ブームは去ったかのようにも感じる「仮想通貨」ですが、その普及は世界中で着実に進んでおり、今後もさまざまなシーンでの活用が期待されています。本稿では、「仮想通貨に興味はあるけれど、なにからどう手を付ければいいかわからない」というような方向けに、仮想通貨に関連するさまざまな話題をご紹介。仮想通貨を2014年より保有してきた筆者の経験から、なかなか人には聞きにくい仮想通貨の基礎知識や歴史、未来像などもわかりやすくお伝えします。
今回のテーマは、「ハードフォークとソフトフォークってなにが違うの?」。
ハードフォークとソフトフォークってなに?
仮想通貨を語るうえで欠かせないキーワードは多くありますが、ハードフォークとソフトフォークもその1つでしょう。ハードフォークとソフトフォークは、どちらもブロックチェーンのアップデートのことです。「フォーク」とは、分岐という意味を持つ言葉ですね。
ハードフォークでは、あるブロックを起点としてブロックチェーンが分岐します。分岐後、新しく生まれたブロックチェーンのルール(検証規則)を変更することで、ブロックチェーンがアップデートされます。
ハードフォークでは、分岐前と分岐後のブロックチェーンに「互換性がない」のが特徴です。古いブロックチェーンも新しいブロックチェーンとは別に存在し続けますが、互換性がないため、同じコインを利用することができません。
また、多くの場合、ハードフォークによって新規コインが生まれるので、アップデートでもありますが新規コインの発行でもあります(新規コインの発行を伴わないハードフォークもあります)。
ハードフォークで新規コインが生まれた有名な例は、「ビットコイン」と「ビットコインキャッシュ」、「イーサリアム」と「イーサリアムクラシック」です。
ハードフォークが行われる理由はさまざまですが、ハッキングなどの不正対応として行われる場合があります。例えば、イーサリアムクラシックが生まれることになったハードフォークは、ハッキング事件が原因で行われました。
しかし、もともとイーサリアムは管理者による管理を行わないことを理想としていたためハードフォークを認めて分岐した流れ(イーサリアム)と、ハードフォークを認めない分岐以前の流れ(イーサリアムクラシック)が生まれ、新規コインが発行されることになったのです。
一方、ソフトフォークでは、ブロックチェーンの分岐はあるものの、分裂前後のブロックチェーンには「互換性がある」のが特徴です。完全な分裂ではなく、一度分岐したブロックチェーンが元のブロックチェーンに吸収される形で収束していきます。
ソフトフォークを行うと、以前の機能や仕組みはそのままに、ブロックチェーンに新たな技術を取り入れることができます。ソフトフォークで有名な例は、ビットコインの「Segwit(セグウィット)」です。
セグウィットとは、Segregated Witnessの略で、取引が増えたことによりデータの処理が追い付かなくなってしまう「スケーラビリティ問題」の解消のために行われたアップデートのことです。スケーラビリティ問題については、第4回の記事をご覧ください。
セグウィットでは、ビットコインのブロックチェーンのサイズを変更することなく、データのサイズを小さくすることで、スケーラビリティ問題を解決しようとしました。しかし、この解決方法ではマイニングによる報酬が減るとして、マイニングを行うマイナーから反発を受けてしまいます。
結果、データを圧縮するのではなく、ブロックのサイズを大きくするハードフォークもセグウィットも先駆けて行われることになり、ビットコインキャッシュが生まれています。
ハードフォークのメリットとデメリット
ハードフォークのメリットは、主に2つあります。
ブロックチェーンの性能が向上する
ハードフォークは、ブロックチェーンをアップデートするために行われるものです。そのため、ハードフォークを行った後は、そのブロックチェーンが抱えていた問題を解決できる可能性があります。さらに、これまでになかった新しい機能が加えられることもあります。
これらは、その仮想通貨を利用する人にとってプラスになるものです。取引のあるコインのブロックチェーンがハードフォークを行う、という情報を手に入れたら、システムの変更点を確認しておくと良いでしょう。
新しいコインが付与される可能性がある
ハードフォークが行われると、多くの場合、新しいコインが生まれます。その場合、分岐前のコインを保有していたホルダー(投資家)へ、ブロックチェーンの分岐前に保有していたコインと同量の新しいコインが付与される場合があります。
例えば、ビットコインを3BTC保有している状態でハードフォークが行われ、新規コインが発行されたとすると、新しいコインが3枚付与される可能性があるということです。
受け取ったコインが将来的に大きな価値を持てば、利益を得られる可能性があります。実際に、ビットコインキャッシュやイーサリアムクラシックは、仮想通貨取引所に上場し(仮想通貨取引所での取り扱いが開始され)大きな価値を付けています。
ハードフォークでそれぞれのコインを受け取った人のなかには、大きな利益を得た人もいたでしょうね。ただし、新規コインの発行や付与は、ハードフォークのすべてのパターンで行われるわけではありません。
ハードフォークによって新しいコインが付与されるかどうかは、仮想通貨取引所の方針によって異なります。新規コインを受け取りたい場合は、ハードフォーク時に新規コインを付与すると発表した仮想通貨取引所にコインを預けておく必要があります。また、生まれたばかりの新しいコインは無価値であることがほとんどです。
一方、ハードフォークのデメリットも、主に2つあります。
仮想通貨を紛失する可能性
新しいブロックチェーンでバグが発生した場合、バグを取り除く前に取引を行うと、コインを消失・紛失してしまう可能性があります。ハードフォークが行われる前後での取引は、慎重に行いましょう。取引は止めておいた方が賢明です。
一時的に取引が停止される
ハードフォークが行われる前後は、仮想通貨取引所によって取引が停止されます。仮想通貨取引所を利用している人は、コインの売買だけでなく、現金への換金もできなくなります。ハードフォークが行われるという情報を入手したら、取引停止による影響を受けないように準備しておくと良いと思います。
ソフトフォークのメリットとデメリット
ソフトフォークのメリットは、コインの紛失リスクが低いことです。ハードフォークが行われる際には、新旧のブロックチェーンに互換性がないため、コインが消失するトラブルが発生するリスクを抱えています。しかしソフトフォークの場合、ブロックチェーンが一度分裂しても、元のブロックチェーンに収束していくため、このようなリスクが低いです。
ソフトフォークによって、取引速度が改善されることもあります。仮想通貨の取引がスムーズに行われるようになれば、それも1つのメリットといえるでしょう。
ただし、ソフトフォークの場合でも、アップデートがうまくいかず、バグが発生してしまうことはありえます。ハードフォークよりも紛失のリスクは少ないとはいえ、アップデート直後の取引は慎重に行うか、取引は止めておいた方が良いでしょう。
ハードフォークやソフトフォークをすると価値変動が起こる?
ハードフォークもソフトフォークも、その仮想通貨・ブロックチェーンにある問題を解決したり、新しい技術を導入したりする場合に行われます。問題が解決されれば、より利便性が向上するということですから、価値が上昇する可能性もあります。ただし、バグが起きたり新たなトラブル・課題が生じたりすれば、もちろん下落する可能性もあります。
安いときに買わないと仮想通貨投資で大きな利益を得ることはできませんから、ハードフォークやソフトフォークが行われるという情報を得たら、そのコインの値動きに注目してみると良いかもしれませんね。
次回は、「仮想通貨の哲学」についてご紹介します。
執筆者プロフィール : 中島 宏明(なかじま ひろあき)
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、SAKURA United Solutions Group(ベンチャー企業や中小企業の支援家・士業集団)、しごとのプロ出版株式会社で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。