取締役であるA氏からの紹介で入社してきた女性です。学生時代にミスコンに入賞したこともあり、CAを目指しながら父親の会社で秘書として働いていたが夢叶わず、心機一転頑張りたいとのことでした。確かにスラリとした美女で、社内の廊下ですれ違うと思わず振り向く男性社員もいるほどです。
他の社員とは一線を画す持ち物のブランド品だけでなく、態度の大きさや空気を読まない発言は目立っていましたが、A氏の紹介であること、Oさんの父親の会社もそこそこ重要な取引先であることから、入社当初から上司や周りは腫れ物に触るような扱いでした。しかしながら、産休・育休に入る女性社員の仕事を分担することを拒否したり、業務時間中に髪の枝毛を切り始めたり、少し面倒な仕事になると「やったことがないから、わかりませーん」「今日はこれから予定があるんで、〇〇さん、お願いしまーす」と、他人に押し付け自分は定時退社したりといった目に余る言動が続いていたことから、同僚たちの間で不満が溜まっていました。
ある日のことです。彼女の仕事を何度もフォローしていたEさんは、水曜の朝一番、メールを見て愕然としました。そこには、Oさんから「ケガしたので、今週は休みます。金曜日までに〆切の仕事は、次のとおりです。(膨大な一覧)……Eさん、よろしくお願いします。」と書かれたメールが届いていたのです。どれも数日から数週間の猶予があった業務であるにも関わらず、ほぼ手つかずか、ミスだらけ。これを報告したEさんの直属の上司は煮え切らない態度しか取らず、結局Eさんともう一人のHさんが手分けし、連日遅くまで残業して何とか片付けたのです。
週明け、 Hさんが怒りに震える手でEさんに見せたスマホには、Oさんのインスタグラムが写っていました。そこには、火曜の夕方に成田を出発し、リゾート地で遊ぶOさんたちの姿があったのです。その日、怒り心頭の女性社員数名が人事に直談判したことで、事態は急展開を見せます。
そして発覚した経歴詐称
当社に相談された担当者様の懸念やご要望は、次のとおりでした。
•Oさんの入社からこれまでの問題行動をSNSで調査したい。
•勤務態度の不真面目さだけでなく、業務遂行能力が著しく低く、一般常識に問題があることもわかっている。経歴は本当なのか。
同時に担当者様も、OさんとOさんを縁故入社させたA氏との関係を再度調査されていたようです。インスタはもちろん、Facebook、LINE、TikTok、TwitterなどのSNSを古いアカウントまで調査したところ、次のことが判明しました。
•Oさんは、何度もズル休みしている。
•学生時代からパパ活をしており、A氏は「元パパ」の1人である。
•CAを目指してはおらず、大学卒業後はほぼニートに近い生活だった。
•税金対策や世間体のために父親の会社に在籍はしていたが、労働の実態はなかった。
•現在の勤務先に対し、不満をたくさん持っている。
•同僚女性に対し、容姿や収入をバカにした発言が目立つ。
•仕事上で注意した同僚に対し、「お前なんかパパ(A氏のことか実親かは不明)に頼んで飛ばしてやるから」と発言。
A氏との関係については、担当者様の予想通りであり、「真面目に就活を頑張って、当社に貢献していくれている社員の皆さんに実に申し訳ない」という一言が非常に重く感じられました。縁故入社が必ずしも悪いわけではありませんが、縁故入社だから安心、というのは間違いです。そして昭和、平成、令和と時代が変わるにつれて縁故入社が廃れていった経緯には、このようなケースも少なからずあったのかもしれないと、調査員は思いをはせました。