私はかれこれ20年近く、家計のやりくりの取材をしてきました。その中には、貯蓄が1000万円以上ある人も、少なくありませんでした。その人たちが、とりわけ収入が多いというわけではありません。年収300万円台(手取り)というケースもたくさんありました。また、お金を使わないケチケチ生活をして、ギスギス暮らしているわけでもありません。要するに、お金のやりくりが上手なのです。ということは、そのやりくりの仕方を真似すれば、誰でも1000万円貯めることが可能というわけです。ぜひ今日から真似してみてください。

お金は使うために貯めるもの

このシリーズの第1回第3回で登場する、クレジットカード会社からちょくちょく残高不足でカード払いの引き落としができないという連絡がくる女性から、私は、あるとき、こう質問されました。

「どうして、貯蓄しなくちゃいけないの? 別に今の生活に困っているわけじゃないし、今くらいの収入があれば、この先も不自由なく暮らせる。今欲しいモノを我慢してまで、貯蓄する意味がわからない」と、彼女は言うのです。

私は、この思いもよらない問いかけに驚きました。学校を卒業して、就職したら、収入のうちの幾ばくかを貯蓄にまわすのは、社会人として当然のことだと思っていたからです。私は、そのとき彼女に説明しました。

「今は元気で働けるからいいけど、病気やケガで一時的に働けなくなることもあるし、会社が倒産するかもしれないし、リストラされて収入が減るかもしれない。結婚や出産で退職するかもしれないし、年金だってあてにならないし……」と。

私の説明は「かもしれない」ばかり。そんな将来の漠然とした可能性を想定して、お金を貯める必要性をいくら説いても、彼女にはピンときません。将来、起こるか、起こらないか、あいまいなことのために、今、目の前にある楽しみをあきらめる気持ちにはならないようでした。

今にして思えば、私の説明の仕方が間違っていたとわかります。ひとこと「使うために、貯めるのよ」と言えばよかったのです。

未来の自分が使うお金だと思えば、貯蓄が楽しくなる

言うまでもなく、1万円札は、それ自体では、ただの紙切れです。モノやサービスと交換して、はじめて「1万円」の価値を発揮します。そうです、お金は使わなくては、意味がありません。当たり前のことです。

貯めたお金は使うものですし、使うために貯めるのです。問題は、使う時期。今の自分が使うのか? 未来の自分が使うのか?

今の自分にも欲しいモノがあります。でも、貯蓄がないと、手持ちのお金は限られているので、手に入れられるモノも限定されます。とりあえず、今欲しいモノを少し減らして、未来の自分が欲しくなるモノのためにお金をとっておく。これが貯蓄です。

手持ちのお金だと3万円のバッグしか買えないけど、貯めれば10万円のバッグが買えます。国内旅行しかできなかったのが、貯めれば海外に出かけられます。目先の楽しみではなく、未来の自分を喜ばすためにお金をとっておくのです。

病気やケガ、失業、老後……といった暗い話題の備えと思わずに(もちろん、それも大事なのですが)、未来の自分が使うためと考えると、俄然、貯蓄のモチベーションがあがりませんか?

<著者プロフィール>

村越克子

フリーランスライター。学習院大学文学部心理学科卒業。編集会社を経て、フリーに。主婦を読者対象とした生活情報誌を中心に執筆。家計のやりくりに奮闘する全国の主婦を取材し、節約に関する記事を数多く手がける。執筆協力に『綱渡り生活から抜けられない人のための絶対! 貯める方法』永岡書店など。