エンゲージメントに大きな影響を与える要因

エンゲージメントの重要性を理解すると、次に考えることは「どんなアクションによってエンゲージメントを引き上げられるか」です。クアルトリクスの調査フレームワークは、エンゲージメントに継続勤務意向やウェルビーイングなどのKPIを加え、それらを変化させる影響要因(ドライバー)になる統計的に検証された25のテーマから構成されています。これらのドライバーは従業員にとっては個別の体験と考えることもできます。

各ドライバーのKPIに対する影響度は、組織の特性や従業員属性によっても変わってきます。しかし、多くの企業の調査結果から浮かび上がる定番ともいえるドライバーがいくつかあります。今年1月に当社が日本で実施した「働く人の意識調査」(2023年1月27日~30日実施、就労中の方々4,157人が回答)においても、エンゲージメントとの相関が強いトピックを以下のように整理することができました。

成長の機会

仕事を通して、スキルや経験のレベルをアップでき、自分のキャリア目標を達成できる見込みがあれば、もっと頑張りたいという気持ちになるのは自然のことです。キャリアパスの明確化、直属上司によるサポート、適材適所の実現などが、アクションのテーマとして浮かび上がります。

経営理念の浸透や変革への適応

自社の戦略や経営理念を理解・共感することによって、自身もその組織の一員であることを誇りに感じ、将来の発展に向けて貢献したいという気持ちを持つようになります。経営陣によるコミュニケーションはもちろん、それを受け止めるマネージャーが自分達の言葉で部下と共有し、腹落ちさせることが重要です。

社会貢献に対する誇り

過去2~3年でキードライバーとして抽出される機会が増えたテーマです。自社が社会に対してどのような貢献をしているのか、その活動に対する誇りの強弱がエンゲージメントの水準にも影響を与えるということです。

自社の製品・サービスに対する自信

顧客に対して、有益な製品・サービスを提供できているという実感もエンゲージメントの水準と関係がみられます。上記の社会貢献に対する誇り同様、自社の製品・サービスが顧客に役立っていることがエンゲージメントを引き上げることを示唆しています。

  • クアルトリクスによる標準的なEX調査フレームワーク

調査結果に基づくアクションが不可欠

従業員意識調査を実施した場合に、調査結果に基づく課題にどう対応するかは、企業における長年の悩みです。根本的な考え方として、トップダウンだけではなく、各組織を巻き込んだボトムアップによる取り組みにすることが効果的です。

自分の組織の課題として納得し、より多くの従業員がアクションプランの策定・実行に関与しなければ活動は根付きません。アクションが軌道に乗っている組織の特徴は、会社に指示されただけの活動ではなく、組織内で困りごとが理解され、それを改善するためのアクションが確実に実行されるという期待が従業員側にも共有され、自らその活動に参加しようとしていることです。

「アクションプラン」というと、大掛かりで難しい感じがするかもしれませんが、実際には複雑な仕組みの導入や、他社がどこも実施していない目新しい活動を目指す必要はありません。日常業務において、翌週からでもみんなで実行できるような小さな工夫で十分です。地道な活動かもしれませんが、中長期的にこうした取り組みを全社レベルで継続させる企業と、課題の実態把握をせず、そのまま放置する企業とでは、従業員のエンゲージメントの高低を通して組織力に決定的な差が生じるのではないでしょうか。

著者プロフィール


市川 幹人 クアルトリクス合同会社 EX ソリューションストラテジー シニアディレクター

シンガポール国立大学経営大学院修了。住友銀行(現三井住友銀行)、三菱総合研究所を経て、ヘイコンサルティンググループ(現コーン・フェリー・ジャパン)およびウイリス・タワーズワトソンにおいて、従業員意識調査チームの統轄責任者を歴任。さまざまな業界のリーディング企業に対し、プロジェクト全体の企画から、調査設計、実査準備・運営、集計分析、結果報告、アクションプラン策定のためのワークショップ運営まで、豊富な経験を有する。 クアルトリクスでは、従業員エクスペリエンス分野推進のシニアディレクターを務める。