ブームは去ったかのようにも感じる「仮想通貨」ですが、その普及は世界中で着実に進んでおり、今後もさまざまなシーンでの活用が期待されています。
本稿では、「仮想通貨に興味はあるけれど、なにからどう手を付ければいいかわからない」というような方向けに、仮想通貨に関連するさまざまな話題をご紹介。仮想通貨を2014年より保有してきた筆者の経験から、なかなか人には聞きにくい仮想通貨の基礎知識や歴史、未来像などもわかりやすくお伝えします。
今回のテーマは、「仮想通貨の10年予想」。
ポートフォリオに仮想通貨が含まれることが一般的になる
「投資というより投機」「しょせん詐欺」など、未だネガティブな印象の根強い仮想通貨ですが、世界の仮想通貨ホルダーは増加傾向にあります。
PayPay(ペイペイ)やSuica(スイカ)のように日常的な支払いで仮想通貨を利用したり、振込感覚で仮想通貨を送金(送信)したり、株やFXのようにトレードをしたりする人はまだまだ少ないのですが、「ウォレット(口座)は持っている」「塩漬け状態だけど保有はしている」という人もいらっしゃるでしょう。
仮想通貨はまだ全般的に値動きが激しい(ボラティリティが高い)投資先ですが、その分大きく値を上げる可能性も秘めています。なくなってもしょうがないと思える範囲の資金で投資する分には、遊び心を持つ意味でも面白い投資先だと言えます。
値動きが激しいということは、デイトレードやスイングトレードのような短期投資で利益を出せる機会も多いということです。激しい値動きをネガティブに捉えるか、ポジティブに捉えるかはその人次第ですね。
仮想通貨の多くは発行上限が決まっていますので、売り注文よりも買い注文が増えれば、価格は上昇します。そうなると、いつ価格が安定するのかは不明になってしまうのですが。
「大きな値上がりを期待する遊び心として」ポートフォリオに仮想通貨が組み込まれるのは一般的になるでしょう。
仮想通貨の法規制と淘汰が進む
アメリカのニューヨーク州で、ビットコインやその他の仮想通貨事業に関する法律「Bit License(ビットライセンス)」が 2014年7月に発表され、2015年8月に施行されました。また日本では、2017年4月に「改正資金決済法」が成立し、2019年6月に新たな規制にかかる法律が公布されました。
世界各国では、仮想通貨に関する法律やルールが徐々に決められており、いずれは国際的なルールも整備されるでしょう。
ルールが整ってくると、そのルールを守れない仮想通貨運営企業は倒産するか、技術やコンセプトが優れているものはM&Aなどによって経営統合されていくことになります。今では5000種類以上が存在する仮想通貨銘柄ですが、5年か10年以内に半分以下になっている可能性もあるでしょう。
法整備が進むほど、仮想通貨の淘汰も進みますので、仮想通貨投資で利益を得るには「消滅しない仮想通貨を選ぶ」目利き力が大切になりますね。
仮想通貨の技術革新が進む
仮想通貨の代表格であり、時価総額1位のビットコインは、すでに送金・取引手数料が安くはなくなっており、送金・取引スピードも速くはない仮想通貨になってきています。第4回の記事等でご紹介したスケーラビリティ問題ですね。
決済インフラがもっとも整備されている仮想通貨はビットコインなのですが、送金・取引手数料が高く、送金・取引スピードが遅くなれば、支払いや送金で利用する人は限られてくるでしょう。高くて遅ければ、誰も日常的には使わないですよね。
ビットコインは、技術的にはすでに陳腐な仮想通貨になっているように思います。リップル(XRP)やイーサリアム(ETH)、フュージョンコイン(XFC)などのように、より安価でより速く、よりエコロジーな仮想通貨もありますし、まだマイナーな仮想通貨のなかにも技術的に優れているものがあるでしょう。
AIなどの最先端テクノロジーを導入した仮想通貨や仮想通貨取引所の開発も行われていますので、もっと便利で優れた仮想通貨が生まれてくるはずです。
仮想通貨を取り入れる国や銀行・金融機関、企業が増える
本来、仮想通貨は送金・取引手数料が安く、送金・取引スピードが速いことや、データ改ざんが極めて困難であるという利便性の特徴があるのですが、投資・投機の面で注目されたため、利便性よりも利益性の方に目がいきがちです。
本来の特徴である利便性や、第56回の記事でご紹介した「お金や価値のやり取りは、もっと自由で良いじゃないか」という自由思想、「ホルダーが価値をつくっていく」という世界観などがもっと注目されてほしいと感じる一方、投資・投機の側面であっても、仮想通貨の認知度が上がるのは喜ばしいことでもあります。認知度が上がれば、本来の特徴もやがては伝わっていくでしょう。
本質的なことが伝われば、国・政府、銀行・金融機関、企業などでの仮想通貨導入が進むかもしれません。
世界では、独自に仮想通貨を発行している国・政府があります。国・政府が発行している仮想通貨は、「官製仮想通貨」とも呼ばれています。
例えば、ベネズエラの官製仮想通貨「Petro(ペトロ)」、ロシアの官製仮想通貨「CryptoRuble(クリプトルーブル)」、スイスの官製仮想通貨「e-franc(e-フラン)」、スウェーデンの官製仮想通貨「e-Krona(e-クローナ)」、マーシャル諸島共和国の官製仮想通貨「Sovereign(ソブリン)」、ドバイの官製仮想通貨「emCash(エムキャッシュ)」、UAE・サウジアラビアの官製仮想通貨「Aber」、ウルグアイの官製仮想通貨「e-Peso(e-ペソ)」などです。
仮想通貨を支えるブロックチェーンは、データ改ざんを困難にし、取引を監視し合うことで管理者(中央集権)を必要としない技術です。ある意味では透明性が高い技術ですから、税金の申告や税徴収の面では、官製仮想通貨の導入は合理性があるかもしれません。
また、第50回の記事でご紹介したように、仮想通貨のOTC取引の安全性を担保するためにエスクローとして銀行・金融機関が活躍する可能性もあるでしょう。
「クジラ」と呼ばれる大口の仮想通貨ホルダーたちの間では、仮想通貨取引所での売買よりもOTC取引が主流になってきています。月間で1,000億円相当額の仮想通貨取引が行われることもあるようですから、手数料2%としても銀行・金融機関の良い収益源になりますよね。
国・政府、銀行・金融機関での仮想通貨導入が進めば、これまで仮想通貨に縁のなかった企業でも仮想通貨導入が進むでしょう。私の海外の友人には「給与をビットコインで支払っていた」という人もいますので、そういった企業も増えるかもしれません。
第58回の記事でご紹介したLINEの仮想通貨・LINK(リンク)や第36回でご紹介したフェイスブックの仮想通貨・Libra(リブラ)、第29回でご紹介したGAFAやBATHなどのグローバル企業の仮想通貨参入、第45回の記事などでご紹介した法定通貨と仮想通貨の両方を取り扱うFUSION BANK(フュージョンバンク)の誕生など、仮想通貨を取り巻く変化の波は着実に来ようとしています。
別稿の『弁護士が解説! 「仮想通貨に関する法規制の今後」と「投資する際の注意点」』で中野弁護士が仰っているように、未来は誰にもわかりません。ですが、歴史や現状の動きから予測できる点もあるでしょうから、良質な情報を得ることが大切ですし、自分で考えるためにリテラシーを高めることも重要ですね。
次回は、「仮想通貨の価値が上昇するタイミング」についてご紹介します。
執筆者プロフィール : 中島 宏明(なかじま ひろあき)
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、SAKURA United Solutions Group(ベンチャー企業や中小企業の支援家・士業集団)、しごとのプロ出版株式会社で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。