ブームは去ったかのようにも感じる「仮想通貨」ですが、その普及は世界中で着実に進んでおり、今後もさまざまなシーンでの活用が期待されています。本稿では、「仮想通貨に興味はあるけれど、なにからどう手を付ければいいかわからない」というような方向けに、仮想通貨に関連するさまざまな話題をご紹介。仮想通貨を2014年より保有してきた筆者の経験から、なかなか人には聞きにくい仮想通貨の基礎知識や歴史、未来像などもわかりやすくお伝えします。
今回のテーマは、「LINEの仮想通貨事業 - 国内外で広がる"手のひら金融"の流れ」。
LINEの仮想通貨販売所BITMAX
メッセージアプリとして有名なLINE(ライン)ですが、実は仮想通貨事業にも参入しています。
仮想通貨取引サービスとして展開しているのが、仮想通貨販売所の「BITMAX」(ビットマックス)です。2019年9月に、金融庁の仮想通貨交換業者に登録されています。
ウォレット(口座)を開設するためにBITMAXのアプリをダウンロードする必要はなく、LINEアプリ内の「LINEウォレット」から呼び出すスマホ特化型の仮想通貨販売所です。「LINE Pay」と連携しており、本人確認が最短10分程度で完了するのも便利そうですね。スマホ内にアプリが増えていくのが好みではない方にとって、1つのアプリでさまざまな機能やサービスが完結するというのはうれしいポイントでしょう。
また、アプリ画面を見る限り、操作もシンプルでわかりやすい印象です。LINEの説明書や使い方ガイドを見たことはありませんし、直感的に操作しやすいデザインになっていると感じます。
BITMAXで取り扱っている仮想通貨は、以下の5種類です。
・ビットコイン (BTC)
・イーサリアム (ETH)
・リップル (XRP)
・ビットコインキャッシュ (BCH)
・ライトコイン (LTC)
※()内は仮想通貨の通貨単位
LINEの独自仮想通貨LINK
2020年1月30日、LINEは独自の仮想通貨「LINK」(リンク)を日本国内で取り扱うと発表しました。LINKは、LINEのグループ会社・LINE TECH PLUS PTE. LTD.(所在地: シンガポール)が発行している仮想通貨です。
日本国内では、2020年4月以降から「BITMAX」での取り扱いが予定されているといいます。
まだLINKに関する詳細は明らかになっていませんが、もはや生活インフラとなっているLINEが独自仮想通貨を発行することは、仮想通貨全体の普及に影響するかもしれません。第36回の記事でご紹介したFace Bookの独自仮想通貨「Libra」(リブラ)とともに、メジャーな仮想通貨になる可能性も秘めているでしょう。
Libra発行実現までのハードルは高いですが、Face Bookには世界中27億人分のビッグデータがあるとされていますし、LINEも8200万人以上のアクティブユーザーを有しています。 Libraプロジェクトを率いるデビッド・マーカス氏は、Libraの構想が発表された当時、「40ドルのスマートフォンとインターネット接続を持ってさえいれば、だれでも幅広い種類の金融サービスへアクセスできるようにする」と語っていました。すでに多くのユーザー・ビッグデータを保有している企業であれば、一気に仮想通貨ホルダーを増やすこともできるでしょう。
LINEは、「LINE Token Economy構想」という計画も発表しており、LINE経済圏を構築したいという狙いもあるようです。Token Economyの可能性については、第38回目の記事をご覧ください。
LINEが目指す「手のひら金融」「金融の民主化」
LINEの戦略事業のなかで、金融関連事業は大きな役割を持っています。
「LINE Wallet」を中心に、
・LINEほけんやLINEスマート投資、LINE証券などの「ライフサポート」
・LINE Bank(銀行)やLINEポケットマネー(貸金)の「マネーサポート」
・LINE Pay(決済)の「ペイメントコミュニケーション」
の3つの構成からなる戦略です。
このうちLINKは、ペイメントコミュニケーションの下、フィンテックイノベーションに位置付けられています。仮想通貨が、次世代の決済・送金手段として活用できるであろうというLINEの意図を感じますね。
LINEは、2018年11月27日にみずほフィナンシャルグループと共同で新たなネット銀行「LINE Bank」を設立する計画を発表しました。出資比率は、LINE フィナンシャルが51%、みずほ銀行が49%。まだ準備会社の段階ですが、関係当局の許認可等を得た後、2020年の開業を目指しています。
LINEというアプリ内で、すでに保険や投資、仮想通貨取引などのサービスが可能になっていますが、今後はここにLINE Bankの銀行サービス機能も追加されるでしょう。スマホのアプリでさまざまなサービスが完結しますので、まさに「手のひら金融」ですよね。
LINEは、保険や投資、LINE Payなどの金融領域のサービス以外にも、LINEバイト、LINEショッピングなどの仕事や買い物、娯楽などのサービスも展開しています。LINEバイトで稼いだお金を投資に回したり、LINEショッピングで使ったりと、LINE経済圏は強化されていきそうですね。
なかには、LINKやビットコインなどの仮想通貨で給与を払うなんて企業も出てくるかもしれません。海外に住んでいる経営者の友人は実際、「給与をビットコインやリップル(XRP)で払っていたこともある」と話していました。
よりグローバルな展開を目指すFUSION BANKとFUSION COIN
LINEの構想や戦略は、あくまでも日本国内をメインにしているように見えます。日本の人口は約1億2600万人ですので、小さい市場とまでは言いませんが、世界視野で見れば大きな市場ではありません。
LINEが目指す「手のひら金融」と近しい構想を持ち、よりグローバルに展開していくのが、第6回、26回、33回、45回、49回の記事でご紹介したFUSION BANK(フュージョンバンク)とFUSION COIN(フュージョンコイン)だと私は感じます。
FUSION BANKは、「信頼度の高い金融サービスを提供し、世界中の誰もがアクセスできるように人々をつなぐ」というビジョンを掲げています。FaceBookのLibra構想とも似ていますよね。
FUSION BANKとFUSION COINのロードマップでは、
・法定通貨と仮想通貨の交換(換金)
・主要な仮想通貨と仮想通貨の交換
・仮想通貨とゴールドなど(現物資産)との交換
・仮想通貨を担保として法定通貨を融資するサービス
・仮想通貨自体を融資するサービス
・企業向け融資サービス
・銀行カード(デビットカード)の発行
・分散型投資プラットフォーム
・分散型仮想通貨取引所
・分散型銀行
などの計画が発表されており、以下のサービスの枠組も公開されました。
FUSION BANKサービスの枠組
・換金が最大25法定通貨まで可能になる銀行口座(開設当初はユーロ、ポンド、USドルでの対応)
・イギリスの管轄、FCAの規制をベースに開設された銀行口座(個人/法人)
・SWIFT、SEPA、ACH、BACSおよびCHAPSを介した国内および国際金融取引
・FX外貨交換
・マスターカード、VISAカードの発行
・銀行プラットフォーム内での仮想通貨の交換
・コールドウォレットによる管理
・仮想通貨を担保とするローンサービス
・OTC取引デスクサービス(最低金額は1millionUSドル)
・仮想通貨の取引プラットフォーム(147種類の仮想通貨の取引が可能となる)
スマホ1つで、仮想通貨と別の仮想通貨の交換、仮想通貨と法定通貨の交換、金や不動産などの現物資産への交換、融資サービス、マスターカード・VISAカードでの決済などができるようになると、とても便利ですよね。
価値・資産には、国債や普通預金、定期預金、投資信託、株式、FXなどの「金融資産」。マンションやアパート、オフィスビル、更地、海外不動産、金(ゴールド)、銀(シルバー)などの「現物資産」がありますが、これらと仮想通貨との交換がスマホでスムーズにできるようになると、利便性はますます上がりそうです。スマホを通じて、世界中で投資や資産運用ができるのも良いですね。グローバルに展開すると、スケールしやすいと思います。
次回は、「仮想通貨の10年予想」についてご紹介します。
執筆者プロフィール : 中島 宏明(なかじま ひろあき)
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、SAKURA United Solutions Group(ベンチャー企業や中小企業の支援家・士業集団)、しごとのプロ出版株式会社で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。