私はかれこれ20年近く、家計のやりくりの取材をしてきました。その中には、貯蓄が1000万円以上ある人も、少なくありませんでした。その人たちが、とりわけ収入が多いというわけではありません。年収300万円台(手取り)というケースもたくさんありました。また、お金を使わないケチケチ生活をして、ギスギス暮らしているわけでもありません。

そして、1000万円貯蓄を達成した人たちに共通して言えることがあるとしたら、彼らは絶対的に"おうちごはん"派です。なぜなら、外食は手間と時間がかからずに便利な分、割高だということを知っているからです。外食三昧ではお金は貯まりません。"おうちごはん"は、1000万円貯蓄達成への黄金道なのです。

今どきのやりくり上手さんは、食費をキリキリ削らない

主婦を読者層とした生活情報誌の家計のやりくり企画では、「主婦が家計の出費を抑えたいと思い立ったら、食費を削るのが手っ取り早い」というのがお決まりでした。子どもがまだ未就学児とはいえ、家族4人で1カ月の食費が2万円台、なかには2万円を切る家計もありました。

買う食材といえば、豚コマ切れ肉、豚挽き肉、鶏胸肉が"3大肉"。豚コマはご存知の通り、端切れ肉を集めてパックにしたものなので安価です。鶏胸肉は業務用スーパーなどの激安店に行けば、38円/100gで買えます。鶏モモ肉の方がジューシーでおいしいのですが、鶏胸肉に比べて割高なので買いません。パサつく鶏胸肉をいかにおいしく調理するかが、食費やりくり上手さんの腕の見せどころなのです。

魚は1切れ=100円の切り身が定番。あとはせいぜい、旬のサンマやアジが1尾=100円以下なら買ってよし。

かさ増しも流行りました。たとえば、ハンバーグは合い挽き肉の量を少なくするために、おからを混ぜてかさ増し。挽き肉対おからの比率がどれくらいまでなら、ぼそぼそせずに、肉っぽさを保てるかについても、さまざまな試行錯誤が繰り返されました。

リメイク料理も流行りました。まとめて作ったカレーを翌日はカレーグラタン、その翌日はカレーコロッケ、3日目はカレーうどんと使い回します。それだけではありません。煮物を作ったら、具を食べたあとに残った煮汁がもったいないからと、煮汁をほかの料理に使い回す食費やりくり達人も登場しました。

そんなトレンドがしばらく続きましたが、「豚コマは食べ飽きた。かたまり肉が食べた~い!」「たまには刺身だって食べてみたい!」「おからのかさましは、もうイヤ!」という声があがり、食費を削る底値競争はだんだんと下火になっていきました。

献立をシンプルにすると食費が減る

食費やりくりの基本は「安く買った食材をおいしく食べ切る」ことにあります。最近のトレンドはこのなかでも「おいしく」がフィーチャーされています。

たとえば、特売肉を大量に買って冷凍するのではなく、冷凍だとどうしても味が落ちるので、塩麹、しょうゆ麹、オリーブオイルなどに漬けて保存。冷凍ほどは日持ちしませんが、下味がなじんでいるので、焼くだけでおいしく仕上がります。

以前のようにリメイクで使い回すことは少なくなり、素材をそのまま焼く、炒める、蒸すなどのシンプル調理に。その代わり、塩、しょうゆ、みりん、酢などの基本調味料を多少割高でも少しいいものを使って、味つけします。1切れ=100円の鮭の切り身でも、塩麹に漬けると、麹がもつタンパク質分解酵素の働きで、鮭がふっくら、やわらかく焼き上がります。

以前の食費やりくりは、かさ増ししたり、リメイクしたりと料理が得意な人が有利でしたが、最近のトレンドは調理法がシンプルになり、料理があまり得意ではない人でも、食費を抑えることができます。以前のように1カ月の食費が2万円を割ることはありませんが、"おいしく"なった分、食生活に対する満足度はアップしているようです。

<著者プロフィール>

村越克子

フリーランスライター。学習院大学文学部心理学科卒業。編集会社を経て、フリーに。主婦を読者対象とした生活情報誌を中心に執筆。家計のやりくりに奮闘する全国の主婦を取材し、節約に関する記事を数多く手がける。執筆協力に『綱渡り生活から抜けられない人のための絶対! 貯める方法』永岡書店など。