私の名前は粕田舞造(かすたまいぞう)。1日1回ほどPCの画面が真っ暗になる現象が起き、いろいろOSの設定をいじったが変化がなく、これはグラフィックスカードが故障かと思って買い替えたら、DisplayPortケーブルの接触不良が原因だった。よく考えればわかりそうなものである。

今日は第3世代Ryzenの新機能「Eco-Mode」について紹介したい。2019年の自作界は第3世代Ryzenが最大の話題だと言っていいだろう。まさかCPUのシェアでIntelを圧倒するとは誰が想像しただろうか。第3世代Ryzenの性能が優れているのは今更語るまでもないが、カスタマイズ好きとしてはEco-Modeが気になるところだ。

Eco-Modeは第3世代Ryzenを省電力で運用できるようにするもの。TDP105W、95WのCPUが65Wになり、TDP65WのCPUは45Wになる。AMDでは「44%省電力になるが、77%の性能が発揮できる」としている。TDP105Wで水冷クーラーでの運用が推奨されているRyzen 9 3950Xを空冷でも安心して使えるようにするための機能という面が強いが、第3世代Ryzenならどれでも使える。では、TDP65WのRyzen 7 3700XをEco-Modeで使うとどうなのか試してみたい。

Eco-Modeを使うための準備

まず、Eco-Modeを有効にするにはAMDの純正OC制御用アプリ「Ryzen Master」が必要だ。これはAMDのサイトからダウンロードできる。アプリをインストールして起動する。あらかじめ「Creator Mode」、「Game Mode」、「Profile 1」、「Profile 2」の4種類がプリセットとして用意されているが、どれを使ってもOK。どれかを選んで画面上部の「Eco-Mode」を選択し、画面下部の「Apply」をクリック。すると再起動が行われ、Eco-Modeが有効となる。

  • 第3世代Ryzenの秘密兵器!? Eco-Modeって実際どうなの

    Eco-Modeを使うには、まずAMDのサイトより「Ryzen Master」をインストールする

  • インストールして起動すると警告メッセージが表示される。CPUの設定範囲外での動作は保証外になるというもの。Eco-Modeでの利用では心配はいらない

  • 起動後は左のプロファイルを選択。4つあるがどれでもOK。ここではCreator Modeを選んだ

  • 画面上部の「Eco-Mode」をクリック。そして画面下の「Apply」をクリック。これで再起動が行われ、Eco-Modeが有効になる

  • Control Modeが「Eco-Mode」になっていればOKだ。なぜか設定してもEco-Modeになっていなかったことが何度かあったので必ず確認しておこう

本当に「44%省電力で、77%の性能」なのか確認

さて、まずは性能がどう変化するのか見てみよう。テスト環境は以下の通りだ。

テスト環境
CPU:AMD Ryzen 7 3700X(3.6GHz)
マザーボード:MSI MPG X570 GAMING EDGE WIFI(AMD X570)
メモリ:Kingston HyperX FURY RGB DDR4 HX432C16FB3AK2/16(DDR4-3200 8GB×2)
グラフィックスカード:GIGA-BYTE GeForce RTX 2070 WINDFORCE 8G(NVIDIA GeForce RTX 2070)
システムSSD:Kingston KC600 SKC600/1024G(Serial ATA 3.0、1TB)
CPUクーラー:サイズ 超天(トップフロー、12cm角ファン)
OS:Windows 10 Pro 64bit版

テストはレンダリングでCPU性能を測る「CINEBENCH R20」、PCの総合性能を測る「PCMark 10」、定番の3Dベンチマーク「3DMark」のほか、実ゲームへの影響を見るため重量級ゲームとして「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」、軽めのゲームとして「レインボーシックス シージ」でフレームレートも測定した。

  • CINEBENCH R20

  • PCMark 10

  • 3DMark

単純なCPUパワーを測るCINEBENCH R20ではEco-Modeにすることで約6.5%ほどスコアがダウンした。シングルコアのスコアは誤差レベル。1つのコアがいくら高クロックで動作してもEco-ModeのTDP45Wに到達することがないため、性能差が出ていないと見られる。PCMark 10ではわずか約2.3%のダウン、3DMarkのFire Strikeでも約4.2%のダウンとそれほど大きな差にはなっていない。Ryzen 7 3700XはもともとTDPが65Wと低消費電力なCPU。TDP45Wまで下げたとしてもRyzen 9 3950XのEco-Mode運用(TDP105W→65W)に比べて、性能への影響は小さいのかもしれない。

  • シャドウ オブ ザ トゥームレイダー

  • レインボーシックス シージ

実ゲームになると、さらに影響は小さくなる。シャドウ オブ ザ トゥームレイダーはフルHDこそわずかにEco-Modeのほうがフレームレートが低いが、WQHD以上になるとまったく変わらない。これは、GeForce RTX 2070を使ってもWQHDではすでにグラフィックスカードがボトルネックになっているためと考えられる。レインボーシックス シージでも同じ傾向だ。最近のゲームはCPUパワーがある程度は重要になるとはいえ、Ryzen 7 3700Xは8コア16スレッド。Eco-Modeでも重量級ゲームを十分快適にプレイできるパワーがあると言っていいだろう。

さて、性能への影響が分かったところで消費電力とCPU温度をチェックしてみたい。システム全体の消費電力はアイドル時はほとんど変わらず、CINEBENCH R20実行時は最大で35Wとそれなりに大きな差、3DMarkのTime Spy実行時の最大では14Wの差となった。3DMarkの場合はグラフィックスカードの消費電力が大きいので、CPUによる消費電力への影響が小さかったと思われる。

CPU温度はOS起動10分後を最小、CINEBENCH R20を3回連続で実行したときを最大とした。ここでは約10℃と大きな差が生まれている。今回は超天と比較的大きめの空冷CPUクーラーを使っているが、Eco-ModeならMini-ITXケースと組み合わせ、より小さなCPUクーラーでも安定した運用が可能と考えられる。小型PCの自作を考える上で、Eco-Modeは非常に有効と言っていいだろう。

  • システム消費電力

  • CPU温度

ちなみに、全コアに負荷をかけるOCCT 5.4.2を実行したところ、通常時は全コア4.2GHz付近の動作となるが、Eco-Modeでは全コア4GHz付近での動作となった。TDPの上限が変わっているので、当たり前の結果とは言え、このあたりがCINEBENCH R20の結果の差になっているのだろう。

と、このようにRyzen 7 3700XはEco-Modeにしても性能は大きく下がらなかったが、CPUの温度はかなり下がったのを確認できた。小型PC自作やPCの省エネ運用、またはCPUクーラーのファン回転数を落として静音性を追求したりと、いろいろと活用できそうだ。機会があれば、小型ケースに組み込んでのテストも試して見たいと思う。